教育を考える 2019.11.5

きょうだいの有無や生まれ順、子どもの性格形成にどこまで影響する?

きょうだいの有無や生まれ順、子どもの性格形成にどこまで影響する?

増加傾向にあるひとりっ子家庭とちがって、複数の子どもを持つ親なら、子ども同士のきょうだいげんかが絶えないと悩んでいる人もいるでしょう。でも、そもそもきょうだいげんかは悪いものなのでしょうか。お話を聞いたのは「きょうだい型人間学」を専門とする国際基督教大学の磯崎三喜年先生。磯崎先生は、「親はもっと悠然ときょうだいげんかを見守っておくべき」だといいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

子どもの性格の形成には数多くの要因が影響を与える

きょうだいの有無や生まれ順がその行動特性や性格にどんな影響を与えるかということについては、「長男だからこうだ」というふうに安易にいえるものではありません。というのも、その行動特性や性格の形成には数多くの要因が影響を与えるからです。

もちろん、生まれ順はそのなかでも非常に大きな要因です。たとえば、下にきょうだいがいる第一子には「自分がいちばん上だ」という意識がある。その意識も要因のひとつですし、その意識に伴う自分の立ち位置、その立ち位置による家族のなかでの役割、また周囲から期待される役割なども行動特性や性格の形成に影響を与える要因です。

それらさまざまな要因に焦点をあてながら、きょうだいの有無や生まれ順によってどんな行動特性や性格になりやすい傾向にあるかを探るのが、わたしが専門のひとつとしている「きょうだい型人間学」です。

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きょうだいの数が多いほど離婚率が低い

その研究の成果として、興味深いものをひとつ紹介しましょう。それは、アメリカで行われた「きょうだいの数と離婚率の関係」についての研究です。じつは、きょうだいが多いほど、大人になったときの離婚率が下がることがわかっているのです。

その要因としては、きょうだいが多いほど、ときにはけんかをしたり、そのあとで仲直りをしたりというふうに、小さい頃からきょうだいのなかでのさまざまなやり取りを通じて揉まれ、対人スキルが磨かれることが考えられます。

また、年齢が上がるにつれてきょうだいの存在をポジティブにとらえるようになることも研究によってわかっていますが、それもきょうだいが多いほど離婚率が下がる要因のひとつでしょう。小さいときには、きょうだいの存在を「うっとうしい」というふうに感じることもありますが、年齢が上がるうちに「きょうだいっていいものだ」という感覚を持つようになります。

すると、結婚生活でなにか問題が生じたときに、お互いに子どもの頃からよく知っているきょうだいに相談するケースが多いのです。そういう身近で信頼できるネットワークを持っていることが、離婚率の低下に大いに役立っているのではないでしょうか。

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2歳差以内の男の子同士が持つ強いライバル意識

そういう点で、きょうだいの存在はとても有意義なものです。でも、複数の子どもがいる親のなかには「こどものきょうだいげんかが絶えない」「きょうだい間のライバル意識が強すぎる」というふうに悩んでいる人もいるかもしれませんね。

2歳差以内のきょうだいの場合は、互いに対するライバル意識が強まる傾向にあります。年齢差が離れていれば、なにをするにも下の子は上の子にかなわくてあたりまえだと思いますし、上の子も年齢が離れている下の子に対して張り合うのは大人げないと感じて、それぞれがちがいを受け入れます。でも、年齢差が近ければそうは思わない。互いに負けまいとするわけです。

とくに年齢が近い男の子同士の場合は、その傾向が顕著。というのも、どうしても歴史的、文化的な役割から、男子の場合は本人も周囲も社会的な成功をつかまなければならないという意識が強く、きょうだいさえも自然とライバルとみなす傾向にあるからです。よく引き合いに出されるのが、つねにライバルとして見られてきた大相撲の若貴兄弟ですね。

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きょうだいげんかは必要以上に口出しすべきではない

若貴兄弟は、ふたりとも横綱にまで上り詰めました。互いが切磋琢磨することを思えば、きょうだい間のライバル意識は決して悪いものではありません。でも、ものごとには必ず両面があります。強すぎるライバル意識が悪い方向に働いて、きょうだいの仲が悪くなってしまうようなことは親なら避けておきたいことでしょう。

だとしたら、子どもたちが目指す方向性、志向性――「オリエンテーション」が重ならないようにすることをおすすめします。たとえば、子どもたちの一方が野球をするなら一方にはサッカーをさせる。同じ水泳を習うにしても、互いに種目を変えて一方は自由形で一方は平泳ぎにする。ピアノを習うなら、一方はジャズピアノで一方はクラシックピアノにするという具合です。そうすれば、互いが必要以上にぶつかることなくより快適な関係を築いていけるでしょう。

とはいっても、わたし自身は、親が変に考えて手出し口出しするべきではないと考えています。先に述べたように、きょうだいは年齢が上がるにつれて自然と互いの存在をポジティブにとらえて仲が良くなっていくものです。たしかに、親からすればきょうだいげんかが絶えなければ心配にもなるでしょう。でも、それも子どもたちが将来的に良好な関係を築くためのひとつのプロセスなのです。

きょうだいげんかやきょうだい間のライバル意識なんて、あってあたりまえ。そういうふうにとらえて、親はもっと悠然と見守っていてほしいと思います。そうして、徐々に現れる子どもたちそれぞれの個性や特徴を感じて、楽しんでほしいですね。

※本記事は2019年11月5日に公開しました。肩書などは当時のものです。

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きょうだい型人間学: 性格と相性を見ぬく
磯崎三喜年 著/河出書房新社(2014)
きょうだい型人間学: 性格と相性を見ぬく

■ 国際基督教大学教養学部名誉教授・磯崎三喜年先生 インタビュー一覧
第1回:きょうだいの有無や生まれ順、子どもの性格形成にどこまで影響する?
第2回:高学歴を得やすい「一番っ子」。でも大きな期待をかけすぎないで――
第3回:優れたバランス感覚や穏やかさを持っている「間っ子」は手がかからない!?
第4回:何度失敗しても再び立ち上がる「末っ子」。大化けする可能性あり!
第5回:末は研究者か芸術家!? きょうだいがいないことで自信を持つ「ひとりっ子」

【プロフィール】
磯崎三喜年(いそざき・みきとし)
1954年2月1日生まれ、茨城県出身。国際基督教大学教養学部社会心理学名誉教授・博士(心理学)。茨城大学卒業後、広島大学大学院で社会心理学を専攻。広島大学助手、愛知教育大学助教授を経て2001年より現職。社会的状況における人間心理、友情ときょうだい関係など、対人関係に潜む心理機制をさまざまな角度から追求・発表している。主な著書に『現代心理学 人間性と行動の科学』、『マインド・スペース 加速する心理学』、『マインド・ファイル 現代心理学はどこまで心の世界に踏み込めたか』(いずれもナカニシヤ出版)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。