こんにちは。life styleに「絵本の力」を取り入れ、楽に成果を出し、楽しい未来の選択ができるようになる方法をご提案している、絵本スタイリスト®景山聖子です。
レストランやデパートのトイレなど、最近至る所で、こんな言葉を見かけませんか?
ママAさんは、よくおもちゃを投げつける5歳の息子さんに手を焼いていました。そこで、同じような言葉がけをしてみました。
すると息子さんは、二度とおもちゃを投げなくなったそうです。普段「おもちゃは投げてはいけません!」と叱るものの効果はなく、最後はいつも怒鳴ってしまっていたAさん。
何をしても変わらなかった子どもの行動が、たった1回の言葉がけで、ぱったりと止まったのです。
今回は、なぜ言葉遣いに大きな威力があるのか、そしてそれを絵本の読み聞かせに活用する方法をお話しします。
「否定命令」がもたらす効果
アメリカの精神科医であり、心理学者のミルトン・エリクソン博士は、言葉の使い方によって人の心についての多くの困難な事例を解決した人です。
後に弟子たちによって構築・体系化された、博士の言葉を選ぶ手法の一つに「否定命令」というものがあります。これは「~しないでください」という言い方。よく使われる例をご紹介しましょう。
いかがですか? これを聞くと、あなたの頭の中には、ピンクの象が浮かんできませんか?
「○○を思い浮かべるな! 考えるな!!」と否定命令されると、ついそれを思い描いてしまうもの。言われれば言われるほど、ますます言われたことをしてしまうのが、否定命令の大きな効果です。
では「おもちゃを投げるな!」「トイレを汚すな!」というお母さんからの言葉を聞くと、子どもは何を思い浮かべるでしょうか。
そう、「おもちゃを投げている様子」「トイレが汚れている風景」ですね。たとえ「投げるのはやめようね」「投げちゃだめだよ」と優しく言っても、同じこと。
子どもの頭の中には「投げている」イメージが浮かんでいるので、つい実際に投げたくなってしまうのです。このように否定命令は、イメージが浮かぶ方向へ素直に従いたくなるような感覚をもたらします。
ですから、問題行動を辞められないのは子どもだけの責任ではありません。大人が言い方を工夫することで解決できることも多いでしょう。
現に、子どもを叱ってもその子の行動が変わらないときは、否定命令での言い方が多いようです。例えば「こぼさない!」「食べ物で遊ばない!」「ぐずぐずしない!」「騒がない!」。
そうではなく「トイレは綺麗に使いましょう」「いつも綺麗に使ってくださり、ありがとうございます」のように、こう言い換えてみることをおすすめします。
- おもちゃはそ~っと置こうね。
- いつもおもちゃを大切にしてくれて、ありがとう。
これが、子どもに悪い癖を辞めてもらいたいときに効果を発揮する話し方です。
「否定命令」の絵本への応用
否定命令の原理を応用した、最近人気がある絵本に「ぜったいにおしちゃダメ?」(ビル・コッター著、サンクチュアリ出版)があります。
2017年8月に発売され、すでに10万部を超えている話題の絵本です。1万部超えればベストセラーと言われる絵本業界では、大ヒット作品。参加型の絵本なので、3、4歳のお子さんへの読み聞かせに私も使ってみました。
この絵本にはひとつだけルールがあるよ。このボタンを押しちゃダメ
(引用:ビル・コッター(2017),「ぜったいに おしちゃダメ?」,サンクチュアリ出版.)
こう読み聞かせた途端、何が起こったでしょうか?
もうお分かりのように、子どもが何人もすぐに前に出てきて、絵本に描かれているボタンの絵を押したのです。なぜなら、子どもの頭に浮かんでいるイメージは「ボタンを押している自分」だから。
「ボタンを押さない!」と言われた子どもたちが集ってこの絵本のボタンを押すように、親が言えば言うほど、子どもは注意されたことを続けてしまうものなのです。
「ピグマリオン効果」でほしい未来を手に入れる
教育心理学に「ピグマリオン効果」という言葉があります。
ピグマリオンはギリシャ神話に登場する人物。自分で彫った女性像に恋い焦がれたピグマリオンが、神の力でその像を本物の人間に変えてもらったという神話にちなんでこう名付けられました。
「ピグマリオン効果」とは、相手に期待することで、相手もこちらからの期待に応えようとするため、最終的に「期待通りの結果」を得られる現象のこと。
心理学者の植木理恵さんは、ピグマリオン効果の名付け親であるドイツの心理学者ローゼンタールの興味深いデータを紹介しています。
ローゼンタールは、このテーマに関して大変大胆な試みを行っている。小学生の名簿を見ながら何人かをランダムに指さし、「この子は将来、天才になります」と、担任の先生にデマを吹き込むという試みだ。(中略)そして一年後。驚くべきことに、その五人の成績は、予告どおり「本当に」、驚異的なものに変貌していたのだ。
(引用:植木理恵(2010),「本当にわかる心理学」,日本実業出版社.)
なんと、担任の先生がローゼンタールの言葉を信じ「この子は天才になる」と思って子どもたちに接しただけで、その「期待」が「現実」と化したというのです。
このように、ピグマリオン効果には目を見張るものがあります。
例えば、普段あまり笑わない子どもに対して「君はよく笑う子だね」と、期待を言葉にして信じ続けたらどうなるでしょう。その結果、期待通り本当に、よく笑う朗らかな子になってゆくことが多々あるのです。
絵本の読み聞かせに「ピグマリオン効果」を生かすと効果絶大
3歳の女の子Bちゃんは、最近妹が生まれ、お姉ちゃんになりました。お母さんは赤ちゃんのお世話で忙しく、Bちゃんはいつも焼きもちをやいてばかり。ついには「邪魔しないで!」と叱られてしまいます。
そこで、お母さんに「ちょっとだけ」(瀧村有子:作、鈴木永子:絵、福音館書店)を読み聞かせてもらうことにしました。
この絵本は、ママが赤ちゃんにかかりっきりになり、忙しいママに迷惑をかけまいと、何でも自分でやってみようとするお姉ちゃんのお話。
そしてお母さんがBちゃんにこの絵本を読み聞かせた後、一言だけ、こう伝えるようにお願いしました。
するとBちゃんは、その日からすぐさま、お母さんを思いやり、何でも自分でしようと頑張るようになったのです。
絵本は、ピグマリオン効果の「期待すること」の部分を担います。
例えば、おもちゃの取り合いをやめ、友だちと仲良く遊べる子になってほしいなら皆と譲り合って遊ぶ子どもの話を、一人で身支度ができる子になってほしいなら自分から進んで準備をする子どもの話を選びましょう。
そして絵本を読み聞かせてから、お母さんは子どもにこうなってほしいという思いを込めて「○○ちゃんみたいだね」と言い、後は子どもを信じ続けてください。
このプロセスを何度も繰り返すだけで、期待が現実化し、子どもの行動が変わっていきます。怒ることなく子どもを良い方向へと導く方法として、おすすめの読み聞かせ術です。
100回叱るより1冊の絵本
私の読み聞かせ講座を通し、子どもを叱ってばかりいる自分を責めてしまうというお母さんに大勢出会います。
「ダメでしょ!」「勉強しなさい!」「早く!早く!」「またなの!」と、お母さんの毎日はイライラと我慢の連続。自分の時間は取れず、過酷な生活の中で、つい子どもに感情をぶつけてしまうこともあるでしょう。
物語やドラマの中に出てくる、いつもニコニコ笑顔の素敵な母親になんてなれない……。これが、講座にいらっしゃるママのリアルな現状のように私は感じています。
でも、絵本で皆さん変わります。だってお母さんは、本当は我が子と「幸せな思い出」を重ねたいのです。理想のママじゃないかもしれないけれど、自分なりに精一杯、我が子を愛しているからです。
「100回叱るより、1冊の絵本」
ぜひ、ピグマリオン効果を活用して絵本を読み聞かせてみてください。無意識のうちに発していた「否定命令」によって子どもとのやりとりを悪化させていたならば、積極的に言葉を変えてみてください。
親子は「いつからでも」やり直せます。
だれでも、どこからでも、いつからでも……。
楽で幸せな子育てを、「絵本の読み聞かせ」で、現実のものにしていきましょう。
(参考)
鈴木信市監修(2011),「日本一やさしいNLPの学校」,ナツメ社.
植木理恵(2010),「本当にわかる心理学」,日本実業出版社.
ビル・コッター(2017),「ぜったいに おしちゃダメ?」,サンクチュアリ出版.
瀧村有子 作, 鈴木永子 絵(2007),「ちょっとだけ」,福音館書店.