小学生の勉強には、国語辞典が必須。「学校で必要だから」というだけではありません。辞書を引く習慣を身につけ、多くの言葉に触れ、漢字に親しむことで、子どもの知性と感性が大きく伸びるのです。
今回は、国語辞典が生む学習効果と国語辞典の選び方を説明したうえで、おすすめの小学生向け国語辞典を3種類紹介します。「収録語数はどれくらいがいいの?」「ワイド版とポケット版、どちらを買えば?」など、小学生のお子さんにどの国語辞典を買おうか迷っているとき、参考になれば幸いです。
小学生に国語辞典が必要な理由
まずは、小学生の学習に国語辞典が必要な理由を説明しましょう。
2008年に告示されたかつての学習指導要領だと、辞書の使い方は小学3・4年生で指導されることになっていました。しかし、2017年に告示された新学習指導要領では、国語辞典などを使って調べる習慣は小学校の6年間を通じて身につけるべきだとされています。つまり、小学1年生でも、国語辞典を使うのに早すぎるということはないわけです。
学習指導要領解説によると、子どもの国語能力を養うには、知らなかったり理解があいまいだったりする言葉の意味や使い方を国語辞典などで調べることが重要なのだそう。そして、わからない言葉を自分で調べる習慣を身につけるためには、「必要な時にはいつでも辞書や事典が手元にあり使えるような言語環境」を整えることが必要だと指摘されています。
大人も子どもも、わからないことはとりあえずGoogleで検索しがちな現在、国語辞典で調べるという行為を時代遅れに感じる人もいるかもしれません。しかし、学習指導要領解説では、辞書を使いこなすスキルの重要性が以下のように強調されています。
辞書や事典の使い方を理解し使うことは、情報化社会において必要な情報を収集したり、語彙を豊かにしたりするために必要な「知識及び技能」である。
(引用元:文部科学省|【国語編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説)
つまり、インターネットで何でも検索&解決したくなる現代だからこそ、国語辞典を用いて、小学生のうちから正しい知識と言葉を身につけるべきなのです。
国語辞典の学習効果
小学生のうちから国語辞典を用いることによって、以下のような学習効果が生まれます。
語彙が増える
国語辞典を積極的に引く習慣を身につければ、自然と語彙が増えます。語彙とは、以下の2種類です。
- 理解語彙:読んだり聞いたりしたときに意味がわかる。
- 使用語彙:自分が書いたり話したりするときに使うことができる。
使用語彙も大事ですが、まずは理解語彙を増やすのが先決。国語辞書や国語教材を出版する光村教育図書によると、「未知の語と出会う」ことで語彙が獲得されるのだそう。意味のわからない言葉に出会ったら、どのような意味なのか想像してみたうえで、辞書で調べて確認してほしいとのことです。
せっかく「未知の語」に出会ったとしても、「意味がわからないけれど、別にいいや」とスルーしてしまっては、語彙は増えません。国語辞典などで意味を知って初めて「理解語彙」となり、いずれ「使用語彙」となるのです。
語彙を増やすのに、国語辞典は欠かせないといえるでしょう。
「自己解決力」が育つ
国語辞典を使い、知らない言葉の意味を自分で調べるようにすれば、「自己解決力」が養われます。
自己解決力とは、困ったこと・わからないことがあれば、周囲の人から助けが差し伸べられるのをじっと待つのではなく、自分で解決しようとする力のことです。自己解決力がないまま成長すると、「うまくいかないな」「よくわからないな」と思っても、問題を放置する人間になってしまいます。小さいうちは大人が助けてくれますが、自分の問題を自分で解決できない大人にはなってほしくないですよね?
国語教師・文章コンサルタントの松嶋有香氏は、小学校教員の友人から「アクティブラーニングの時間を確保するため、辞書で意味調べをする時間が減ってしまった」「わからないことを自分で調べる習慣がほとんどない子が増えた」という話を聞いて、強い危機感を覚えたのだそう。「知らないことがあっても、気にならない」「わからないことがあっても、別にいい」というのは「思考放棄の状態」だと警鐘を鳴らしています。
知らないことがあっても、別に気にならない。誰かが教えてくれるならいいけれど、自分で調べようとは思わない。非常に危険な態度だと思いませんか? 勉強ができる・できないの問題どころではなく、人生でぶつかるであろう大なり小なりの疑問や課題に取り組む力が育たなくなってしまうのです。大げさだと思うかもしれませんが、国語辞典を使って未知の言葉を調べる習慣は、人生を左右すると考えられます。
子どもの自己解決力を養うには、授業中だけでなく、家庭でも国語辞典に親しむべきです。教育方法学を研究する深谷圭助教授(中部大学)によると、国語辞典を使って「辞書引き学習」をすれば、子どもの好奇心が刺激され、「自発的に調べる」習慣が身につきます。そして、大人が教えてくれるのを待たなくても「自分だけで答えを見つけ出せる」ことに気づくため、自己解決力も身につくのだそうです。小学生が自立した人間へと育つにあたり、国語辞典の果たす役割は大きいといえるでしょう。
小学生向け国語辞典の選び方
小学生の教育において国語辞典の果たす役割がわかったところで、どのような国語辞典を用意するべきなのでしょうか? 具体的に紹介する前に、国語辞典を選ぶ際の基準を確認しておきましょう。
収録語数
どれも同じように見える小学生向け国語辞典を比べるにあたり、気になるのが「収録語数」。明確な数字として表れているので、比較の対象にしやすいですよね。少なすぎるのはもちろん、多すぎてもいけないような気がするし……どの程度の収録語数が適切なのでしょうか?
日本語学者・『三省堂国語辞典』編集委員の飯間浩明氏によると、国語辞典においてどの程度の収録語数が適切なのかは、使う子どもの語彙量によって違うのだそう。その子にとって「やや多いかな」と思われる程度の収録語数がちょうどよいとのことです。ほかにも、飯間氏は以下のような基準を示しています。
- 小学1年生なら、1万数千語でじゅうぶん。
- 調べたい言葉が辞典で見つからないことが増えたら、買い換えどき。
適切な収録語数について、決まった正解はないようですね。当たり前かもしれませんが、子どもによって適切な辞典は異なります。「合わなかったら(合わなくなったら)新しいのを買えばいいか」と、柔軟に考えるのがよさそうです。
大きさ
小学生向け国語辞典には、同じ内容で大きさが違うものがあります。大きいほうは「通常版」や「ワイド版」、小さいほうは「コンパクト版」などと呼ばれているようです。
「通常版」と「コンパクト版」は、サイズ以外に何が異なるのでしょう? ページ数や収録語数にも差があるのでしょうか?
少なくとも、ベネッセコーポレーションの『チャレンジ 小学国語辞典』の場合、違うのはサイズと値段のみのようです。ベネッセの公式サイトによると、『チャレンジ 小学国語辞典 カラー版』(税抜2,500円)を「そのまま縮刷した」のが『チャレンジ 小学国語辞典 カラー版 コンパクト版』(税抜2,250円)とのこと。それぞれの大きさは以下のとおりです。
コンパクト版:タテ182mm、ヨコ128mm
「通常版」と「コンパクト版」の内容は、全く同じなのだそう。となると、気になるのが「コンパクト版は文字が小さくて読みづらいのでは?」ということ。いくら小さくて持ち運びやすいというメリットがあっても、子どもにとって読みにくいのであれば、学習効果が薄れてしまうような気がしますよね。
実際、ベネッセによると、「一般に、低学年の場合は字の大きい通常の判型のものをお求めになるケースが多い」とのこと。小学生向け国語辞典を買うとき、サイズで悩んだならば、大きいものを選んだほうがよさそうですね。
小学生向けおすすめ国語辞典1:超定番『三省堂 例解小学国語辞典 第七版』
では実際に、小学生向けのおすすめ国語辞典をご紹介していきます。まずは、『大辞林』で知られ、「辞書のトップメーカー」を名乗る三省堂の『三省堂 例解小学国語辞典 第七版』。収録語数は36,500語です。
『三省堂 例解小学国語辞典 第七版』で最も注目すべき点は、辞書として初めて「UDデジタル教科書体」というフォント(書体)を採用したこと。「UDデジタル教科書体」とは、デジタルフォント制作を手がける株式会社モリサワが開発に10年を要したという、学習指導要領と読みやすさの両方に配慮した書体です。
「UD」とは「ユニバーサル・デザイン」。年齢や障害の有無にかかわらず、あらゆる人にとって使いやすい普遍的なデザインという意味です。
「UD」を冠しているとおり、「UDデジタル教科書体」は、読みやすさを追求した書体です。文字を構成する線は、強弱の差が少ない、サインペンのような一定の太さ。弱視やディスレクシア(読み書き障害)の人も読みやすいよう配慮されています。
そして、「デジタル教科書」という名のとおり、タブレットで教材を表示した際にも見やすいよう調整されています。コンピュータやインターネットをフル活用するICT教育への対応が強く意識されているのです。国語辞典には関係ないと思うかもしれませんが、デジタル機器での使用時だけでなく、紙媒体に印刷されたときの読みやすさも同様に考慮されています。
「UDデジタル教科書体」は、読みやすさが高く評価されたため、教育やインフラに関連する企業が多数関わるNPO法人・キッズデザイン協議会が実施する「キッズデザイン賞」で2018年度の審査委員長特別賞を受賞しました。「UDデジタル教科書体」を採用している『三省堂 例解小学国語辞典 第七版』は、文字の読みやすさという点において、小学生向け国語辞典のなかでも秀逸だといえるでしょう。
小学生向けおすすめ国語辞典2:売上ランキング1位『チャレンジ 小学国語辞典 カラー版』
次に紹介する小学生向け国語辞典は、上でも取り上げた『チャレンジ 小学国語辞典 カラー版』。収録語数は35,100語。「コンパクト版」なども含めた同シリーズは、「紀伊國屋書店」ならびに「くまざわ書店」の全店舗において、小学生向け国語辞典として2008年から11年連続で累計売上が第1位なのだそうです。人気の理由に迫ってみましょう。
国語教師・文章コンサルタントの松嶋有香氏は、『チャレンジ 小学国語辞典』を「読みやすい」「文字の大きさや行間がちょうど良い」と評価しています。くわえて、以下の特徴もあるそう。
- 言葉の意味が、小学生にわかりやすい言葉で説明されている。
- 写真やイラストが非常に多い。
小学生向けの国語辞典に必要なのは、掲載する言葉を厳選するだけでなく、言葉について平易な説明を提供することです。大人向けの辞典と『チャレンジ 小学国語辞典 カラー版』の説明を比べてみましょう。上が小学館の「デジタル大辞泉」、下が『チャレンジ 小学国語辞典 カラー版』です。
【赤潮】
海水中のプランクトンが異常増殖して、海水が変色する現象。魚介類に大きな害を与える。苦潮(にがしお)。厄水(やくみず)。《季 春》
(引用元:コトバンク|赤潮)
【赤潮】
《名詞》《季語 夏》海の中のプランクトンがふえたために、海水が赤や茶色に見えること。(参考)赤潮が発生すると、海水中の酸素が足りなくなって、魚や貝が死ぬ害が出る。
(引用元:スクールオンライン|チャレンジ 小学国語辞典 フルカラー版、チャレンジ 小学漢字辞典 フルカラー版)
「赤潮」に関する両者の説明は基本的に同じですが、『チャレンジ 小学国語辞典 カラー版』は「異常増殖」を「ふえる」、「変色」を「赤や茶色に見える」としています。「魚や貝が死ぬ」と、はっきり書かれているのもわかりやすいですね。大人用辞典の説明だと、子どもは「変色って、何色になるんだろう?」「大きな害って、どうなるのかな?」などの疑問を感じるかもしれませんが、『チャレンジ 小学国語辞典 カラー版』なら、具体的なイメージを得ることができます。
『チャレンジ 小学国語辞典 カラー版』における小学生読者への配慮は、カラー図版の数にも表れています。カラー写真は約500点、カラーイラストは約800点が収録されているとのことです。上で紹介した『三省堂 例解小学国語辞典 第七版』の収録図版は約1,000点なので、『チャレンジ 小学国語辞典 カラー版』は図版が豊富だといえるでしょう。
特に低学年の小学生の興味を引きつけたいなら、『チャレンジ 小学国語辞典 カラー版』がおすすめです。
小学生向けおすすめ国語辞典3:人気キャラクターの『新レインボー小学国語辞典 改訂第6版 ディズニー版』
最後におすすめする小学生向け国語辞典は、学研プラスの『新レインボー小学国語辞典 改訂第6版 ディズニー版』『新レインボー小学国語辞典 改訂第6版』の特別装丁版で、収録語数は43,300語です。第5版の37,200語から大幅に増えました。
『新レインボー小学国語辞典 改訂第6版 ディズニー版』の外箱は、人気キャラクターのミッキーやミニー、ドナルドたちのイラストが配され、ピンクを基調としたデザイン。そして、辞典本体の表紙には、ミッキーとミニーのイラストが型押しされているという凝りよう。キャラクターのファンだったら絶対に欲しくなってしまいそうです。
もちろん、優れているのはデザイン面だけではありません。子どもが使いやすいよう、専用に開発された紙を使って25%もの軽量化を実現したほか、マーカーで線を引いても裏写りしないのだそう。学研プラスのこだわりについて、詳しくは「【日本語のプロが徹底解説!】語彙力と読解力を伸ばす国語辞典の魅力と活用法」をお読みください。
なお、松嶋有香氏によると、『新レインボー小学国語辞典』は、小学生向け国語辞典のなかで最も収録語数が多いのだそう。華やかな見た目とは裏腹に、小学生向け国語辞典として、多くの知識が内包されているのです。
小学生におすすめの国語辞典アプリ
小学生のための国語辞典としては、紙のものが必須だというのはもちろんですが、デジタル機器で使えるアプリケーションもあります。参考までに、国語辞典アプリもご紹介しましょう。
「例解学習国語辞典 第九版[+漢検過去問ドリル]」は、iOS用ソフトウェアの企画・開発を手がける株式会社物書堂が2013年にリリースした、iPad用の国語辞典アプリ。小学館の『例解学習国語辞典 第九版』を電子化したものです。全ての漢字にふりがながついているなどの理由から、紙の辞典と同様、小学校低学年から安心して使えるとのこと。
わざわざ紙の国語辞典ではなくアプリケーションを使うからには、アプリならではのメリットが欲しいところです。「例解学習国語辞典 第九版[+漢検過去問ドリル]独自のおもしろさとして挙げられるのが、カメラ機能。なんと、iPadのカメラで撮影した写真を、辞典内に貼りつけることができるのです。
たとえば、「常緑樹」という言葉を調べて、常緑樹の意味を知ったら、外に出かけて常緑樹を探して写真に撮り、アプリ内の「常緑樹」のページに貼りつける、という具合。おもしろい使い方ができると思いませんか?
「温かい」「安全」のように抽象的な言葉だと、どのような写真を撮るか悩みそうですね。言葉の意味を調べるだけでなく、その言葉に合った写真を撮ることをとおして、言葉への理解が深まり、語彙が増えそうです。「例解学習国語辞典 第九版[+漢検過去問ドリル]」は、小学生向け国語辞典アプリとして、独特な教育効果があるといえるでしょう。
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おすすめの小学生向け国語辞典3種と、iPad用アプリケーションを紹介しました。
書店にたくさん並んでいる国語辞典を見ると、どれも同じように思えてきますが、辞典にはそれぞれ個性があります。ぜひ、小学生のお子さんといっしょに、その国語辞典ならではの魅力を見つけてみてください。
(参考)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|たった5歳の子どもにも国語辞典を与えるべき理由。“辞書を引く”ことの莫大なメリット
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