2013年にユニセフが発表した「先進国における子どもの幸福度調査」で総合1位になった国、オランダ。その国の子どもたちがどのように学んでいるか気になりますよね。
“入試・テストなし” “チャイムなし” “時間割自由”
これはオランダのある学校のスタイル。しかもそこで子どもたちは自由に学びながら自立できる人間に育っていくと言うのです。今回は日本ではまだあまり知られていないその教育法をご紹介します。
宗教や教育方針で学校を選ぶことができるオランダ
オランダ建国精神であった「宗教の自由」は、多民族が共存するようになった今のオランダ社会で“寛容の精神”として根付きました。その精神は教育への姿勢にも現れており、憲法は「学校選択の自由」と「教育方法の自由」を保障しています。
学力や住む場所にかかわらず、誰でも宗教や教育方針などによって学校を選ぶことができるのです。4〜18歳まで学費は無料。たとえ遠くの学校に通うことになっても、なんと交通費も公費で負担されるそうです(税金から控除されます)。
オランダには様々な教育方法の学校がありますが、どの学校でも一般的な初等教育の学年の区切り方は次の通りです。
- 低学年 4~6歳
- 中学年 7~9歳
- 高学年 10~12歳
また、義務教育は5歳からですが、任意で4歳から入学できるので、4歳の誕生日を迎えたら学校に通うことができるようになります。そのため入学式はありません。日本との大きな違いですね。
ドイツで生まれオランダで普及したイエナプラン教育
数多くの教育方法があり、選択の自由もあるオランダで、有名なモンテッソーリ教育と同じくらい多くの学校(220校以上)が採用する教育法が「イエナプラン」です。
この教育法は1924年にドイツのイエナ大学でペーター・ペーターゼン教授が始めた教育モデルが発端となりました。そして1960年代にオランダで初めてのイエナプラン校ができて以来、急速に普及。それは「自立と共生」という観点において、その教育法とオランダ社会の考え方が似ていたためではないでしょうか。
では次に教育内容についてみていきましょう。
イエナプラン教育、5つの特徴
イエナプランの教育理念は「人間を育てる」こと。そのために必要なのが、「論理力」「自己管理能力」「思いやり」の3つの要素とされています。そして教育のベースにある概念が「皆それぞれ異なる存在である」ということ。
年齢、民族、宗教などの違いを厄介と思わずにお互いから学び、助け合い、家庭的な関係と環境を築けるようになるアプローチが随所にみられ、健常児も障害児も一緒に助け合いながら仲良く学んでいます。
このような教育理念に基づいて学校では具体的にどんな活動が行われているのか、その5つの特徴をご紹介します。
1. 異年齢の子どもたちで成る学級編成(ファミリー・グループ)
低学年・中学年・高学年それぞれの3学年にわたる子どもたちで「ファミリー・グループ」が作られます。例えば、【4歳/10人】、【5歳/10人】、【6歳/10人】の30人が同じ低学年クラスとなるのです。
担任教師は「グループ・リーダー」とされ、そして新学期になると年長者(例でいうと【6歳/10人】)は上のグループ(7~9歳の中学年クラス)へ、下から年少者が新たに入ってくる、という循環を繰り返します。自分の立場が毎年変化することでグループ内での各役割を順番に体験し、これが社会に出た時に相手の立場を理解できる人になるために役立つのだそうです。
2. 教室はリビングルーム
イエナプランでは教室は「リビングルーム」と捉えています。毎年新学年になると先生と子ども達で部屋の構成を考えて整えます。部屋の中心には共同作業用の大テーブルが置かれることが多いそうですが、自分たちや先生の席、読書用ソファ、調べもの(PC)コーナーなどは話し合って決めます。
3. サークル対話
イエナプランで多く設けられるのが「サークル対話」の時間です。学校によっては毎日というところも。これは、輪になって、自分のことやその日のテーマについて発表や話し合いをするというもの。
先生はファシリテーター(中立の立場で進行をサポートする人)として参加します。「人前で話すことに慣れる」「自分の意見を持ち説明できる論理性を身につける」「違う意見にも耳を傾ける」という効果が期待できます。
4. 科目によらない時間割
イエナプランでは時間割は科目ごとではありません。教育の中心となる4つの活動に沿ったスケジュールが立てられ、これら4つの活動が循環することによってよい成長がもたらされると考えられています。
会話
サークル対話
遊び
学習効果のあるゲーム、演劇やダンスによる感情表現など
仕事
課題を意識して達成する学習のことで自立学習と共同学習があります。特に自立学習では、先生と相談しながら自分のペースで1週間単位の時間割を作ります。その結果、もし実行できなければ「なぜできなかったのか」を先生と話し合います。自分で決め、守ることで自立性と責任感が育まれるのです。
催し
ミニ学芸会(毎週末最後の1時間を使って行われる)や誕生会、季節の行事などで喜怒哀楽を共有し「共に生きる」ことを体感する機会となります。
5. ワールドオリエンテーション
これは教科の枠を超えた総合学習で、学校全体で決めた同じテーマについてグループごとに考え、話し合い、プレゼンテーションをして学びを得るという取り組みです。このカリキュラムはオランダで特に大きく発達したのだそうです。
テーマは、「環境」「技術」「労働」「コミュニケーション」「時候や年間行事」「共存」「人生」などの人が生きる上で関わる7つの経験領域に“時間”や“空間”の要素を組み合わせたものをバランスよく取り上げていき、年間で8~9つのテーマに取り組みます。同じテーマの中で、学年ごとに適した題材を選びます。例えば、「地形と環境」というテーマならば、低学年は「冬の野鳥」、中学年は「冬木の枝」、高学年は「冬眠動物」といったふうです。
問いかけから始め、皆で計画して学習するプロセスで、知見を広げ、異なる他者との協働を学びます。また、教科の枠にとらわれない幅広い学びを得ることができます。
日本でのイエナプラン
日本ではあまり知られてきませんでしたが、日本でのイエナプラン教育普及の第一人者とも言える教育研究者リヒテルズ直子氏により2006年に紹介され、2010年には日本イエナプラン教育協会が設立されています。
その後、テレビ番組でも取り上げられて注目され始め、2019年には日本で最初のイエナプラン校である大日向小学校が長野県佐久穂町に開校しました。オランダで成功したバックグラウンドもあり、新たな教育としてこれから注目されそうです。
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教育評論家の尾木直樹氏は「オランダの教育は日本の教育の3周先を行っている」とテレビでおっしゃっていました。イエナプラン教育の柱とも言える「20の原則」を見ると、人間・社会・学校の各視点から人の成長を広くバランスよく考えていることがわかります。そして、義務教育の時から教育方法を選べる自由。日本にはないシステムに学ぶところは大きいのではないでしょうか。
(参考)
日本イエナプラン教育協会
FutureEdu TOKYO|オランダで普及している「イエナプラン」教育から学ぶ、21世紀にふさわしい全人教育の形
Wikipedia|イエナプラン教育
UNICEF|先進国における子どもの幸福度 日本との比較 特別編集版
日本テレビ|another skyオランダ