教育を考える 2019.10.6

熟考する子どもは積極的に手を挙げない。挙手指名制が受け身の子どもをつくる

熟考する子どもは積極的に手を挙げない。挙手指名制が受け身の子どもをつくる

まわりの子どもはどんどん挙手をするのに、我が子はなかなか挙手をしない……。そんな様子を授業参観で見れば、「うちの子にももっと積極的になってほしい」と親は願うものでしょう。ただ、千葉大学教育学部附属小学校の松尾英明先生は「『挙手をする子どもがいい子だ』という思い込みを捨ててほしい」といいます。そして、松尾先生は「そもそも挙手指名制に問題がある」とも指摘します。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

挙手指名制の授業に潜む問題点

多くの親が、我が子には学校で積極的に挙手をする子どもになってほしいと願っています。でも、「はいはい!」と元気良く挙手をすることは、そんなにいいことなのでしょうか? わたしは、それは長年にわたって無条件に信じられ続けている、ある種の「神話」だと思っています。

わたしは、この挙手指名制が日本の教育現場であたりまえのように使われ続けていることに疑問を持っているのです。というのも、挙手指名制はすごく受け身の子どもをつくってしまうからです。

挙手指名制の授業の場合、挙手さえしなければ授業に参加しなくてもいいということになります。「この先生は挙手をさせて指名する先生だ」とわかっていれば、挙手しない限りはなにもやらなくてぼーっとしていてもいいという認識を子どもが持つことになるのです。

それでは授業の質が上がるわけもありません。挙手をさせるのではなく、教員がいきなり名指しで指名すればいい。あるいは、教員が指名した列の全員に答えさせるというふうにすればいいとわたしは考えています。もし教員が子どもの意見を吸い上げたいのなら、子どもたち全員に自分の意見を書かせて提出させれば済む話です。挙手指名制自体に大きな問題があるのではないでしょうか。

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熟考する子どもは積極的に挙手をしない

そもそも、みなさんは積極的に挙手をする子どもがどんな子どもだと思っているでしょうか。もしかしたら、いわゆる自己肯定感が高い、つまり親が育てるべき理想的な子どもだと思っている人もいるかもしれません。たしかに、自分に自信があるからこそ挙手をするという子どももいます。ただ、積極的に挙手をする子どもにはさまざまなタイプがあるのです。

たとえば、「まわりのことを考えていない」子どももそのひとつ。いわゆる「俺が、俺が!」「わたしが、わたしが!」のタイプです。そういう子どもは、挙手をして指名されないとすぐにふてくされてしまいます。

また、「熟考していない」子どもも、教員が質問した途端に「知ってる、知ってる!」と積極的に挙手をします。「こう思うけど、それとは別にこういうことも考えられるかもしれない」といったふうにしっかり考える子どもの場合、そんな早いタイミングでは挙手することはしません。あるいは、挙手しない子どものなかには、「○○君が発言しそうだから、ここは自分がいうこともないな」というふうに考えている子どももいます。まわりの友だちに譲るタイプですね。

一方で、熟考したりまわりに譲ったりするタイプの子どもでも、自分の発言がみんなのためになると考えたときには、一転して発言をすることもあります。たとえば、クラスでの話し合いでみんながひとつの意見に傾いて盛り上がっているときに、「このままでは誰かが傷つく」と思ったような場合には発言をするというようなことです。

ですが、しっかり考えることができる子どもは基本的にはあまり挙手をしません。これは、高学年になるほど挙手をしなくなるということにも表れています。高学年になって挙手をしなくなるのは、引っ込み思案になるわけでもなんでもなく、子どもが成長して、いろいろなことをしっかり考えることができるようになるからなのです。

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おしゃべりでも物静かでも、それは子どもの特質に過ぎない

そう考えれば、物静かな我が子に「もっと元気良く積極的になってほしい」と思っているような親もなにも心配する必要はありませんし、むしろ「元気良く積極的になってほしい」という願いなど捨て去るべきです。

教員をしているわたしの立場からいわせてもらえば、クラスの全員が全員、元気が良くておしゃべりな子どもばかりだったら、うるさくて耐えられないかもしれませんよ(笑)。子どもたちそれぞれに個性があって、すごくおしゃべりな子がいて、逆にすごく物静かな子もいることが普通なのです。

おしゃべりでも物静かでも、それは子どもが持って生まれた特質であり個性です。たとえば、すごく元気が良くておしゃべりな子どもの場合、作文は苦手だということもよくあるケースです。一方で、普段は寡黙だけど、作文となったらすごくいい文章を書くという子どももいます。これは、自己表現に関してそれぞれが持っている能力のちがいに過ぎません。

わたしからすれば、多くの親が贅沢な願望を子どもに対して持ち過ぎているように思います。元気良く挙手をしてほしいし、積極的に発言してほしいし、一方で勉強をするときには静かに集中してほしい。さらに運動もできて、友だちに対して思いやりのある子どもになってほしい……。

そういうまわりの価値観に自分の子どもをあてはめるのではなく、子どもが持って生まれた特質を尊重して、「生まれてきてくれて、今日も一緒にいてくれるだけでうれしい」と思ってあげてください。それが、引いては子どもの自己肯定感を育み、しっかりと自分の人生を歩める子どもに育てることになるのですから。

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■ 千葉大学教育学部附属小学校教諭・松尾英明先生 インタビュー一覧
第1回:「勉強しなさい」といい続けたら将来どうなる!? 子どもの才能を摘まないために――
第2回:クラスの「困っている子」と「困った子」。子どもの行動にはさまざまな要因がある
第3回:熟考する子どもは積極的に手を挙げない。挙手指名制が受け身の子どもをつくる
第4回:求められるのは「想像」「創造」「協働」の力。「困っている子」がいてありがたい!?

【プロフィール】
松尾英明(まつお・ひであき)
1979年8月24日生まれ、宮崎県出身。千葉大学教育学部附属小学校教諭。「教育を、志事にする」を信条に自身が志を持って教育の仕事を行うと同時に、志を持った子どもを育てることを教育の基本方針としている。野口芳宏氏の「木更津技法研」で国語、道徳教育について学ぶ他、原田隆史氏の「東京教師塾」で目標設定や理想の学級づくりの手法についても学ぶ。著書に『「あれもこれもできない!」から…「捨てる」仕事術 忙しい教師のための生き残りメソッド』、『新任3年目までに知っておきたい ピンチがチャンスになる「切り返し」の技術』、『子どもの顔がパッと輝く! やる気スイッチ押してみよう! 元気で前向き、頑張るクラスづくり』(いずれも明治図書出版)などがある。他にも教育関係の情報発信に力を入れており、ブログ「教師の寺子屋」を主宰し、メルマガ「「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術」は「2014まぐまぐ大賞」教育部門賞を受賞している。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。