あたまを使う/サイエンス/プログラミング 2020.11.13

“ほぼ無意味” な復習をしていませんか? 学習内容をすべて記憶する「正しい復習方法」

今木智隆
“ほぼ無意味” な復習をしていませんか? 学習内容をすべて記憶する「正しい復習方法」

個々人の経験則ではなく、統計データなどの科学的根拠に基づいた知見を入れて教育をとらえ直そうという「エビデンス・ベースド」の考え方を手がかりに、さまざまな視点から算数教育を見つめてきた本連載。今回からは2回にわたって、データから見えてきた正しい学習法のヒントをご紹介したいと思います。

自宅での学習は、大きく分けて「予習」と「復習」のふたつに分類できます。みなさんは、どちらに力を入れていますか? 勉強しているのに成績が伸びない……と悩む人は、じつは「復習」を軽視しているケースが多いことがデータからわかりました。逆に言えば、復習を上手に日々の勉強に取り入れれば、伸び悩んでいた成績をグッと成長させることができるかもしれません。

今回は、データに基づいた「正しい復習方法」についてお話しします。

学習内容をすべて記憶する「復習のタイミング」

まずはこちらのグラフをご覧ください。

学習内容をすべて記憶する「正しい復習方法」1
※画像はRISU Japanにて作成

これは、「エビングハウスの忘却曲線」と呼ばれるグラフ。いままでの経験と関係ないことを記憶したときに、人間がどれくらいの期間でそれを忘れてしまうかを表しています。このグラフからわかるのは、人間は、物事を記憶した1日後にはその74%を忘れてしまうという事実(本来はもっと複雑なデータなのですが、ここではこれくらいの理解で大丈夫です)。私と同じ40代で、「最近物忘れがひどくって……」と嘆いている人がいますが(笑)、もともと人間の記憶力は、私たちが想像している以上に頼りないものなのです。

次に、こちらのグラフをご覧ください。

学習内容をすべて記憶する「正しい復習方法」2
※画像はRISU Japanにて作成

グラフの青い線は通常の記憶の定着率、オレンジの線は復習をした場合の記憶の定着率を表しています。このグラフは、学習から2日目に10分」・「学習から7日目に5分」・「学習から30日目に2〜4分の復習を行なうことで、学習内容のほとんどを覚えておけることを示しています。

適切なタイミングの復習が、記憶の定着率をアップさせるのです。逆に言えば、復習を適切に行なわなければ、せっかく学習した内容もどんどん忘れてしまうのです。これらのグラフから、正しい復習の重要性がおわかりいただけたと思います。

学習内容をすべて記憶する「正しい復習方法」3

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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やり方によっては「ほぼ無意味」の復習とは?

たしかな算数の力を身につけるために欠かせない復習ですが、やり方によっては「ほぼ無意味」になってしまう危険もあります。

そのやり方とはズバリ、「総復習」

よく、子どもの算数の実力に不安を感じるおうちの方から、「ちゃんと総復習をさせてください」とお言葉をいただきます。でも、じつは、総復習で得られる効果は微々たるもの。かかる時間の割に、効果が少ない復習方法だと言えます。

総復習には、「いい点数がとれて安心してしまう」という落とし穴があるのです。たとえば、子どもが学期末の総復習テストで90点をとってきたら、おうちの方は「うちの子はちゃんと理解できているんだ」と安心しますよね。でもそこで注目すべきは、じつは落とした10点。そもそも、総復習テストの役割は、「わかっている単元」と「わかっていない単元」を明らかにすることだけです。間違えた問題をしっかり見直し、その単元に戻って勉強して初めて、総復習テストは意味を持ちます。

本来復習とは、テストで間違えた問題だけではなく、つまずいた単元の土台となる単元を見直して初めて効果があるもの。総復習で理解できていない単元を洗い出し、一から復習するのも手ではありますが、それにはかなりの時間が必要になります。長期休みに総復習を始めたものの、時間がかかりすぎて中途半端なまま新学期を迎えてしまった……なんてことにもなりかねないのです。

学習内容をすべて記憶する「正しい復習方法」4

総復習をする前に、「4つの土台」を見直そう

では、総復習にあまり効果が望めないとしたら、どんな勉強をすればよいのでしょうか。お子さんの算数の実力に不安を感じたら、総復習ではなく、まず次の4つの大きな単元を見直すようにしてください。

  • 2〜3桁の位の理解
  • 図形の組み立て、立体の基礎
  • 目盛りの読み方
  • 円と直径・半径の理解

 
第3回連載『10億件の学習データから判明。算数の苦手は「位」「単位」「図形」の3つに分類できる!』でも少し触れましたが、これらはほかの単元と多く関連している、いわば「算数の土台」となる単元。さらに、統計データを調べると、これらは多くの子どもが苦手だと感じている単元でした。つまり、これらの単元を十分に理解できていないために、その先の範囲でつまずいている子どもが多いのです。

効率的にいままでの学習を見直したいのなら、この4つの大きな単元を復習させてみることをオススメします。

学習内容をすべて記憶する「正しい復習方法」5

モチベーションアップの魔法「レベル上げの可視化」

とはいえ、一度やった範囲をもう一度勉強しなければならない復習は、なかなかモチベーションが上がらないもの。私も、子どもの頃は復習が大嫌いでした(笑)。最後に、復習のモチベーションアップの秘訣をお教えしましょう。

算数はさまざまな単元を少しずつ積み上げて、より難しい範囲に進んでいく「RPGゲーム」のようなもの。そして、「復習はRPGのレベル上げ」です。私が提供しているRISU算数では、そのことを子どもにわかってもらうためにある仕組みを採用しています。

RISUの問題のクリア条件は50点以上なのですが、50〜99点だと、評価として星3つ中2つがつきます。100点をとるまで、星3つの評価はつきません。100点をとると、星が1つ増える。この仕組みは、いわば「レベル上げの可視化」です。レベル上げを、子ども自身の目に見える形にすることで、成長を実感しながら復習することができるのです。

こうしたRISU算数の仕組みは、ご家庭での心がけにも応用できます。たとえば、お子さんが復習で100点をとったら、それをめいっぱいほめてあげましょう。90点から100点への点数アップは些細なことに見えるかもしれません。しかし、その10点分をたっぷりほめてあげることが大切です。場合によっては、復習に対してご褒美をあげるのも効果的でしょう。復習の効果を、子どもに気づかせてあげること。それが、子どもを復習に向かわせるために最も有効な方法なのです。

次回は、自宅学習のさまざまな方法について、統計データを比較しながらご紹介したいと思います。お楽しみに。



10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方
今木智隆 著/文響社(2019)
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■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧
第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方
第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない
第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題
第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法