あたまを使う/教育を考える/サイエンス 2021.4.16

ドリルを解くより効果的! 子どもの計算力を鍛える超簡単な方法

今木智隆
ドリルを解くより効果的! 子どもの計算力を鍛える超簡単な方法

こんにちは、今木智隆です。2020年8月より15回にわたり執筆してきた『いまの教育で本当に大丈夫? 学びノベーション』も、いよいよ今回で最終回となります。

データに基づく科学的な知見によって教育をとらえる「エビデンス・ベースド」の考え方のもと、「子どもたちの豊かな才能を伸ばす教育」のあり方を探ってきた本連載。これまで、「算数のニガテの原因」や「効率的な学習法」から、コロナ禍が浮き彫りにしたオンライン教育の課題まで、さまざまなテーマで「いま本当に必要な教育」をお伝えしてきました。

前回の連載では、算数を学ぶことで身につく「論理的思考力」は、社会に出てからも、理系・文系にかかわらず強く求められるということをお話ししましたね。「論理的思考力」は、IT化が進むこれからの未来を生きるうえで、必須の能力なのです。

今回は連載のまとめとして、子どもが学ぶことの楽しさに気づき、将来にわたって自分自身の才能を伸ばしていくために重要なことをお伝えします。

「親が文系だから、子どもも文系」という思い込み

子どもが算数でつまずいてしまったとき、こう考えるおうちの方がいらっしゃいます。

「私が算数が苦手だったから、この子も算数が苦手なんだ」
「私が文系だから、この子も理系には行けないかも……」

たしかに、能力はある程度、遺伝の影響を受けます。でも、それは理系への進学を阻むほど強力なものではありません。むしろ、「ママと同じであなたも算数が苦手なのね」などと口に出して言ってしまうほうが大きな影響を及ぼします。おうちの方のネガティブな考え方が、子どものやる気を失わせ、子どもの可能性の芽を摘んでしまうのです。

もちろん、どんな子でも頑張れば算数オリンピックで活躍できる、というわけではありません。しかし、学校で習う算数の範囲内なら、焦らず一歩一歩つまずきを解消していけば、どの子も必ず内容を理解できるものです。

ですから、ちょっとしたつまずきを取り上げて「この子は算数ができない」と考えるのではなく、もう少し長い目でお子さまの学習を見守ってほしいと思います。そうすれば、子どもは算数に苦手意識をもつことなく、自分なりに試行錯誤をしながら、のびのびと力を高めていけるはずです。

また、「謙遜で子どもを下げる」のも絶対にNGです。謙遜は非常に高度なコミュニケーションの方法で、子どもにはなかなか理解しがたいものです。おうちの方が周囲に向かって「うちの子は算数が全然できなくて……」などと言っているのを聞くと、子どもはそれを文字通り受け取って、やる気をなくしてしまうでしょう。

逆に、算数ができるという確信がなくても、いいところを見つけてほめることはプラスになります。「数字に強いね」「計算が得意だね」「図形はなんでもできちゃうね」など、子どもの「得意」を見つけて、どんどん伝えてあげましょう。子どもは素直ですから、「自分は算数が得意なんだ!」と思うようになり、前向きに勉強に取り組んでくれるはずです。

子どもの計算力を鍛える超簡単な方法1

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多様化する社会で「人生の選択肢」を広げるために

「算数への苦手意識をなくし、理系を自由に選択できること」は、子どもにとって大きなアドバンテージになります。具体的な話をしましょう。まずひとつ、理系と文系では年収に格差があります。少し古い数字になりますが、独立行政法人経済産業研究所が発表した2011年の統計によると、文系出身者と理系出身者の平均年収(男性)は以下のとおりでした。

文系出身者の平均年収:559.02万円(平均年齢46.09歳)
理系出身者の平均年収:600.99万円(平均年齢46.19歳)

単純に比較すると、理系出身であるだけで約40万円も年収が高くなります。「さまざまな分野・経済状況において日本より10年先に進んでいる」と言われるアメリカでは、その差はさらに顕著で、文系と理系の年収格差は平均8,000(80万円)ドルにのぼります。おそらく日本でも今後、こうした格差はさらにはっきりしてくることでしょう。

そして、もうひとつ。職業選択の幅が広がることも理系のアドバンテージです。文系職は幅広いとは言っても、現代日本の求人は、理系職のほうが引く手あまたです。前回もお話ししたように、IT関連の人材は常に不足していますし、不足しているということは、年収を上げるチャンスも多くなります。特に、就活で「差を感じた」という声が聞かれるのが、女性です。理系女子、いわゆる「リケジョ」の人気は高く、多くの企業が優秀な人材を求めています。とりわけ多くの女性が活躍しているのが、食品開発や、化粧品などの化学製品の開発分野です。

女性は、味覚や嗅覚に対して非常に敏感だと言われています。そのため、シャンプーや石鹸の香りなどの微妙な差異をつくり出すことには、男性よりも女性のほうが適しているのです。男性にはそのような繊細さがない人が多いため、味や香りの微妙な差異が勝負となる開発分野では、女性の人材が求められています。

また、理系職に就く女性は出産後、職場復帰がしやすいという話もよく耳にします。文系職の多くは、その人が抜けても、別の人がその穴を比較的簡単に埋めることができることが多い。しかし、理系の研究職ではそうもいきません。研究は長いスパンで行なわれます。ですから、研究者を1人失うことは、企業にとって、研究の進展を妨げる大きな痛手となります。そこで、「産休・育休後は戻ってきてね」となるわけです。

このように、理系を自由に選択できるということは、人生設計の自由度を高め、結果として将来の豊かさにつながります。これから先、社会はますます多様化していくでしょう。そのなかで、幅広い人生の選択肢を確保するために、「算数が得意であること」は大きな強みになります。

まずは、小さい頃から数に親しみ、算数への苦手意識をなくすこと。それが、子どもの豊かな未来への第一歩となるはずです。

子どもの計算力を鍛える超簡単な方法2

子どもを「算数好き」にするチャンスはどこにでもある!

先日コンビニで、5歳くらいの男の子のお母さんが、「好きなお菓子を選んで、これでピッとしておいで」と、電子マネーのカードを渡しているのを見かけました。このような買い物の仕方は、とてももったいないと思います。私だったら、子どもに現金を渡して「この金額内で、好きなお菓子を買っていいよ」と伝えます。すると、子どもは限られた金額で満足度の高いお菓子を買うために、必死に計算をします。計算ドリルを解くよりも、効果的に、かつ自然に計算力を鍛えることができます

あるいは、子どもが好きな趣味から、数学的知識を学ぶこともできます。私は、大きな数に対する感覚を、宇宙の本を読むことで自然と身につけました。宇宙の本や図鑑を見ていると、月までの距離は38万km、太陽までの距離は1億4,960万kmなど、当たり前のように大きな数が登場します。大好きな宇宙に関することですから、そういった数字はどんどん頭に刷り込まれていきます。授業のなかで嫌々覚えるのとは、吸収力が違うのです。

このように、普段のなにげない場面で子どもの算数の感覚を伸ばせないかどうか、考えてみてはいかがでしょうか。頭だけでなく自分の体験として覚えたことは、机に向かう勉強以上に身につくものです。じつは、日常生活にはいろいろな学びの種が隠れています。少し見方を変えるだけで、子どもの能力を伸ばすきっかけが見えてくるはず。

今回お伝えしたように、子どもが学ぶことの楽しさに気づき、自分自身の才能を伸ばしていくうえで、おうちの方をはじめとする周りの大人のサポートは欠かせません。子どもたちひとりひとりがもつ豊かな才能にそっと光を当ててあげるのは、われわれ大人の役割なのです。そのことを、どうか心に留めておいてほしいと思います。

末筆ながら、本連載でお伝えしてきたことが、読者の皆様の算数に対する見方・考え方を変え、子どもたちの豊かな才能を育むきっかけになっていれば、嬉しく思います。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。またどこかでお会いしましょう!

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■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧
第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方
第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない
第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題
第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法