ヨーロッパで生まれ、日本でも広まりつつある「プレーパーク」。禁止事項だらけの一般的な公園とちがって「子どもたちの自由な遊び場」であるだけに、事故やトラブルから子どもを守る人間が欠かせません。その存在が、「プレーリーダー」です。「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトに東京でさまざまな「遊び」を仕掛けている一般社団法人TOKYO PLAYの代表理事であり、プレーパークのエキスパートでもある嶋村仁志さんに、プレーリーダーの役割を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
さまざまなバックボーンを持つプレーリーダー
プレーリーダーには、学校の教員のように決まった採用試験があるわけではありません。そのため、子どもの自由な遊びや居場所づくり、住民参加のまちづくりといったものに関心を持っているという共通項はあっても、その背景は人それぞれ。たとえば教育や福祉、保育、まちづくり、社会的企業など、さまざまなバックボーンを持つ人たちが集まってきます。
また、真夏でも真冬でも屋外で過ごすことや、子どもたちと走り回ったり建築作業をしたりすることもあって、比較的若い世代の人が多いのも特徴です。ただ、保護者支援や児童福祉、地域におけるさまざまな関係調整にも深くかかわることから、最近ではもっと上の世代のプレーリーダーも増えていますね。
そんなプレーリーダーにとってまず重要となるのは、「子どもとのかかわり方」といえます。というのも、プレーパークというものが、「子ども」がそれぞれの興味関心に従って「子ども」が自由に遊ぶための場所であり、つねに「子どもが中心」にあるからです。
それぞれの子どもに合わせてかかわり方を変える
そのかかわり方というと、それこそさまざまとしかいえません。「こんなことをやってみたい」という子どもに必要な道具を貸すこともあれば、ふつうの公園とちがって自由度が高いがゆえに遊び方自体がわからないような子どもには遊びの見本を示すということもあります。
もちろん、「こんなふうに遊びなさい」というような見せ方ではありません。自分で遊びをコントロールできることが子どもにとってはいちばん面白いに決まっているのですから、「あ、そんなふうに遊んでもいいんだ!」と子どもに気づかせるような見せ方をするのです。そうして子どもが遊ぶきっかけをつくれたら、気づいたときにはいなくなっている――。そういう在り方がプレーリーダーには大切です。イメージとしては、ときには前に出ることもあるけれど、子どもからは直接見えない少し後ろに控えている感じでしょうか。
そもそも、子どもが自由に遊ぶというときに、プレーリーダーも含めて大人はかかわり過ぎるべきではありません。「この子は自分で遊べる」と思う子どもには、まず任せるというかかわり方をします。そういう意味では、それぞれの子どもをよく観察する必要があります。
いってみれば、風邪をひいている子どもに対するお医者さんの見立てのようなものかもしれませんね。「温かくして寝ていればいいよ」という子どもには、とくになにもする必要はないのです。でも、「薬を出したほうがいいな」という子どもにはなんらかの助け舟を出す、という具合です。
一方で、保護者とのかかわりもプレーリーダーにとって欠かせない役割です。子どもだけでなく、保護者の人たちにも安心してもらうことが大切だとわたしは考えています。わたしもそうですが、親というのはいつでも子どものことが心配なものです。ついつい「あれは駄目、これは駄目」といいたくなるものなので、子どもが遊んでいる姿を一緒に見ながら、保護者に「大丈夫ですよ」と声をかけることもありますね。
ちがったパターンとしては、親自身にも遊んでもらうようすすめることもあります。というのも、親も一緒にその遊びを楽しんでいれば、子どもは親の目を気にすることなく思い切り遊べるものだからです。
徹底的に排除すべき「選びようがない危険」
また、「危険のコントロール」もプレーリーダーの重要な役割となります。プレ―リーダーは、どんな危険も排除するわけではありません。危険にも種類があって、ひとつは「リスク」と呼ばれます。これは、子どもが自分にとってちょっとハードルが高い遊びに挑戦するときに伴う危険です。でも、もしその挑戦が成功したら、達成感を得られるなど大きなリターンを得ることができる。ですから、よほど無理な挑戦をしようとしていない限り、子どもが自分の意志でリスクを冒すことを止めることはありません。
一方で、子どもが自分の意志で「選びようがない危険」もあります。たとえば、子どもの顔の高さに突き出ている針金や、結び目が緩んだロープなどがそれに該当します。それらは「ハザード」と呼び、できる限り排除するようにしています。
また、のこぎりなどの道具を子どもが使うときにも危険が伴います。親の立場からすれば心配になるのも当然です。もちろん、その使い方が明らかに危険だというときにはプレーリーダーが子どもに声をかけて正しい使い方を教えますが、大人のほうがやきもきしてしまっているような場合には「心配しちゃいますよね」と声をかけつつ、「こういうところだけ気をつけていれば大丈夫ですから」と話をすることもあります。
危険とはちがう話になりますが、そういうふうに子どもが道具を使うケースに時々見られるのが、心配することとは別に、子どもに頑張らせようとし過ぎてしまうこと。はじめてのこぎりを使うという子どもなら、集中力を切らさずに最後まで太い木材を切れる子はあまりいません。
そもそも、子どもは「ちょっとやってみたかっただけ」ということも多く、木が簡単に切れないとわかればすぐに別の遊びをしようとします。すると、子どもに「ほら、よそ見しちゃ駄目!」「集中!」なんて声をかけてしまう親もいるのです。それでは、遊びというよりも、作業になってしまいますよね。そうではなく、途中でやめたくなった気持ちも含めて、子どもがやりたいこと、やりたい気持ちの応援をしてあげてほしいのです。少なくとも、「工具に触ってみた」ということが、大きな一歩になるのですから。
個性が表れる初体験時の子どもの姿に要注目
プレーパークに興味を持ち、はじめて行くというときには、ぜひ、子どもの様子をじっくり見てほしいですね。というのも、とくに初体験のときには、子どもの個性が行動にはっきり表れるからです。
最初から「天国だ!」というふうに遊びまわる子どももいれば、どうしたらいいのかわからなくてじっくりと周囲を観察する子どももいる。また、同じように戸惑っているのに、プレーリーダーに「なにをすればいいんですか?」と素直に聞いてくる子どももいますし、いろいろな遊びを全部試したうえで、最終的にいちばん気に入ったもので遊びはじめるようなマメな子どももいます。もしかしたら、このようなプロセスを通して、子どもは親も見たことのないような姿を見せてくれるかもしれません。
プレーパークは子どもが自由に遊ぶための場所ではありますが、親自身も楽しんでもらえたらと思います。プレーリーダーはたしかに、子どもにとっての危険を管理するなど、重要な役割を担っています。でも、子どもをお預かりして、一から十までお世話するといった存在ではありません。ママ友同士のおしゃべりの時間も大切ですので、そこでも満足してほしいと思いますが、それと同時に、子どもが生き生きと輝く姿もぜひ逃さずに見てあげてください。
『子どもの放課後にかかわる人のQ&A50 子どもの力になるプレイワーク実践』
嶋村仁志 他 著/学文社(2017)
■ TOKYO PLAY代表理事・嶋村仁志さん インタビュー一覧
第1回:「本当に自由に」試行錯誤する機会を子どもたちに――“本気の遊び場”プレーパーク
第2回:危険にも種類がある。挑戦が達成感に変わる「リスク」と「ハザード」はどう違うのか?
第3回:火を使う、泥だらけになる、びしょ濡れになる。子どもたちの自由な発想と独創的な遊び方
第4回:やりたいことを目いっぱいやって失敗した。その経験が「折れない心」を育てる
■ 嶋村さんの過去のインタビュー記事はこちら
「遊具なし、プログラムなし。異例だらけの“ガラクタ遊び”が欧州で大人気の理由」
「大切にしたい遊びの“リスク”。子どものチャレンジを支える遊びのルールとは?」
「子どもの工作が“失敗作”でも、親はアドバイスしてはいけない」
「中高生では遅い。子どもが体験すべき「小さな危険」と「小さないたずら」」
【プロフィール】
嶋村仁志(しまむら・ひとし)
1968年8月6日生まれ、東京都出身。子ども時代は野球と自転車と缶けりざんまいの日々を送る。英国・リーズ・メトロポリタン大学社会健康学部プレイワーク学科高等教育課程修了。1996年に羽根木プレーパークの常駐プレーリーダー職に就いて以降、プレイワーカーとして川崎市子ども夢パーク、プレーパークむさしのなど各地の冒険遊び場のスタッフを歴任。その後フリーランスとなり、国内外の冒険遊び場づくりをサポートしながら、研修や講演会をおこなう。2010年、「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトにTOKYO PLAYを設立。2005年から2011年までIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア・太平洋地域副代表を務め、現在はTOKYO PLAY代表理事、日本冒険遊び場づくり協会理事、大妻女子大学非常勤講師。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。