あたまを使う/英語 2018.8.10

英語力とは何か? 2020年の新学習指導要領の狙いと言語活動の両輪「CAN-DO」「CAN-SAY」

田中茂範
英語力とは何か? 2020年の新学習指導要領の狙いと言語活動の両輪「CAN-DO」「CAN-SAY」

英語の学習というと、すぐに単語を覚えるとか、文法問題が解けるようにするとか、英文の読解や聴解、さらには英作文とか口頭発表などができるようになる、などを連想する人が多いと思います。そして、何のために勉強するのかというと、英語が使えるようになるためだと多くの人は答えるでしょう。

しかし、実態はどうでしょうか。教科書の中、問題集の中、そして試験の中に英語を閉じ込めているのではないでしょうか。生きた言葉としての英語としてではなく、学習対象の英語という捉え方が主流なのではないかと思います。

新指導要領の狙い:「英語を学ぶ」から「英語を使う」へ

実は、今年の3月に新しい学習指導要領が発表されました。高等学校の場合、英語は、「コミュニケーション英語」「英語表現」「英会話」の3種類の教科書が使われています。これが2020年から、「英語コミュニケーション」と「論理・表現」の2種類になります。

「コミュニケーション英語」から「英語コミュニケーション」に名称が変化していることに注目してください。現行の「コミュニケーション英語」は「コミュニケーションのための英語」という意味合いで、英語の教育に力点が置かれます。一方、新指導要領では「英語コミュニケーション」になり、「英語でコミュニケーション活動を行う」というところに強調点が移ります。「英語を学ぶ」から「英語を使う」へのシフトです。もっというなら、英語は活動の中で学ぶということです。

こういう流れの中で、「英語力とは何か」を改めてきちんと考えておく必要があります。英語力を身につけることが目標であり、その目標こそが、「何」を「どう」提示するかという WHAT と HOW の問題に方向性を与えるからです。それだけではありません。評価のしかたも当然、目標の観点から行われることになります。つまり、目標は何をどう提示し、それをどう評価するかの導きの糸になるということです。目標が曖昧だと、すべてが曖昧になってきます。

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英語力とは? 「タスク・ハンドリング」と「言語リソース」

英語力を定義する鍵は「タスク・ハンドリング(CAN-DO)」という概念と「言語リソース(CAN-SAY)」という概念の2つです。一言でいえば、どういうタスクをどれだけ機能的に、どういった英語の言語リソースを使ってハンドリングできるか。これが英語力の定義です。

すると、英語教育では、タスク・ハンドリングの能力を養成すると同時に、言語リソースを豊かにしていくことの2つに努力が注がれることになります。タスクは言語を使わないで行うものと、言語を使って行うものがあります。

私たちは生きている限り、さまざまなタスクを行いながら生の営みを行っています。買い物をする、犬を散歩に連れて行く、食事を作る、近所の人と談笑する、住宅のことで値段交渉を行う、などがここでいうタスクです。個人によってその内容や種類は異なりますが、言語を使うタスクを思いつくままリスト化すれば、以下が含まれます。

  • 自己紹介を行う(興味・関心を含める)
  • 週末何をしたかを語る
  • 友人との雑談の中で、ある朝の行動について語る
  • ある人物について外見と性格を語る
  • ある商品の解説を5分で行う
  • あるレストランでの1コマ(意外なこと)を語る
  • 好きな男性に自分の思いをしっかり伝える
  • ある会議で議長を務める
  • 自分の町の様子を説明する
  • 外国の友人にある場所から自宅まで来る道順を説明する
  • 中華料理とフレンチを比較して語る
  • 国益に合うようにTPP交渉を行う
  • 学会で研究発表を行う

このタスク・ハンドリングの力のことを英語教育では CAN-DO と呼びます。小中高の英語教育の目標は「英語で何ができるか」というタスクに注目した捉え方が中心にならなければならないのです。入試の英作文を解くのもタスクのひとつです。英語力は生徒ひとりひとりの人生において大切な力であり、入試はその通過点でしかありません。

英語力とは何か? 2020年の新学習指導要領の狙いと言語活動の両輪「CAN-DO」「CAN-SAY」2

CAN-DO と CAN-SAY は言語活動の両輪

しかし、これだけではタスクの CAN-SAY(言語リソース)面がまったく考慮されていません。上述したように、CAN-DO と CAN-SAY は言語活動の両輪です。そこで本来は、タスクと使用する言語リソースに関する情報があって、タスクの難易度やハンドリングの可能性が判断されるはずです。

例えば「電話でレストランの予約をする」というタスクを考えてみましょう。このままでは難易度の判定はむずかしいでしょう。しかし、以下の情報が加わるとどうでしょうか。

タスク:電話でレストランの予約をする
can-say:「日時」「人数」「庭に近い席を希望」「ネクタイの着用を確認」

このタスクをこなすためには、例えば以下のような表現をすることが必要となります。

  • マディソン・パークでございます。ご用件をどうぞ。
    Madison Park. May I help you?
  • 木曜の夕方に予約を取りたいのですが。
    I’d like to make a reservation for Thursday evening.
  • 4人です。
    There will be four of us.
  • 庭園の近くのテーブルをお願いします。
    Can we have a table near the garden?
  • ネクタイとジャケットの着用が必要ですか?
    Do you require a coat and tie?

「人数・日時を告げて予約する」際の表現としては、“reserve a table for three”(3人分のテーブルを予約する)、 “at eight”(8時に)、 “tonight”(今晩) なども含まれます。また、希望の時間が取れないときに交渉する必要が出た場合、タスクの難易度は高くなる可能性があります。

その際の表現としては “What time is available?” (何時なら予約が取れそうでしょうか)や “When do you expect an open table?” (いつテーブルが空くでしょうか)などがあります。

言語リソース(CAN-SAY)の3つの力

言語リソースには、単語力と文法力と慣用表現力の3つが含まれます。英語の単語を知らなければ何も表現できません。単語だけでは、内容を十分に伝えることはできません。そこで、文法力が必要となるのです。

よく「文法ではなく会話を勉強したい」と言う人がいますが、文法のない言語は存在しません。言語を話す人は、必然的にその文法力を持っているのです。「あらゆる文には文法の血が流れている」と述べた言語学者がいますが、言い得て妙です。

そして、慣用表現力です。この言葉は初めて耳にする読者が多いと思います。ある表現が反復され、決まり文句のようになっているものを、慣用表現といいます。日本語であれば、「おはよう」「こんばんは」「ごちそうさま」「よろしくおねがいします」といった決まり文句のことをいいます。

幼児期に英語圏に行き、そこで何年か過ごしてバイリンガルになったという人がいますが、最初の時期は、“Count me in.”(仲間に入れて)、“Way to go!”(よくやった!)、“So what?”(だから?)、“Just because.”(ただなんとなく)、“Hang in there.” (がんばって!)など決まり文句を耳から覚え、それを反復的に使うことで友達と遊び、遊びの中で英語力を身につけていくという経験をしているようです。

このように、英語力とは何ですか、という問いに対しては、「言語リソースを使って、タスクをハンドリングする力」と答えることができます。英語を教える際にも、生徒の言語リソースを豊かにするだけでなく、生徒のタスクをハンドリングする力をつける方向で指導する必要があります。教師がこのことをしっかりおさえておけば、生きた英語力を生徒に身につける指導が可能になるでしょう。