前回の『生徒への質問までマニュアル化された教育法「ディレクト・インストラクション」の驚くべき効果』では、「エビデンス・ベースド」の考え方を紹介し、データに基づいた科学的な教育マニュアルであれば子どもの成績は上がるということをお伝えしました。
なんとなくの思い込みや経験だけでなく、科学的なデータをもとにして教育への提案を行なうこと。それこそが、エビデンス・ベースドに基づいた教育観です。私が運営しているRISUのタブレット教材である「RISU算数」も、この考え方をもとに設計されています。
今回は、エビデンス・ベースドの具体例をみなさんにご紹介することにしましょう。算数や勉強に関する驚きのデータで、エビデンス・ベースドの底力がわかるはずです。
10億件の学習データから見えてきたこと
これからお伝えするデータは、RISU算数を学習した子どもたちの、10億件を超える学習データを分析して導き出されたもの。「ある段階までは算数でいい成績をとっていたのに、あるとき突然、成績が悪くなった子」のデータ分析なども正確に行ない、「なぜ算数でつまずいてしまうのか」ということを定量的に突き詰めました。
なぜ、子どもは算数でつまずいてしまうのか――。これを解く鍵は、「ある段階で突然成績が悪くなってしまう子」の成績データにありました。データを見るとそういう子は、何学年も前に学習していたところにつまずきのタネがあったという場合がほとんど。算数のつまずきは、本人さえ気づかないはるか昔に原因があったのです。
この事実は、算数の特徴をよく考えれば簡単に理解できるものでした。算数がほかの教科と大きく異なるのは、「さまざまな単元の習得を積み上げなければ、次の単元に進めない」ということです。極端な話かもしれませんが、たし算やひき算が理解できていない子どもに、四則演算をさせようとしてもできないわけです。
あるいは、かけ算が理解できていない子どもに、かけ算を用いる円周率の計算はできませんよね。算数はさまざまな単元を少しずつ積み上げて、より難しい範囲に進んでいく、いわば「RPGゲーム」のようなもの。子どもが、ある単元を理解できないときは、その単元を解くために必要な単元の理解ができていない、あるいは忘れてしまった場合がほとんどなのです。
学校の算数と算数学習の「悲しい関係」
この背景には、学校の算数の授業では普通のことである「とびとびの授業」もあると考えられます。
最も顕著なのは、「図形」の範囲。例えば、立体図形を初めて学校で習うのは「箱の形」という単元で、これは2年生に学習します。でも、その後の授業に立体が登場するのは、なんと4年生! 2年もの歳月が経ったあとに、内容がつながっている単元を習うわけです。
4年生で再度図形の学習をする前に、しっかりと学校で2年生の復習をしてくれればいいのですが、残念ながら忙しい学校カリキュラムでは、そううまくいきません。また、自宅学習で2年前の復習をしている子も珍しい。したがって多くの子が、2年前の授業の内容を忘れたまま、4年生でもう一度、図形の範囲に入るのです。これでは、4年生の内容がわからなくなるのも当然ですよね。
このように、算数の苦手の原因が昔の学習にあることは考えてみれば当然です。 しかし、データ分析をすることで、あらためてはっと気づかされたのでした。
算数の “苦手” は、たった3種類に分類できる
さて、ここからが今日のメインテーマです。
算数がRPGゲームのような積み上げ型の教科であることはよくわかっていただけたと思います。これは別の言い方をすれば、「算数は単元ごとのつながりが重要な教科」だということ。単元ごとのつながりを意識することが、算数を効率よく勉強するための近道なのです。
そして、そのつながりが「たった3つ」に分類できることを、RISUは発見しました。10億件の学習データを分析した結果、そのつながりの姿がはっきりと見えたのです。
その3種類とは、「位」「単位」「図形」の3つ。拍子抜けした人もいるでしょう。そうなのです。この3つ、算数を学習するにあたってはあまりに基本的な単元すぎて、多くの方がそこまで重要だと思わない単元。
しかし、この3つの単元がメインストーリーとなって、算数というRPGは構成されています。つまり、3つの基本さえしっかり押さえておけば、算数でつまずくこともないですし、もしつまずいてしまっても、その3つをよく復習することでつまずきの原因を知ることができるのです。
そして、算数の苦手もこの3種類に分類できる! 「その3つなら、正しく理解できて当然だろう」と思う大人は多いでしょう。しかし、データはそうは言いません。実際の教育現場や家庭学習の様子をのぞいてみると、この3分類が原因となって算数が苦手になるお子さんが非常に多いのです。ここがエビデンス・ベースドの強み。学習についての先入観を取り払ってくれるのです。
具体的なデータとして、以下のランキングを見てください。多くの子どもがつまずきやすい単元や問題例を調べてみたところ、次のような順位が得られたのです。
- ワースト1 2~3桁の位の理解:「位」
- ワースト2 図形の組み立て・立体の基礎:「図形」
- ワースト3 単位、メモリの読み方:「単位」
- ワースト4 文章題
- ワースト5 円と半径・直径の理解:「図形」
子どもがつまずきやすい単元・問題例のワースト5位のうち、ワースト4位の「文章題」を除けば、すべて先ほど書いた「位」「単位」「図形」に関係するのがおわかりいただけるはずです。
だんだんと、エビデンス・ベースドの考え方の特長が理解いただけているのではないでしょうか。詳しく知りたい方は、こどもまなび☆ラボのインタビュー記事をチェックしてみてくださいね。
「ワースト2:図形の組み立て・立体の基礎」と「ワースト5:円と半径・直径の理解」については、『10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題』で実際の問題を使って説明しています。また「ワースト4:文章題」については『「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法』をご覧ください。拙著では、このワースト5位の範囲のそれぞれについて、かなり詳しく苦手の克服法を記載していますので、そちらもぜひ。
もし、お子さんが算数のどこかの範囲でつまずいていたら、この3つのどこかにその原因が求められるはずです。逆に、算数の復習をするときは、この3つの範囲を重点的に見直せば効率よく復習ができるとも言えますよね。エビデンス・ベースドの考え方を用いれば、効果的・効率的に学習が進められるのです。
次回も、エビデンス・ベースドに基づいた効果的な学習法について見ていきたいと思います。
『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』
今木智隆 著/文響社(2019)
■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧
第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方
第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない
第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題
第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法