おすわりができるようになったころ、「やけに静かだなぁ」と子どもの様子を見ると、ティッシュを1枚ずつ、箱からつまみ出しているところだった……。なんて経験をしたことのある方は、多いのではないでしょうか。思えば、そのころから、子どもの「いたずら」は始まっていました。大きくなるにつれ、お友だちや園の先生など、人とのつながりが広がると、いたずらのバリエーションも増えていきます。
思いもよらないいたずらに頭を悩ませている親御さんもいると思いますが、そんな子どもの「いたずら」が、じつは学びにつながっていることをご存じでしょうか?
子どもの「いたずら」は「ダメ」と言っても止まらない
子どもは「いたずら」が大好きです。「ダメ」と言われたことほど、無性にやりたくなってしまうもの。いたずらを仕掛けては、大人やお友だちがビックリする顔を見て、目をキラキラさせて笑い転げている――そんな子どもたちに、みなさんはどのように接しているでしょうか。
たとえば、お子さんが、次のようないたずらをしているのを見たとき、みなさんだったら、どのような反応をするでしょうか。
- 公園の水飲み場の蛇口で、水をジャージャー出しっぱなしにした
- 雨上がりの道端で水たまりを見つけ、長靴を履いてもいないのにジャンプした
- リビングで細かく千切ったチラシ広告を頭上へ投げて、紙吹雪のようにばらまいた
- ママの口紅を内緒で持ち出して顔いっぱいに塗った挙句、口紅を折ってしまった
想像するだけでも、洗濯や後片付けのことを考えてうんざりしてしまいそうですよね。よくある反応としては、「そんなことをしたら周りの人の迷惑になるからダメ!」「服が汚れるからダメ!」「こんなにぐちゃぐちゃにして、誰が片づけるの!」などでしょうか。
しかし、当然ですが、子どもたちは、1回や2回の注意で引き下がるような相手ではありません。ダメと言われようと似たようないたずらを繰り返す子どもに対して、何度も同じように「ダメ」「ダメ」と言うことになります。そのうちにイライラしてきて、最後には感情的に怒鳴ってしまい、自己嫌悪に陥る……。なんて経験がある方も多いのではないでしょうか。
いたずらを通して、子どもはたくさんのことを学んでいる
じつは、大人を悩ます子どもたちの「いたずら」が、彼らの「学び」につながっていることがわかっています。子どもとことば研究会代表で元立教女学院短期大学教授の今井和子さんは、子どものいたずらと脳の発達の関連について次のように述べています。
「子どもがいたずらをしているときって、目が輝いていますよね。それは大脳が反応しているサイン。心が躍動し、興奮している状態です。大脳の前頭葉に興奮と抑制の働きがあるのですが、乳幼児期の脳の発達においては大脳を刺激し興奮する働きを高めることが大切、と言われています。大脳が育たないと、興奮を抑制する働きも育たず、ちょっとのことでパニックになったり、キレたりしてしまうのです。」
(引用元:いこーよ|「いたずら」は、子どもの成長を促すって本当?)
たとえば、公園の水飲み場で水を出しっぱなしにして遊ぶなかで、「暑い時期は気持ちいいけれど、寒くなると冷たく感じる」ことや「服の袖が濡れたら捲り上げにくく、重く感じる」ことに気づけるでしょう。
雨上がりの水たまりを飛び越えようとジャンプして、失敗したり成功したりするうちに、水たまりを飛び越えるための力の入れ具合も調整できるようになります。また、水たまりに足を突っ込むと、澄んでいた水たまりが濁って不思議に思う子もいるでしょう。
ばらまいたチラシ広告がヒラヒラと落ちてくるのを見て、ボールを落としたときの落ち方と違うことに気づくかもしれませんし、鏡を見ながら口紅を塗ると、手の動きが反対に写るので塗りにくいことに気づくかもしれません。
よく「子どもがやけに静かだと思ったら、いたずらをしていた」というエピソードを耳にしますが、この静かな状態こそ、子どもが集中している証。モンテッソーリ教育では「敏感期」と呼ばれ、あるものに強い興味をもって、集中して何度も同じことをする時期だとされています。一生のうちで敏感期は、0歳から6歳ごろにしかなく、6歳ごろから次第に薄れていくのだそう。
いたずらにふけっている子どもの脳は、今まさに敏感期を迎えて、急速に発達している状態なのです。
大人がイライラしないで「いたずら」させるコツ
「いたずら」をしている子どもの脳は、この先二度とない、貴重な発達期を迎えています。とはいえ、いたずらを許せるときとそうでないときがありますよね。我慢強く見守るのは、私たち大人の心に余裕がなければなかなか難しいものです。大人がイライラすることなく、子どもに「いたずら」させるためのコツをいくつかご紹介します。
子どもの脳が急速に発達していることを意識する
まずは、大人自身が心の余裕をもてるように「今、この子の頭の中では、人生に二度とない貴重な発達期が訪れているんだ」と意識してみましょう。いたずらの中にも学びがあることを心にとめ、この子はこのいたずらを通して何を学んでいるのだろうと観察してみるのもいいかもしれません。
「汚れる」問題には、準備やタイミングで対策を
水たまりにどうしても足を踏み入れたい、泥んこや水があれば必ず手を伸ばしていたずらするというお子さんには、着替えの準備をもって出かけるようにしましょう。お出かけ前にいたずらを始めようとしていたら、「早く用事を済ませるから、帰りにしない?」と提案して、服が汚れたらすぐに着替えられるタイミングを選ぶのもいいですね。
リアクションは最小限に
大人がいたずらに反応して怒鳴ったり驚いたりするリアクションをとると、子どもの脳はそれを新しい刺激として受け止め、快楽物質のドーパミンがどっと分泌されます。ドーパミンは「分泌前にした行動に過剰に注意を向ける」作用をもつため、子どもはリアクションを引き出す前の行動(いたずら)を繰り返してしまうのだそう。子どものいたずらには、最小限のリアクションで対応しましょう。
また、大人のイライラをコントロールして見守るべき「いたずら」と、厳しく叱って止めさせなければならない「いたずら」があります。周りの人に迷惑をかけること、自分や相手の体に危険が及ぶことに対しては、何をするとどうなるかを具体的に伝えて、短くビシッと叱ることが大切です。それでも、1回で理解して止めるのは難しいかもしれません。「あと数回は言わなければ」と初めから思っておくと、気持ちに余裕ができますよ。
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大人がどんな対策をとろうと、この年頃の子どもはいたずらを止めることは難しいもの。むしろ、お子さんがいたずらを通して、たくさんの「面白い!」「これって何だろう?」を経験することが、その先の知性や心の安定につながると思って、成長を楽しみにしてみてはいかがでしょう。
(参考)
いこーよ|「いたずら」は、子どもの成長を促すって本当?
プレジデントオンライン|なぜ子供は叱れば叱るほど”悪さ”をするか
オリックス生命|「モンテッソーリ教育で、子育ての予習」第3回 わが子がよ~く見えてくる!子育て予習のキーワード『敏感期』
ベネッセ教育情報サイト|子どものイタズラは成長のチャンス!イライラしないで対処するには?