「言葉」で書いて「絵」で届ける
子どもに「表現力のある作文を書かせたい」と思っている親御さんは多いでしょう。実は子どもの表現力を磨くことは、そう難しいことではありません。それどころか、コツさえつかめば、とても簡単です。表現力が磨かれていくと、作文能力も飛躍的に伸びていきます。何よりも子ども自身が書くことを「楽しい」と感じるようになります。
ポイントは、「『言葉』で書いて『絵』で届ける」ことです。
表現力のある作文ほど、読んだ人の頭のなかで、パっと絵(場面)が思い浮かぶものです。この書き方ができるようになると、読む人が作文の内容に興味をもちやすくなります。もちろん、内容の理解も深まります。
「絵」で届ける方法のひとつが「オノマトペ」の活用です。「オノマトペ」とは、「擬声語」のことで「擬音語」と「擬態語」を合わせたものです。
【擬音語:物が発する音や声を描写した言葉のこと】
例→グラグラ、ガタガタ、ドテッ、クシャ、ドッカーン、ガチャン、チャリン、プップー、ドドドッ、ヒューヒュー
【擬態語:状態や心情、様子など、音のしないものを音として描写した言葉のこと】
例→びくびく、ハラハラ、そわそわ、グダグダ、イライラ、とぼとぼ、しくしく、うとうと、キョロキョロ、シャキッ
オノマトペの絶大な効果とは?
以下、【1】と【2】の文例を読み比べてください。【1】はオノマトペを使っておらず、【2】はオノマトペを使っています。
【1】めのまえに、ふじ山が、あらわれたのです。
【2】めのまえに、ふじ山が、ドーンとあらわれたのです。
【1】ぼくは、おそばをすすりました。
【2】ぼくは、ズズズッと、おそばをすすりました。
【1】ごはんを食べたら、げんきが出た!
【2】ごはんを食べたら、モリモリッとげんきが出た!
【1】足がしびれて立ち上がれなくなりました。
【2】足がジンジンして立ち上がれなくなりました。
【1】きずがいたむ。
【2】きずがズキズキいたむ。
【1】クルマが走りぬけていきました。
【2】クルマがビューンと走りぬけていきました。
【1】犬のなき声が聞こえました。
【2】クンクンと犬のなき声が聞こえました。
【1】ジュースをのみました。
【2】ジュースをゴクゴクのみました。
【1】ひとりで家にいたら、しずかで、さみしくなりました。
【2】ひとりで家にいたら、シーンとしていて、さみしくなりました。
【1】おともだちが、ぼくの手をひっぱりました。
【2】おともだちが、ぼくの手をグイッとひっぱりました。
いずれの文例も、「絵」としてイメージしやすいのは、【1】よりも【2】ではないでしょうか。もっと言えば、【2】には【1】にはない「躍動感」や「リアリティ」が感じられます。どちらが表現力のある文章かは言わずもがなでしょう。
子どもたちが大好きな漫画でもオノマトペは効果的に使われています。主人公の顔の横に「ビクっ」と書かれていると、驚いた顔の表情と相まって、主人公の驚きがより増幅して伝わります。ものによっては、いっさい吹き出し(台詞)がなく、オノマトペだけで、場面説明するようなページも少なくありません。ときにオノマトペは、文章による説明以上に、読む人にリアルな情報を届けてくれるのです。
漫画を例にあげるまでもなく、子どもたちは感覚的にオノマトペが大好きです。たとえば、男の子であれば、ヒーローに変装して登場するときに「ジャーン」などと言うのではないでしょうか。あるいは、アクセサリーが好きな女の子であれば、「この宝石はキラキラしていてかわいいでしょ?」などと言うのではないでしょうか。子どもが日常のなかで自然と使っているオノマトペを、作文のなかに取り入れない手はありません。
オノマトペに正解はない
「あしたはクリスマスだからワクワクする」「さむくてブルブルふるえました」など、オノマトペには、お約束的な表現も少なくありませんが、子どもにオノマトペを書かせるときは、できるだけ子どもの自由な発想・感性に任せましょう。
先ほど紹介した文例のひとつです。この場合のオノマトペも「ドーン」が正解というわけではありません。
- めのまえに、ふじ山が、バキューンとあらわれたのです。
- めのまえに、ふじ山が、バコッとあらわれたのです。
- めのまえに、ふじ山が、ジョジョッとあらわれたのです。
- めのまえに、ふじ山が、ブゥオーンとあらわれたのです。
- めのまえに、ふじ山が、ニョロッとあらわれたのです。
- めのまえに、ふじ山が、ジジッとあらわれたのです。
- めのまえに、ふじ山が、ブ~~~ンとあらわれたのです。
オノマトペに間違いはありません。くれぐれも「『ジョジョ』なんておかしいでしょ?」などと無粋なことは言わないでください。大事なのは、その子が自分でその言葉を選んだという事実です。人とは違うオノマトペが出てきたときほど「すごいね」「いいね」「かっこいいね」「すてきだね」と子どもを褒めてあげてください。
文豪・宮沢賢治も愛したオノマトペ
もっとも、まだ作文慣れしていない子どもに「オノマトペを使って書きなさい」と言っても、難しいかもしれません。仮に「めのまえに、ふじ山が、あらわれたのです」と書いたとしたら、「どんなふうに現れたのかな? 現れた様子に音をつけてみようか!」と自然な形で誘導してあげてください。
また、日頃から、オノマトペを使うゲームを、親子で楽しむのもおすすめです。バナナを食べながら「食べている様子を『モグモグ』以外の音で表現してみよう」とか、「お父さんが怒っているときの様子を音で表現してみよう」とか。どんなお題でも構いません。親子のコミュニケーションも促されるうえ、情景や様子、自分の気持ちなどをオノマトペで表現するいいトレーニングにもなります。
かの文豪、宮沢賢治は、オノマトペの名手としても知られています。「風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました」(『注文の多い料理店』より)などが一例です。彼の作品が老若男女に愛されたのは、その独特でリアリティのある情景・感情描写にあったのかもしれません。
賢治のみならず、世の子どもたちもまたオノマトペの名手です。自由な発想に彩られた子どものオノマトペは、作文の魅力とクオリティを格段に高めます。もちろん、オノマトペで表現する楽しさを知った子どもは、作文を書くことが好きになるでしょう。