「一番っ子」のように親や祖父母から大きな期待や関心を注がれるわけでもなく、末っ子のように存分に甘やかされて育つわけでもない「間っ子」。そのことによって、一般的にはのほほんとお気楽な性格に思われることも多い間っ子ですが、「きょうだい型人間学」を専門とする国際基督教大学の磯崎三喜年先生は、「間っ子には間っ子ならではの気苦労がある」といいます。間っ子にはどんな特徴があり、親はどのように育ててあげるべきなのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
周囲と自分との適度なバランスを意識する間っ子
「上から目線」という言葉があります。親という上の立場の存在があるにしろ、つねにきょうだいのなかで優位にある一番っ子の場合、「上から目線」の態度を取りがちです。でも、たとえ下のきょうだいがいても、間っ子の場合はそうはなりにくい。なぜなら、上にも下にもきょうだいがいることで、人間関係におけるバランス感覚を身につけるからです。わたしは「人あたりがいい」という表現を使っていますが、高い調和性を間っ子は持つようになるのです。
これはきょうだいとの関係に限ったことではありません。友だちなど周囲のあらゆる人間が相手であってもそう。露骨に「自分が上だ」なんて態度を取ることなどなく、周囲と自分との適度なバランスというものをいつも意識するのが間っ子の特徴です。
また、いまは「空気を読む」という言葉もありますが、間っ子のバランス感覚は空気や状況を読むことにもつながります。たとえば、家族の人数がいまよりずっと多かったむかし、食べものが少なくて困っているような状況において、自分が食べることを遠慮するようなことが間っ子には多かったのです。
穏やかな間っ子はどんな仕事に就いても受け入れられる
間っ子は周囲と自分との適度なバランスを意識しますから、性格も荒っぽくなく穏やかだということもひとつの特徴です。一番っ子の場合も末っ子の場合も、なにか「これだ!」と思う決断をしたなら、それを成し遂げるために取る手段はつい激しくドラスチックなものになりがちです。
たとえば、歴史的に見ても変革期においてギロチンを使うような荒っぽい手段を使ったリーダーには一番っ子や末っ子が多いのです。一方、間っ子はそうではない。日本の戦国時代において、戦国武将・浅井長政の娘たちである浅井三姉妹のなかで、徳川氏と豊臣氏のあいだの調整役を果たしたのが間っ子の浅井初だったというのは有名な話です。
そんな優れたバランス感覚や穏やかさを持っている間っ子の場合、やはり人と接するような職業が向いているといえるでしょう。接客業や営業職に向いていることはもちろんですが、人と適切にかかわれるという点で看護師にも向いています。もっといえば、そもそもまわりと良好な関係を築けますので、基本的にはどんな仕事をしても周囲に受け入れられやすいともいえます。
また、経営者になっても独りよがりな経営手法を取るのではなく、クライアントや取引先など周囲と揉めごとを起こすようなことなくスムーズに経営をすることができます。間っ子の経営者の代表格としては、ソフトバンクグループの孫正義さんが挙げられますね。
ちなみに、日本の歴代首相にもっとも多いのも間っ子です。これも、優れたバランス感覚を持ち合わせているからでしょう。とはいえ、このことに関しては、むかしは7人きょうだいや8人きょうだいも珍しくなく、間っ子の絶対数が多かったということも大きな要因だと考えられます。
社会がギスギスしはじめているのは間っ子減少の影響?
いま、間っ子はどんどん減っています。子ども自体の数が減ってひとりっ子が増えていますし、きょうだいがいるとしても3人以上というケースが減っているからです。いまの世の中は、自己責任論が幅を利かすようになってくるなど、かつてと比べてギスギスしはじめているようにも感じています。それも、もしかしたら人あたりが良くてバランス感覚に優れた間っ子が減っていることと関連があるのかもしれません。わたしの立場からすれば、間っ子という研究対象が減っていること自体が問題でもあるのですが……(苦笑)。
さて、そんな間っ子に対して、親はどんな子育てをするべきでしょうか。人あたりが良く、周囲と揉めごとを起こすようなこともないのですから、間っ子に対しては基本的に親が心配する必要はあまりありません。ただ、わたしは、なによりも間っ子の気苦労に気づいてあげてほしいと考えています。
人あたりが良くバランス感覚に優れた間っ子は、親からすれば基本的に手がかからない子どもです。たしかに、親や周囲の関心が向きやすい一番っ子や末っ子に比べれば、間っ子は気楽だという側面もあります。でも、その気楽さの裏では、周囲のバランスを取るために、自分の気持ちを表に出すことなく悩んでいたり我慢していたりすることもあるのです。
ですから、その我慢強さに気づいてあげてほしいですね。「気が利くね」と間っ子の特性そのものを褒めてあげてもいいですし、「あまり気兼ねせずに自分がやりたいようにやってもいいんだよ」と、自分の気持ちに素直に従ってもいいことを伝えてあげてください。そうすれば、間っ子は自分の気持ちを表現し、持っている力をもっと伸び伸びと発揮できるようになるはずです。
『きょうだい型人間学: 性格と相性を見ぬく』
磯崎三喜年 著/河出書房新社(2014)
■ 国際基督教大学教養学部名誉教授・磯崎三喜年先生 インタビュー一覧
第1回:きょうだいの有無や生まれ順、子どもの性格形成にどこまで影響する?
第2回:高学歴を得やすい「一番っ子」。でも大きな期待をかけすぎないで――
第3回:優れたバランス感覚や穏やかさを持っている「間っ子」は手がかからない!?
第4回:何度失敗しても再び立ち上がる「末っ子」。大化けする可能性あり!
第5回:末は研究者か芸術家!? きょうだいがいないことで自信を持つ「ひとりっ子」
【プロフィール】
磯崎三喜年(いそざき・みきとし)
1954年2月1日生まれ、茨城県出身。国際基督教大学教養学部社会心理学名誉教授・博士(心理学)。茨城大学卒業後、広島大学大学院で社会心理学を専攻。広島大学助手、愛知教育大学助教授を経て2001年より現職。社会的状況における人間心理、友情ときょうだい関係など、対人関係に潜む心理機制をさまざまな角度から追求・発表している。主な著書に『現代心理学 人間性と行動の科学』、『マインド・スペース 加速する心理学』、『マインド・ファイル 現代心理学はどこまで心の世界に踏み込めたか』(いずれもナカニシヤ出版)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。