家族で海外旅行に行ったり、毎日世界のニュースを目にする昨今、「外国」に興味を持つ子どもたちはたくさんいるはず。世界にはどんな場所があって、そこには何があり、どんな人たちが住んでいるのでしょうか。
そんな興味をさらに掻き立てるのにおすすめなのが、ミロスラフ・サセック作の「子どもの世界旅行シリーズ」、いわゆる“This isシリーズ”です。
絵本でありながら、ガイドブックまたは教科書と言ってもいいほどの内容の濃さ、魅力的なイラスト満載の親子で楽しめる名作をご紹介します。
ミロスラフ・サセックとThis isシリーズについて
サセックは1916年にチェコスロバキアのプラハで生まれました。画家志望でしたが、両親の反対もあり建築を学びます。1948年にプラハを離れてミュンヘンに移った後の1959年に、シリーズ第1作目の「This is Paris」が誕生しました。その後、このシリーズは全18冊が出版され、人気を博します。
1959年には「This is London」で、翌1960年には「This is New York」で、ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本大賞を連続受賞するなど、絵本作家、イラストレーターとしてのサセックの夢が叶ったのです。
サセックは、実際に旅した現地で全ての絵を描いたそうです。愛嬌のある可愛らしいイラストでありながら、細かく書き込まれたディテール、リアリティのある街の風景画は、その光景を目の前にして描かれたものだと思うと納得ですし、そこには建築で学んだスキルも生かされているのでしょう。写真のように正確な描写でありながら、息を吹き込まれたように生き生きと、写真よりも魅力的なイラストなのです。
1980年、サセックは旅先のスイスにて亡くなってしまうのですが(享年63歳)、「もっとたくさんの街をサセックの目と筆を通して見てみたかった!」と残念でなりません。
This isシリーズの楽しみ方
1. “教科書”として読む
This isシリーズの内容は、ひと言でいうと「街の紹介」です。
絵本と思って読むと、その本格的な“紹介”に驚かれることでしょう。街の歴史、エリアの特色、観光地、人々の生活に至るまで、実に的確に言葉と絵で説明されています。それぞれの場所の特色は絵の色味にまでこだわって表現されていて、空気感まで伝わってくるように違いがわかります。行ったことがある場所ならなおさらです。
文字も多く、絵本と言ってもミニ知識も含め、小学生のお子さんには学びの多い本となるでしょう。だからと言って堅苦しくなく楽しめるのが、最大の魅力です。(※古くなった情報は巻末で最新情報がアップデートされています)
2. “自分の「This is どこそこ」をつくる”
日本復刻版の日本語訳を担当しているのが、味わいあるエッセイが人気の文筆家・松浦弥太郎氏です。とつとつとした語り口調と心地いい言葉のリズムが、サセックの緻密な描写の風景画と表情豊かな人々の絵と雰囲気に、とてもしっくり馴染んでいます。
松浦氏は昔からサセックに愛着を感じていて、復刻版実現の折には大変な尽力をされています。それだけ、子どものみならず大人をも魅了する絵本なのです。
その松浦氏がインタビューの中で楽しい提案をされています。
わたしの『This is New York』とか、
僕の『This is Paris』、あるいは、
『This is 中目黒』、『This is 表参道』でもいい、
自分なりの『This is どこそこ』を作る。
そんな旅をしてみたらどうかな、って。
(引用元:ほぼ日刊イトイ新聞|松浦弥太郎さんにきく、旅のはなし)
サセックのスタイルをまねて、自分の好きな場所のThis isシリーズを作ってみるのは楽しそうですね! 親子で一緒に旅した場所なら一緒に、お父さんお母さんだけが旅したことがある場所なら、サセックの本になぞらえながら子どもに想い出を語る形でも。
旅行の計画がある場所なら、「This isプロジェクト」として準備して、帰国後に親子でアルバムを作るようにまとめるのもいいかもしれません。外国でなくても、国内の好きな場所を調べてみるのも楽しい学びにつながりそうですね。本を読んだ後も、ぜひ自分なりの楽しみ方を見つけてみてください。
This isシリーズおすすめ5選
1. 『This is Paris』
シリーズ第1作目。パリを旅行中だったサセックは「子どものための旅行本を作ろう!」と閃きます。ページを開けて最初の言葉は「さあ、到着しました」。パリの全景とともに、一気にその世界に引き込まれます。エッフェル塔や凱旋門、ルーブル美術館など、パリの街を散策している気分にさせてくれます。サセックが街角で見た光景がそのまま焼き付けられているかのようなイラストにパリの魅力が輝く1冊です。
2. 『This is London』
シリーズ第2作にしてシリーズ中ベストと言われる1冊(ニューヨークタイムズ最優秀絵本大賞受賞作品)です。始まりは、いきなり「なんにも見えないけれど」と、霧のロンドンの場面。パリに比べると少しどんよりした空気感とグレイッシュな色味が“ロンドン”をよく表しています。「バスに乗るには行列に並ばなければいけません」と、ずらりと並ぶ乱れない列には「日本と同じだね!」などの発見もありそうです。名物の2階建バスに乗って、楽しくロンドン観光しましょう!
3. 『This is New York』
ニューヨークタイムズ最優秀絵本大賞、アメリカ青少年クラブ児童文学最優秀賞をダブル受賞した、シリーズ代表作です。ニューヨークという都市の起源から始まり、見上げる摩天楼、行き交う車や人々、人種のるつぼならではのエリアごとの特色など、ざわざわと忙しいニューヨークの雰囲気がページから伝わってきます。それもそのはず、サセック本人が後に本の中で語っています。「あんな場所は生まれて初めてだった。毎日とにかく忙しく動き回って、それは本が完成するまで続いたよ。(筆者抄訳)」ヨーロッパで暮らすサセックには、ニューヨークは少し雑然としすぎていたのでしょうか。彼の気ぜわしさも本のエッセンスとなっているようです。
4. 『This is Ireland』
“現存する本の中で一番緑色の本”! そう、緑はアイルランドの色です。バスもお店も制服も、なんでも緑のイメージです。それがアイルランド。1都市がテーマのものが多いのですが、これは国全体がテーマ。はじめに国の地理、歴史、人口などが解説されていて、アイルランドの概要について知ることができます。郊外には荒涼とした自然が広がり、湖や古城や遺跡などがあり、総じて静かでトーン低めの空気感が漂います。筆者はアイルランドに行ったことがあるのですが、まさに”This is Ireland”が表現された1冊です。
5. 『This is United Nations』
国ではなく、国連がテーマ。本が書かれた1968年当時は、まだ国連が世界平和の希望の星でした。国連の役割や加盟国(国旗で表示)、国連ビル内部の紹介にいたるまで、国連という組織と世界平和への学びを得るのに素晴らしい教材です。今の世界と国連の現状とを比べて、親子で平和について考えるいい導入になるでしょう。難しいお話も可愛らしいイラストで楽しく学べます。
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1960年前後に書かれたシリーズなので、情報など古くなる部分もありますが、その魅力が衰えることはありません。それは、サセックが自分の目で見て感じて、土地の本質を見抜いて忠実に表現しているからなのではないでしょうか。ノスタルジーも加わり、さらに輝きを増している気さえします。読んだらきっとお気に入りの場所が見つかるはず。ぜひ手にとって親子で“世界旅行”を楽しんでみてください。
写真◎長野真弓
(参考)
SPACE SHOWER BOOKS|ミロスラフ・サセック生誕100周年!
ほぼ日刊イトイ新聞|松浦弥太郎さんにきく、旅のはなし
This is M.Sasek