教育を考える 2020.4.6

勝ちにこだわりすぎる「一番病」。他者との比較で自己肯定感は育たない

勝ちにこだわりすぎる「一番病」。他者との比較で自己肯定感は育たない

勝ちにこだわりすぎる、負けそうになると勝負を放棄する――。

そんな子どもの姿に戸惑ってしまっている親も多いようです。これは「一番病」などとも呼ばれ、競争社会で生き抜くためにはある程度必要な素質とも言えますが、周りを巻き込んでまで一番でないと我慢できない、という状態では困りもの。

たとえ負けてしまっても前向きに捉えて立ち上がってもらうために、親はどんなことに気をつけたらよいのでしょうか。

勝ちにこだわるのは、その子の気質が基本

「一番病」を理解するにあたっては、まず、負けず嫌いな性格はその子の持って生まれた気質によるものであると割り切って考えることが必要かもしれません。

アメリカの心理学者であるトーマス博士の研究で見出された9つの気質特徴、これが複雑に絡み合うことで、生まれつき、負けず嫌いだったり、ルールに準じるのが好きだったりという「性分」が出てきます。
その子たちは、「できる自分」が好きで、「できない自分」は受け入れがたいと感じ、親や先生からの指摘で、ひどく落ち込んでしまうのです。
このタイプのお子さんは、基本的には、「言われてもやらない子」ではなく、むしろ「自分でがんばる子」の場合が多く、「いい子気質」である傾向が高いようです。

(引用元:SHINGA FARM|いい子気質に多い!?「間違えるのがイヤ!」その心理と親ができる対策

さらに、気質的に負けず嫌いな子は結果を残すことが多いので、親もつい期待をかけて「できる子」に育てようと突っ走ってしまうパターンが多いんだとか。

子どもが運動会で一等を取ったことに親も大喜びで、ご褒美に欲しがっていたおもちゃを買ってあげたりしたことはありませんか? 子どももそのときばかりは喜ぶものの、じつは逆に「一番になったり、一等賞をとったりしないと、ママやパパは褒めてくれないんだ」と感じてしまっている可能性も高いのです。

「一番病」を克服する方法2

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負けず嫌いな気質を生かすには

「一番病」を克服していくためには、勝ちにこだわる子だからこそ「負けたとき」にどう対応するかがポイントになってくるようです。勝ったときはたっぷりと褒めたりごほうびをあげたりするのに対して、負けたときは「残念だったな。次はがんばれよ!」くらいで済ませてしまっていませんか?

教育評論家の親野智可等先生によると、「負けたくない。勝ちたい」という気持ちは、「がんばりたい」という向上心とつながっているのだそう。ですから、勝ち負けにこだわる子どもの気持ちは受け止めつつ、どんなときでもその子の「がんばり」を褒めてあげましょう。

結果がよかったときは「結果とがんばった過程の両方を褒める」、逆に、結果がよくなかったときは、「がんばった過程を褒める」ことで、勝っても負けても次にまたがんばることができるはずですよ。

ただし、子どもが「勝つまでやりたい!」と何度もゲームを繰り返した結果の勝利については、親が褒める必要はないと、スクールカウンセラーで臨床心理士の福谷徹氏は言います。「それは大人から見てカッコ悪いよ」と子どもに伝えるべきとのこと。自分の都合だけで周りを振り回してまで勝とうとして勝っても、褒めてもらえることはないのだと自覚してもらえればよいのでしょう。

「一番病」を克服する方法3

勝敗をつける遊びをはじめる前に

大阪養護教育振興会によると、幼児期の遊びやゲームなどであれば、「この遊びには勝ち負けがあります。勝つ人がいたら負ける人もいます」と前もって勝敗が分かれることを予告し、「勝ってもいばりません、負けてもおこりません」と遊びのルールを作ったうえで遊び始めるのも有効だそう。負けてしまって悔しがる子には、「勝ちたかったんだね」とその感情を言語化してあげて、自分の気持ちを理解してもらえるという安心感を持たせてあげれば、たかぶった気持ちを抑える一助になります。

一緒に大人が遊ぶ場合にも、大人のほうが負けてしまったときに悔しがってばかりいたり、勝ったら踏ん反り返って自慢したりするような態度をとるのは考えもの。「負けちゃった〜、悔しいけれど楽しかったから、まぁいいか。次は勝つぞ〜」くらいの態度で、おおらかな時間を過ごすように心がけましょう。

東京学芸大学教育学部特別支援科学講座准教授の小笠原恵氏は、著書『うちの子、なんでできないの? 親子を救う40のヒント』の中で、子どもの価値観は大人の価値観を反映していることが多いと言っています。大人が「失敗は成功のもと!」「負けるが勝ちだよ~」と失敗や負けをポジティブに考えていれば、子どももきっと、勝っても負けても楽しい時間を過ごすことができるでしょう。

「一番病」を克服する方法4

勝ち負け以外でも達成感は得られる

どんなスポーツでもボードゲームでも、やっている最中のワクワク感や楽しさはかけがえのないもの。その締めくくりに勝ち負けがあるのであって、たとえうまくいかなかったとしても楽しかった時間や努力した時間がすべて消えてしまうわけではありません。

運動会があれば、順位ではなく、一生懸命走っている姿に目を向けてあげてください。最下位だったとしても、去年より今年のほうが速くなっているはずです。
その子自身を基準にすれば、どんな子でも絶対に伸びています。ほかの子と比べるのではなく、その子自身の過去と比べて伸びたところを評価するようにすると、確かに成長している子どもの実像が見えてきます。

(引用元:高濱正伸・西郡文啓著 (2018年),『ちゃんと失敗する子の育て方』,総合法令出版.)

常に成長過程である子どもにとっては、いかなる勝負事も、「結果がすべて」では決してないのです。

小笠原氏によると、子どもが勝負に負けてしまった場合は「一生懸命走ったからいいんだよ! 次はもっと腕を振ってみよう」というように、がんばった過程をほめたあとに、さらに次に勝てる秘訣を教えるのが有効だといいます。

「一番病」を克服する方法5

昨日までの自分に勝とうと頑張ることが「自己肯定感」につながる

高学年になっても勝ちにこだわるようであれば、勝負の世界のステージを上げてやるとよいそう。そこで、高度な勝負の世界では「相手に勝つ」ことより「自分自身に勝つ」ことが大切であることがわかれば、もう“子ども卒業”です。

他者との比較で自分が優れていれば、分かりやすく自分を肯定できますが、もっと優れている子を目の前にすれば簡単に崩れてしまいます。
揺るぎのない「自己肯定感」をつくるのは、昨日の自分よりも良くなっているという実感です。
「自分はできないことでもがんばって、できるようになってきた。だからまたできないことがあってもなんとかなるだろう」
本物の「自己肯定感」を持つ子はそう考えるようになります。

(引用元:同上)

あのイチローの引退会見でも、「あくまで“はかり”は自分の中にある」「少しずつの積み重ねでしか自分を超えていけない」という言葉がありました。順位や勝ち負けはあくまでもモチベーションを高めるための手段であり、乗り越えていくべきものは自分自身である、ということを親も子も肝に銘じて、小さなゲームから大きな試合まで、「本当の勝ち」を目指して奮闘していけるといいですね。

文/酒井絢子

(参考)
大阪市教育センター|相談事例 3.勝ち負けにこだわる子どもへの対応
ベネッセ 教育情報サイト|負けず嫌いで何にでも優劣をつけたがる娘[教えて!親野先生]
ベネッセ 教育情報サイト|「勝ち」にこだわりすぎる[うちの子、どう接したらいいの?]
SHINGA FARM|いい子気質に多い!?「間違えるのがイヤ!」その心理と親ができる対策
東洋経済オンライン|イチロー引退会見に学ぶ超一流の確固たる心得 人と比べず己とトコトン向き合う男の引き際
AERAdot.|将棋教室がブームの兆し 「負けることで心が強くなる」
小笠原恵著(2011年),『うちの子、なんでできないの? 親子を救う40のヒント』,文藝春秋.
高濱正伸・西郡文啓著 (2018年),『ちゃんと失敗する子の育て方』,総合法令出版.