教育を考える 2019.9.9

子どもの前で仕事の愚痴はNG。家庭でできる「キャリア教育」教えます

子どもの前で仕事の愚痴はNG。家庭でできる「キャリア教育」教えます

近年「キャリア教育」が注目されていることを知っていますか? 仕事にまつわる教育であることは想像がついても、具体的な内容については知らない人も多いかもしれません。今回は、キャリア教育が必要とされている理由や、家庭でできるキャリア教育についてご紹介しましょう。

キャリア教育とは?

文部科学省は、キャリア教育を次のように定義しています。

「キャリア教育」とは、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」である。

(引用元:文部科学省|第1章 キャリア教育・職業教育の課題と基本的方向性

キャリア教育に似た言葉に「職業教育」がありますが、こちらは「一定または特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度を育てる教育」です。

文部科学省では、キャリア教育と職業教育の基本的方向性として以下を挙げています。

  • 仕事をすることの意義や、幅広い視点から職業の範囲を考えさせる指導を行う。
  • 社会的・職業的自立や社会・職業への円滑な移行に必要な力を明確化する。

 
この「社会的・職業的自立や社会・職業への円滑な移行に必要な力」とは、具体的には「基礎的・基本的な知識・技能」「基礎的・汎用的能力」「論理的思考力・創造力」「意欲・態度及び価値観」「専門的な知識・技能」のことです。その中のひとつである「基礎的・汎用的能力」には「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプラニング能力」が含まれます。

家庭でできる「キャリア教育」2

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キャリア教育はなぜ必要?

キャリア教育が注目されている理由のひとつに、社会生活の変化により、子どもが働くことを身近に感じられなくなっている点が挙げられます。

一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会によると、かつての日本は、大人の仕事が子どもの生活圏内にあり、仕事をする大人への憧れや仕事をすることの厳しさなどが自然に学べる環境だったそう。商店街がにぎわい、下校中の子どもたちにお店の人々が「おかえり」と声がけしてくれていたようなかつての日本は、確かに子どもと働く大人の距離が近かったといえます。

しかし、現代では近所付き合いが減るなどして地域社会が崩壊しつつあり、便利な家具や家電の開発が進んだことから、子どもが生活のさまざまな場面に主体的に関わることが少なくなりました。さらに、産業の細分化・分業化によって、子どもが仕事をしている大人の姿を見る機会も減っています。また、情報化が進んだことから、不祥事を起こす企業や学校などが目立ち、大人に対する憧れが育ちにくくなっているというのです。そのため、さまざまな大人とさまざまな場面でかかわりながら学びの意欲を育てるキャリア教育が重視されるようになっていると、同協議会は述べています。

家庭でできる「キャリア教育」3

家庭でできるキャリア教育

キャリア教育というと職場体験などをイメージしがちですが、じつは以下のように家庭でできることもあります。

子どもに仕事の楽しさを語る

法政大学キャリアデザイン学部の宮城まり子教授によると、親が「働くって楽しいよ」というスタンスでいることは、結果として子どもに「生きることは楽しい」というメッセージを伝えることにつながるのだそう。これは子どもがその子らしい人生を送るきっかけとなる、大切なメッセージにもなるといいます。

子どもに対して「今日仕事でこんなことがあったよ」「こんなことをして上司に褒められたんだよ」と語ることを習慣にしましょう。こうすることで、子どもが「働くって楽しいことなんだ」と知ったり、「やりたい仕事をするためにはどんな勉強をすればいいのだろう?」と考えるきっかけになったりします。ただし、仕事の愚痴をこぼすのはNG。子どもが仕事に対してネガティブなイメージを持つようになる可能性があるためです。

 

家庭の中での役割を決める

お風呂の掃除係、洗濯係など、できる範囲で子どもの役割を決めましょう。自分のすべきことを理解し、状況に合わせながら毎日責任を持ってこなしていくことで、キャリア教育で重視されている「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」が伸びていきます。

その際、もし「○○ってどうしたらいいの?」などと尋ねられても、すぐには答えを言わずにグッと我慢。「これを読んで調べてごらん」などとヒントを与えるだけにしてみましょう。前出の宮城教授いわく、そうすることで子どもの問題解決能力も育っていくのだそう。

また、きちんと役割を果たすことができたら、しっかりと褒めてあげましょう。こうすることで、子どもが誰かに感謝されることの喜びを実感できたり、自分の成長を振り返ったりすることにつながります。

 

近所のお店探検をする

子どもと近所を探検し、どんなお店があるのかを調べてみましょう。お店ごとにどんなものを売っていて、どんな人が働いているのかなどを子どもと話し合ってみてください。

最近では便利なネット通販で買い物を済ませるという家庭も増えていますが、「お店に直接足を運ぶ」という経験は子どもの職業観を作るきっかけになることがあります。お店探検マップを作成するのもおすすめです。

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日々、仕事に追われている親は「子どもとの時間が十分に取れていないかも……」と不安になることもあるでしょう。しかし、親が仕事を頑張っている姿を見せ、働く楽しさを語ってくれることも、子どもにとって大切なキャリア教育のひとつです。ぜひ子どもと仕事について話す機会を作ってみましょう。

文/田口 るい

(参考)
文部科学省|第1章 キャリア教育・職業教育の課題と基本的方向性
キャリア教育総合情報サイト|キャリア教育事例一覧
キャリア教育総合情報サイト|キャリア教育とは
未来を担う若者達のキャリア支援 夢さがしプロジェクト|キャリア教育プログラム
ベネッセ教育情報サイト|家庭だからできるキャリア教育【前編】スタートラインは保護者から
ベネッセ教育情報サイト|家庭だからできるキャリア教育【後編】社会で求められる力とは
ベネッセ教育情報サイト|夏休みの自由研究テーマに! 【キャリア教育】家の近くの職業探検
ベネッセ教育情報サイト|家庭でできるキャリア教育 ポイントは「保護者が先回りしないこと」