あたまを使う/英語 2019.9.26

読書スピードが2倍、文章理解が2割アップ!? 読書教育に効果的な「ゲームブック」

吉野亜矢子
読書スピードが2倍、文章理解が2割アップ!? 読書教育に効果的な「ゲームブック」

さて、子ども向けの物語や読書の境界線が広がっている、というお話を以前何度かしました。一昔前まででしたら「読書」の位置付けは「出版された書籍を読むこと」とおおむね一致したと思います。けれども、現在ではボードゲームを含めたゲームが新たな読み物の世界として広がっています

ゲームは必ずしも「読書」と対立するものではなく、文学賞にも含まれるようになり、新たな物語の読み方の一部になりつつあるというお話もしました。オーディオブックのような「聞く」物語もご紹介しましたね。

今回は、ボードゲームとゆるくつながっている「ゲームブック」のお話をしましょう。近年、英語圏では低年齢層の子どもや英語学習者をターゲットにしたシリーズが新たに登場しています。お子さんの読書教育や英語教育に役立つものも見つけられるかもしれません。

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何度も繰り返し読みたくなる! ゲームブックの魅力

「ゲームブック」は、1980年代に英語圏で非常に流行した書籍の形です。「アドベンチャーブック」という名前でご存じの方もいらっしゃるかもしれません。当時、ほとんどは10代向けのファンタジーやSFが中心だったのではないでしょうか。日本語に翻訳されて、日本でも人気を博しました。

一見普通の本のように見えますが、開けてしばらく読んでいると選択肢が出てきます。その選択肢に書いてあるページへ飛んで、続きを読むのです。同じ冒険をしているはずなのに、選択肢によっては宝物を手に入れたり、大怪我をしてしまったり。普通の物語ではありえないくらい、あっけなく死んでしまうこともあります。一度引き込まれると、全てのエンディングを読み終えるまで、何度も繰り返し読みたくなるのが特徴です。

行ったり来たりしながら物語を追うゲームブックは、80年代に大流行した後ずっと下火になっていたのですが、最近になって、人気を盛り返しつつあります。

電子媒体の発達により、「ページをめくる」のではなく「リンクをクリック」することで続きが読める物語が出たり、効果音が入ったサウンドノベルの形になった物語が人気を博したり。スクリーン上で「読む」経験に慣れた私たちの手元に、インターネットが一般に普及する以前のゲームブックが紙の本の形で還ってきたのは、非常に面白いことのように思われます。

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子どもや英語学習者のためのゲームブック

特に私が興味を持っているのは、80年代に流行したようなティーンエージャー向けのゲームブックではなく、より低年齢層の子どもや英語学習者をターゲットにした、教育を視野に入れたゲームブックが登場していることです。

Choose Your Own Adventure は、1976年にアメリカで始まったゲームブックの草分け的なレーベルです。日本では「きみならどうする?」というシリーズ名で出版されました。一時期すっかり下火になったように見えていたのですが、2011年に、面白いことが起きました。McGraw-Hill社が英語学習者をターゲットに、英語力に合わせたグレーデッド・リーダーとして復刊したのです。

グレーデッド・リーダーとは、英語を学んでいる人たちや、本を読むことを学びはじめた子どもたちを対象に、単語や文法の難易度を調整した読本のことです。子ども向けと、大人の一般英語学習者向けでは違うシリーズがでていますが、どちらも「お話を楽しみながらたくさん読んでいるうちに、自然と英語で読む力がついていく」ことを目指しています。

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このシリーズは、外国語として英語を勉強している子どもたちを対象としています。読者の想定年齢は9歳から12歳。ちょうどそのあたりの年齢の子どもたちが興味を持ちそうなトピックとなっています。

月に入植したり、宇宙飛行士となって知的生命体の存在を探査するプロジェクトに参画したり、ウガンダのジャングルでマウンテンゴリラを救うために奮闘したり、妖精や巨人のいる世界へ迷い込みストーンヘンジの謎解明に挑んだり……。

作品ごとに最大で30通りの異なる結末が用意されており、読者が主人公となり自分で選択をしながら読み進めることで、様々な展開を楽しめます。

文章理解も読書スピードも向上! ゲームブックの教育効果

考えてみれば、ゲームブックを英語学習者のためのグレーデッド・リーダーとして作り直すのは、非常に理にかなった選択です。何度も出てくる同じ単語に、同じ場面設定。しかも読み返す理由がきちんと物語そのものに組み込まれていますから、何度も読み返すことが苦になりません。飽きることなく繰り返し読んで、語彙や表現をしっかり定着させることができるでしょう。

さらに、選択肢を選ぶ前には、しっかりとその場面を理解しなくてはなりませんから、能動的に考えながら文章と向き合うことになります。もちろん、自分の選択肢によって物語が変わるので、最後まで興味を持って読み続けられるのもメリットの一つです。

語学学習にある意味向いているとも言えるゲームブックの特徴ですが、ここに目をつけたのが、本を読みたがらない子どもたちと日々格闘しているアメリカの小学校の先生です。

2016年、CYOA社はオハイオ州の小学校で読書指導のスペシャリストをしていたメガン・ホフマン氏の調査結果を紹介しました。8歳から11歳までの子どもたちに、実際に教室で本を読んでもらって行われたこの調査。

通常の物語を読んだ子どもたちの文章理解が22%だったのに対し、ゲームブックを読んだ子どもたちの文章理解は44%に達していた、とホフマン氏は報告しました。ゲームブックによって、文章理解が17%も向上していたのです。1分あたりに読む単語の量も、通常の本で26語、ゲームブックで49語と、約2倍に。読書のスピードが上がったことも伺えます。

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「繰り返し」「幅広く」読むことで、読みの流暢さが向上

2014年にアメリカの教育省から発表された報告書では、読書のスピードが実際の文章理解に影響を及ぼすことが触れられ、流暢に読むためにはどのような訓練をするべきかが、様々な研究に基づいて示されています。そこでは、流暢さを上げるためには「繰り返し読む」ことと「幅広く」読むことが効果的だと結論づけられています。

これ自体は、おそらく多くの先生方や親御さんが経験的に知っているはずです。けれど、「繰り返し読む」ことも、「幅広く読む」ことも、そもそも読書が苦手な子どもにとっては、かなりハードルが高いことです。本当に小さい頃であれば同じ絵本を繰り返し読んで喜んでいた子どもも、少し大きくなると学校の音読の宿題で同じ文章を何度も読むことに抵抗を示すようになったりもします。

どうすれば、飽きさせることなく、読書を楽しいという気持ちを失わせずに、同じ文章を何度も読んでもらえるだろうか。読書が苦手な子どもと日々接している先生方も親も頭を悩ませる問題です。

そんな現状を踏まえて、ホフマン氏は、子どもが飽きることなく繰り返し同じ文章を読めるゲームブックの教育効果は高いのではないか、と提言しています。必ずしも一冊丸々繰り返し読む必要はないのです。2019年現在、Choose Your Own Adventure シリーズは、学校で使えるようなレベル分けのされた読本を多く出しています。

例えば、6歳から8歳向けには以下のようなタイトルが並びます。

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Choose Your Own Adventure が一番古いシリーズですが、同じくらいの年齢の子ども向けにはWalker社の Puzzle Master シリーズなども出ています。さらに、もう少し年齢層が上がった You Say Which Way シリーズ(8〜12歳対象)や、コンピュータゲームのマインクラフトを背景にした Choose Your Own Minecraft Story シリーズ(8歳以上対象)なども加えると、現在、まさにゲームブックの低年齢化はどんどん進んでいると言えるかもしれません。

アレクサ(Amazonが開発したクラウドベースのAI音声認識サービス)のような新たな技術やオーディオブック「Audible」とも組み合わせて、お話を聞きながら選ぶといった楽しみ方もすでに実現しています。紙の本だけでない味わい方もあるのが特徴です。

インタラクティブな物語のメリット

インタラクティブな物語の研究は多岐にわたっていますが、ホフマン氏の調査そのものは一人の教師によるもので、まだまだ初期段階のものにすぎません。けれど、たとえば、インタラクティブな物語には偏見を減らす力があるのではないかとする調査結果もあり、今後、こうした物語が増えるに従って、教育目的の利用も増えていくのかもしれません。

ゲームブックの世界は広く、大西洋を挟んでイギリスでも多くのレーベルが発表されました。児童向け書籍出版では、大手のパフィンレーベルから出版されたファイティングファンタジーシリーズは日本でも紹介されたため、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。日本でも実は純和製のものが発表されていた時期がありました。

私がゲームブックの復活に気づいたのは、実はこういった大手レーベルの作品からではなく、イギリスの書店で下の子どもが何気なく手に取ったこの本のおかげでした。読書は嫌いではないけれど、同じ本を繰り返し読むことのない下の子どもが、何度も何度も繰り返しページをめくっていたのでびっくりしたのです。

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今、再び流行の兆しを見せはじめているゲームブック。日本語のゲームブックはまだまだ、ティーンエイジャー向けの、特に電子媒体のものがほとんどであるように見受けられますが、いずれ紙の本の形で、書店に並ぶ日もくるかもしれません。それまでは、英語学習者向け、子ども向けの英語のグレーデッド・リーダーから、手にとってみてはいかがでしょうか。

(参考)
Connor, C.M, Alberto, P.A., Compton, D.L and R.E. O’Connor, “Improving Reading Outcomes for Students with or at Risk for Reading Disabilities: A Synthesis of the Contributions from the Institute of Education Sciences Research Centers.”, US Department of Education., NCSER 2014-3000., pp32-34.
CYOA Literacy White Paper Final
Megan Hofmann, “Choose Your Own Adventure Books Increase Kids’ Reading Comprehension and Literacy Rates More Quickly Than Linear Stories.” In Choose Your Own Adventure website. 19 May, 2016 (2019年9月16日閲覧)
Scott Parrott, Francesca R. Dillman Carpentier & C. Temple Northup (2017) A Test of Interactive Narrative as a Tool Against Prejudice, Howard Journal of Communications, 28:4, 374-389, DOI: 10.1080/10646175.2017.1300965
“Audible and Chooseco Win VOICE19 Award for Best Brand Interaction for the Alexa “Choose Your Own Adventure” Skill” In Choose Your Own Adventure website. 29 July, 2019 (2019年9月17日閲覧)