英語学習は中学生になってから始めればいい。英語が使えなくても、学校の試験で点数さえ取れればいい。そう考えている方はいませんか? 近年、小学校や中学校をめぐる英語教育は大きく変わってきています。親世代の感覚は通用しないかもしれません。
英語入試のある中学校は5年前の8倍に!
2020年から新たな学習指導要領が施行され、小学校の英語教育の早期化・教科化が決定しています。今まで小学5・6年時に実施されていた週1コマの「外国語活動」が、小学3・4年生からスタートするのです。さらに、小学5・6年生の「外国語活動」は「外国語科」という「教科」に変わり、成績対象になります。
小学校におけるこの流れを受け、中学校に入る前から、英語力が求められるようになってきています。この5年間で、英語(選択)入試を行う私立・国立中学校は8倍に増えました。
(図:首都圏模試センター|受験情報ブログ|2019年入試では125校が「英語(選択)入試」を実施!を元に筆者が作成)
この数年は英語を受験科目にする中学校が増えており、首都圏模試センターによると、今年は首都圏の国公私立中約300校のうち125校が、選択式などを含め、何らかの形で英語入試を実施する。2014年度入試の15校と比べ、約8倍の学校数で、「英語1教科」の入試も広がっている。
(引用:朝日新聞「中学受験「英語1教科」広がる 英検準1級レベルも」)
さらに、英語1教科だけで受験できる入試制度も登場しています。この現状について、『世界で活躍する子の“英語力”の育て方』著者の船津徹さんは、次のように語っています。
これまで中学受験における「英語入試」は帰国生を対象としていましたが、これからは全ての受験生が対象になります。同時に「英語ができる生徒の争奪戦」が中学受験で始まっています。(中略)
すでに多くの私立中学が「英検2級以上」などの高いレベルの英語力を有する生徒に対して「奨学金特待生」「授業料免除」などの奨学金を供与して囲い込みを始めています。奨学金を供与しない学校でも、「英検3級以上」など、一定レベル以上の実力を持つ受験生に対して「点数加算」「判定優遇」「学科試験免除」など、合否判定における優遇措置を与えています。
(引用:船津徹(2019),『世界で活躍する子の“英語力”の育て方』,大和書房.)
もちろん、この傾向は中学受験だけでなく、高校受験・大学受験と年齢が上がるにつれて、より顕著になります。中学受験をしないご家庭においても、決して無関係なことではないのです。
授業でスピーキングを行う中学生の割合は親世代の4.6倍!
小学校の4年間で英語を学んだ後、中学校に進むと、さらに授業で英語を使う機会が多くなります。
ベネッセ教育総合研究所の調査(2018年)によると、英語の授業で「話す」活動をしているのは、現在の中3生の約6割(58.9%)。一方、保護者が中高生だった頃に「スピーキング」をしていたのは、たったの1割台(12.7%)。授業内で「英語で話す」中3生の割合は、保護者世代の約4.6倍にも及びます。「書く」においても同様、昔と今の違いは歴然です。
(図:ベネッセ教育総合研究所「中3生の英語学習に関する調査」(2018年)を元に筆者が作成)
※「よくしている」「ときどきしている」の合算の割合。
※保護者は「あなたが中学生や高校生だった頃、学校の英語の授業の中で次のようなことをどれくらいしていましたか」という問いに対する回答。
親世代が自分の中高の英語の授業を思い出しながら、子どもの英語教育をイメージするのには無理があることがわかります。それもそのはず、学習指導要領は、時代と共に変化を遂げています。特に平成29年度に示された新指導要領では、狙いが「英語を学ぶ」から「英語を使う」へのシフトが見られました。使える英語力を育むという流れは、どんどん加速しているのです。
75%の中学校で、授業の半分以上は英語!
「英語でコミュニケーション活動を行う」ことに重点が置かれた、新指導要領。「活動の中で英語を学ぶ」ことが重視され、授業は英語で行うことを基本としているため、先生の英語使用割合も大きく伸びています。ベネッセ教育総合研究所による同調査によると、英語を7割以上使って授業を進めている先生は、全体の4人に1人にのぼります。
(図:ベネッセ教育総合研究所「中3生の英語学習に関する調査」(2018年)を元に筆者が作成)
さらに、授業中「英語で言ったことに対して Good! や OK! と言ってくれる」は8割台、「うなずいたり、英語であいづちを打ってくれる」「英語で確認したり共感したりしてくれる」「英語でうまく言えないとき、英語で助けてくれる」は7割台と、英語が飛び交う授業が展開されているのです。
文部科学省による平成30年度「英語教育実施状況調査」からも、その傾向は読み取れます。英語担当教師の英語使用状況として、授業における発話の半分以上を英語で行っている教師は約75%にものぼります。
(引用:文部科学省|平成30年度「英語教育実施状況調査」概要)
さらに、中1の英語の授業の半分以上において「英語による言語活動」を行っている割合は、全体の約8割となっています。
(引用:文部科学省|平成30年度「英語教育実施状況調査」概要)
今後、学校の授業で我が子に求められる英語力は、保護者世代のものとは全く別物だと考えたほうが良いでしょう。
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小学生のうちは英語はまだ早い。学校の定期試験や入試では「話す」「書く」スキルは問われないから大丈夫。親御さんの中には、ご自身の経験からそう感じている方も多いかもしれません。しかし、学校の授業や入試で問われる力は確実に変化しています。子どもの英語教育に取り組むにあたり、まずは現状把握からスタートするのが正解かもしれません。
(参考)
文部科学省|平成30年度「英語教育実施状況調査」の結果について
文部科学省|【外国語編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説
ベネッセ教育総合研究所|中3生の英語学習に関する調査〈2015-2018継続調査〉
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|あなたのお子さんの年は移行期? 全面実施期? 3分でわかる「小学校英語教育」
朝日新聞|「中学受験「英語1教科」広がる 英検準1級レベルも」
首都圏模試センター|2019年入試では125校が「英語(選択)入試」を実施!
船津徹(2019),『世界で活躍する子の“英語力”の育て方』,大和書房.