教育を考える 2019.10.5

クラスの「困っている子」と「困った子」。子どもの行動にはさまざまな要因がある

クラスの「困っている子」と「困った子」。子どもの行動にはさまざまな要因がある

他人に迷惑をかけないことを重視する意識が強い我々日本人。子を持つ親なら、我が子に対して「幼稚園や学校で『困った子』にだけにはならないように」と願っていることでしょう。では、教育現場ではどんな子どもが「困った子」なのでしょうか。千葉大学教育学部附属小学校松尾英明先生の答えは、「『困った子』はいなくて、『困っている子』がいるだけ」という意外なものでした。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

学校で見られる「困った子」とは?

実際、子どもたちのなかには教員から見ても「困った子」はいます。ひとつのケースは他の子どもに攻撃をして孤立してしまう子ども。たくさんの子どものなかには、ふつうならいってはいけないと感じることを口に出してしまったり、やってはいけないと感じることをやってしまったりする子どももいるのです。たとえば、「この服、おばあちゃんにプレゼントしてもらったんだ」といった友だちに対して、「なにその服、ダサいね」なんてことをいってしまったり、本当は仲良くなりたいのに友だちをいきなり突き飛ばしたりするというようなことでしょうか。

まわりからすれば、そういう子どもはすごく性格が悪いように感じてしまいます。でも、そうではありません。そういう行動を取ってしまうことにはさまざまな要因がありますが、親の育て方の問題などではなく、相手の気持ちを推し量る能力がただ欠けているだけということもあるのです。

また、もうひとつの「困った子」のケースとして、すぐにふてくされる子どもも挙げられます。教員が良かれと思って子どもに言葉をかけても、すぐにふてくされてしまう……。経験の浅い若い教員からすれば、ちょっと厄介なタイプの子どもでしょう。でも、そういう子どもも性格が悪いわけではありません。単に、なかなか納得できないというだけのこと。教員が良かれと思っているように、子ども自身も自分の考えを強く信じているのです。

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まわりの大人が「困った子」をつくっている

こういった子どもたちの不幸なこととして、一見ふつうの子に見えるということが挙げられます。知的障害がある子どもであれば、まわりもすぐに理解して協力してくれるでしょう。極端な例かもしれませんが、不幸にも脚が不自由な子どもに対して、走ることを無理強いする人はいませんよね。

問題を抱えていることがわかりやすい子どもとちがって、一見ふつうに見えても、あるスキルが欠けているという子どもは少なくありません。そういう子どもは、「困った子」ではなく、あるスキルが欠けていることで「困っている子」だといえます。その認識が教員側にあれば、「困っている子」にもきちんと対応することができる。つまり、「困っている子」が「困った子」になるのは、教員の知識不足やスキル不足が要因ともいえるのです。

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ただ、「困っている子」に対する理解は、教員やその子の親だけではなく、すべての保護者に持ってほしいとわたしは考えています。我が子のクラスに先の例に挙げたような子どもがいれば、親は「早くクラス替えをしてほしい」「あの子の親はどんなしつけをしているのか」なんて思ってしまいがちです。「あの子は悪い子だから、つき合っちゃ駄目だ」なんて我が子にいってしまうこともよくあるケースです。本当は「困った子」なんていなくて「困っている子」がいるだけなのに、まわりの大人が「困った子」をつくってしまっている

そうではなく、世の中にはいろいろな子どもがいて、あるスキルが欠けていて「困っている子」は、その子なりに頑張っているんだというふうにとらえてほしいのです。

学校生活のなかで我が子だけが幸せになることはない

親がそのような認識を持っているかどうかは、授業参観に臨む態度に顕著に表れます。みなさんは、授業参観でなにを見ますか? 一般的には我が子の授業態度を見るのかもしれませんね。でも、「困っている子」に対して理解がある親の場合、我が子よりも他の子どもたちを見ています

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わたしのクラスの保護者のなかにもそういう人がいます。たとえば前年度までいわゆる問題児扱いされていた子どもや引っ込み思案だった子どもをしっかり見て、授業参観が終わったあとで「先生、今日は○○ちゃんも△△君も頑張っていて、すごく良かったですね」なんていってくれる保護者がいます。

そういう親は、我が子に対しては「うちの子は別にいいんですけど」なんていいます(笑)。自分の子どもよりもまわりの子どもの成長をよろこんでいるのです。保護者がみんなそういう人になれば、そのクラスは絶対に良くなります。

「困っている子」を「困った子」にしてしまうと、学級運営に支障をきたすことになります。そうなると、「困っている子」ではない我が子もいい学校生活を送ることは難しくなるでしょう。学校という集団生活のなかでは、我が子だけが幸せになるということは絶対にあり得ません。ひとりの子どもが不幸になれば、そこから不幸は伝染するかのように広がっていくもの。全員が幸せにならないと、我が子も幸せにならないと考えてほしいのです。

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■ 千葉大学教育学部附属小学校教諭・松尾英明先生 インタビュー一覧
第1回:「勉強しなさい」といい続けたら将来どうなる!? 子どもの才能を摘まないために――
第2回:クラスの「困っている子」と「困った子」。子どもの行動にはさまざまな要因がある
第3回:熟考する子どもは積極的に手を挙げない。挙手指名制が受け身の子どもをつくる
第4回:求められるのは「想像」「創造」「協働」の力。「困っている子」がいてありがたい!?

【プロフィール】
松尾英明(まつお・ひであき)
1979年8月24日生まれ、宮崎県出身。千葉大学教育学部附属小学校教諭。「教育を、志事にする」を信条に自身が志を持って教育の仕事を行うと同時に、志を持った子どもを育てることを教育の基本方針としている。野口芳宏氏の「木更津技法研」で国語、道徳教育について学ぶ他、原田隆史氏の「東京教師塾」で目標設定や理想の学級づくりの手法についても学ぶ。著書に『「あれもこれもできない!」から…「捨てる」仕事術 忙しい教師のための生き残りメソッド』、『新任3年目までに知っておきたい ピンチがチャンスになる「切り返し」の技術』、『子どもの顔がパッと輝く! やる気スイッチ押してみよう! 元気で前向き、頑張るクラスづくり』(いずれも明治図書出版)などがある。他にも教育関係の情報発信に力を入れており、ブログ「教師の寺子屋」を主宰し、メルマガ「「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術」は「2014まぐまぐ大賞」教育部門賞を受賞している。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。