こんにちは。life styleに「絵本の力」を取り入れ、楽しみながら成果を出し、より良い未来を手に入れる方法をご提案している、絵本スタイリスト®景山聖子です。
最近、語彙力を身につけるための大人向けの本が多数発刊されています。特に、テレビでもおなじみの教育学者、齋藤孝先生の「大人の語彙力ノート」は、発売から半年で17万部を超えているようです。
なぜ、大人になってから、これほどまでに語彙力に関心が集まるのでしょうか?
齋藤孝先生によると、語彙力は、就職活動の合否や、ビジネスにおける信頼の構築、収入アップにまで関係してくる重要な力だそうです。
今、大人の言葉遣いが問題になっています。(中略)言葉の比重は、どんどん大きくなっています。これはもうすでに就活の時期からはじまっています。
(引用元:齋藤孝(2017),『大人の語彙力ノート 誰からも「できる!」と思われる』, SBクリエイティブ.)
そのため「今からでも語彙力を身につけたい」と思う大人が増えているのです。日々の仕事で忙しい中、語彙力をつけるために、わざわざ時間を割いて、努力しているのだとか。
さて、この「語彙力」。お子さんが将来困らないように、ラクして語彙力を身につける方法があるとしたら、あなたはどうしますか?
実は、そんな夢のような方法が存在するのです。その秘訣は「絵本の読み聞かせ」。
お子さんに絵本を読み聞かせてあげるだけで、自然と語彙力が鍛えられます。その上、多くの言葉を理解することで、文章理解力も増します。さらには、小学校で全教科の先生の話がより深く理解できるようになります。
その結果、学力の高い子どもが育ちます。でもなぜ、絵本の読み聞かせだけで、語彙力が育ち、学力の向上を図ることができるのでしょうか? 今回は、その謎に迫ります。
絵本の読み聞かせで言葉の「記憶力」が高まる
「語彙力」とは、どれだけ多くの言葉を知っているか、そしてその言葉をどれだけ適切に使えるか、ということ。
脳医学を勉強にも応用している脳神経外科医の林成之教授は、多くの言葉を記憶するのを助ける脳の神経細胞「海馬回」について、こう言っています。
脳は、情報が多角的に重なることで、より強く記憶する仕組みを持っています。(中略)海馬回には、複数の情報が入ることで興奮し、その機能が高まるという特質があります。
(引用元:林成之(2011),『困難に打ち勝つ「脳とこころ」の法則-ゾーンと海馬があなたを強くする-』, 祥伝社.)
そのため、覚えるときは文字を追うだけでなく、声に出して読んで、絵を見ることも大切なのだそうです。
「文字」「声」「絵」と聞いて、何かを思い出しませんか? そう、「絵本の読み聞かせ」です。
この3つが揃う絵本の読み聞かせを通して、複数の情報を一度に取り込むことで、海馬回の機能を高めることができます。その結果、言葉を記憶する力が向上します。
これが、絵本の読み聞かせによって語彙力が伸びる1つめの理由です。
本1冊分の大量の言葉と文が、自然と子どもの記憶に残るようになるのです。覚えるのに、努力も苦労もいりません。
私は絵本スタイリスト®としての活動を通して、一度しか読んだことのない絵本を暗記し、一言一句違えずに呟いているお子さんに大勢出会いました。そこにはこんな理由が隠されていたのですね。
また、3人の息子さんを灘高から東大理Ⅲへ全員合格させたことで話題の佐藤亮子ママは、語彙力をつけるために「3歳までに1万冊」の絵本を読み聞かせたそうです。
幼少期から多くの語彙を覚え、知識を確実に増やすために、理にかなった方法を実践していたといえます。
1,000回単語の説明を聞くのと同じ効果がある「一枚の絵」
さらに「絵の力」について付け加えましょう。定番の絵本に「昔話」があります。
「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが、すんでいました。」という文章で始まる昔話。挿絵には、緑多い里山の風景に、かやぶき屋根の家、おじいさん、おばあさんの姿などが描かれています。
さて、昔話の絵本でよく見られる「かやぶき屋根」。あなたのお子さんはこの言葉を知っていますか?
日本の原風景の象徴ですが、今では、生活の中でほとんど見られなくなってしまいました。そのため「かやぶき屋根」という言葉を知らない子どもがとても多いのです。
イギリスには「a picture is worth a thousand words(一枚の絵は1000の言葉に値する)」ということわざがあります。つまり、1枚のかやぶき屋根の絵は、かやぶき屋根についての1000回分の説明に相当するのです。
読み聞かせの場で、絵と言葉を直感で一致させる子や、後から親と一緒に辞典を開いて確認する子が多いのですが、時間が経っても絵の効果は消えません。
ずっと心に留めていて、旅先の白川郷で、実物のかやぶき屋根を直接目にし、感動とともに初めて腑に落ちた子の「あのね、あのね!」の報告は、今でも私の心に残っています。
タイミングは人それぞれですが、絵と言葉が一致したとき、1,000回分の学びとなります。そして、今まで知らなかった言葉の意味が、一瞬で心に深く刻まれるのです。
このように絵本は、絵そのものも「言葉の宝庫」となっています。これが、絵本の読み聞かせによって語彙力が豊富になる2つめの理由です。
究極の読み聞かせテクニックとは?
語彙力を育てるのに効果的な「絵本の読み聞かせ」。継続するには、親の読み聞かせ方がとても重要になります。
以前、こんなことがありました。代表を務めるJAPAN絵本よみきかせ協会のイベントで、ある小学校の1・2年生全員に、総勢20名で読み聞かせに行ったときのことです。
事前に読み聞かせに使う絵本のリストを学校側へ提出しました。その中の1つが、松尾芭蕉の「奥の細道」の俳句の絵本。
学校側からは当初「俳句は3年生以降に学び、まだ生徒にはわからないので他の絵本に変えて下さい」とお話がありました。
しかし私たちは、ある確信があり、それでも「奥の細道」の読み聞かせを実施できるよう、学校側の了承を得て準備を進めました。
さて当日、何が起こったでしょうか?
なんと、子どもたちは「奥の細道」の絵本の中の言葉「そこで一句」を、全員で楽しそうに合唱し始めました。
さらには、自分でも俳句を読みたいと言い出しました。最後には、代わる代わる読み手の隣に喜んで出てきて、自分たちで俳句絵本を表現するほどの意欲を見せてくれたのです。
「俳句っていうんだ」「おもしろいね」と笑っていた子どもたちの、キラキラした瞳を今でも覚えています。
「奥の細道」の絵本の読み聞かせを担当したOさんは、俳句が大好き。俳句への愛が全身ににじみ出ているような方でした。
「俳句のおもしろさを、ぜひ子どもたちに伝えたい……。」そのまっすぐな想いだけで、読み聞かせをしました。
実は、敏感な子どもたちには、大人の内面が伝わりやすいもの。Oさんの俳句に対する情熱を肌で感じたために、子どもたちは読み聞かせに夢中になったのです。
ですから、学力向上の究極の読み聞かせテクニックは「親自身が楽しむこと」。
学力向上のためだけに絵本を与えると「読み聞かせをしなければいけない」という義務感や焦りを感じ、読み手が純粋に楽しめなくなることもあるでしょう。すると、大人の意図が子どもに伝わってしまいます。
その結果、残念ながら、絵本の時間が嫌いになるお子さんがたくさんいます。つまり「子どもの学力を上げたいから、むりやりにでも読み聞かせをする」のでは、逆効果。
「親子ともに、楽しいから、絵本の読み聞かせをする。その結果、子どもの学力が向上する」。これが正しい順番です。
子どもの学力の大規模調査の結果
2013年の文部科学省の全国学力・学習状況調査の結果では、幼少期に読み聞かせをしてもらった経験が学力向上に繋がることが判明しています。
高校・大学受験だけでなく、すでに中学受験でも、今は大量の文章を短時間に読みこなす力が問われます。
絵本の読み聞かせを多く経験した子どもの中には、テストで論文や物語文の読解問題を解くときに、まるで絵本を読んでいるかのように情景が頭に浮かび、簡単に高得点を取る子がいます。
難しい論理展開でも、あたかも絵本のページをめくり、挿絵を見ているかのように、頭の中でパッとイメージできる。複雑な感情が入り交じる物語でも、登場人物の気持ちがすぐに読み取れる。
こんな魔法のような現象が起こることさえあるのです。
もちろん、必ずしも学力だけが、子どもの人生の幸せを左右するわけではありません。しかし、幼少期に親子で楽しむ絵本の読み聞かせが、子どもの未来をより良いものに変えていることは、間違いないでしょう。
(参考)
齋藤孝(2017),『大人の語彙力ノート 誰からも「できる!」と思われる』, SBクリエイティブ.
林成之(2011),『困難に打ち勝つ「脳とこころ」の法則-ゾーンと海馬があなたを強くする-』, 祥伝社.
日本経済新聞(2014年3月28日号)「年収高いほど好成績 文科省、全国学力テスト結果分析」
平成25年度 全国学力・学習状況調査 報告書・調査結果資料
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