移動が多くなる時期、頭を悩ますのは「途中で子どもがぐずらないか」「周りに迷惑をかけないか」ということなのではないでしょうか?
公共の交通機関はもちろん、たとえ車の移動だったとしても、長時間となると子どもは飽きてグズグズしがちですよね。そんなとき、ついカッとなって「静かにしなさい!」「もう知らないからね!」と言ってしまうと、ますます子どもは言うことを聞かなくなってしまいませんか?
今回は、長距離・長時間の移動のとき、ぜひ覚えておいてほしい対処法や「声かけ」のヒントをお教えします。
移動中、聞き分けが悪くなるのはなぜ?
2010年、JR東海は子どもと一緒に移動する人専用の『ファミリー車両』の運行をスタートしました。これは「子どもが泣いたり騒いだりするたびに、周囲の方に謝りながらデッキに行くなど、肩身の狭い思いをしている」という新幹線の利用者の声を反映した取り組みです。小さい子どもを連れた家族が気遣いなく乗車できると評判を呼び、今ではチケット発売後にすぐに完売することも。それほどまでに、世の親御さんたちは移動のたびに「子どもが騒いで迷惑をかけないか」と気を揉んでいたのです。
なかには心無い言葉を投げかけてきたり、「自分の子どもなのに静かにさせられないの?」と不思議がる人もいたりと、小さい子ども連れに対する理解が進まないことも、親御さんを苦しめている一因となっています。
一方で、
「普段はもっと聞き分けがいいのに……」
「非日常的空間にテンションが上がっているのかな……」
と周囲に申し訳ないと思いながら、なんでいつものやり方では効果がないんだろう? と不思議に思うこともあるのではないでしょうか。
発達心理学が専門の白百合女子大学教授・秦野悦子氏によると、長距離移動中に子どもの聞き分けが悪くなるのにはちゃんと理由があるそう。
親の都合で子どもの遊びを一方的に切り上げたり、1日連れ歩いたりすると、子どもは次の行動の見通しが持てず、その時、その場で好奇心を満たそうとするため、普段より聞き分けが悪くなります。
(引用元:PHPファミリー|子どもの「ダダこね」には必ず理由がある!?)
つまり、大人の都合を優先することが子どもを不安な気持ちにさせ、ダダをこねたり、気持ちを切り替えることができなくなったりするんですね。
そこで重要になるのが「事前の言い聞かせ」です。
事前の言い聞かせと説明で不安を取り除く
NPOマナー教育サポート協会理事の岩下宣子先生によると、幼稚園以上の子どもなら、絵本などで疑似体験をさせるのがおすすめだそうです。
絵本を通じて電車にはいろいろな人が乗っている可能性があること。眠たい人、本を読んでいる人、考えごとをしている人、頭が痛かったりおなかが痛かったりする人や、悲しいことがあった人がいるかもしれない。だから静かにしようね。などとどうして静かにしなければいけないのか説明をして伝えておくといいですね。
(引用元:いこーよ|電車で我が子が騒いだら!?マナーのプロの年齢別対応マナー)
『でんしゃにのって』(とよた かずひこ 著.アリス館)
『でんしゃにのろう』(斉藤 洋 著.講談社)
また、5歳くらいからは先の見通しもできるようになってきます。旅のスケジュールをわかりやすく伝えたり、簡単な「旅のしおり」を作ってあげるのもいいでしょう。要所要所に子どもがワクワクする「お楽しみポイント」を書いてあげれば、移動中も「この先には楽しいことがある!」と不安をかき消してくれるはずです。
大人だって、何も知らされずにいきなり電車や飛行機に乗せられると不安になりますよね。「行き先は〇〇だよ」「○時間くらい乗るよ」「途中でごはんを食べようね」などと説明してあげることで、安心して移動時間を過ごすことができるでしょう。
3歳までは親がお手本を。4歳以降は理由を説明する
3歳くらいまでは「大声を出してはダメ」「じっとしていなさい」と言っても伝わらない子がほとんどです。それどころか、構ってもらえることが嬉しくてさらにヒートアップしてしまう子も多いのではないでしょうか。
まだまだ幼いお子さんに対しては、言葉で伝えるよりも親御さん自身が小声で語りかけるなど、お手本になる行動を見せる方が手っ取り早いでしょう。
また、同じ意味でも言い方を変えるだけで、子どもは意外と素直に受け入れることもあります。臨床心理士の福田由紀子氏によると、「〜しない」というマイナス方向の努力は我慢のみを強いてしまうため、継続が難しいといいます。たとえば、「大きな声でしゃべっちゃダメ」を「ママとコショコショ話しよう」に変えてみると、子どももすんなり行動に移すことができるはずです。
4歳以降になると、理由をきちんと説明して納得させるようにしましょう。どうして静かにしなければならないのか、また他のお客さんの気持ちを想像させることも効果的です。親が思っている以上に、小さい子どもにも理解力や共感能力が備わっています。「言っても理解できないだろう」と諦めるのではなく、お子さんに伝わりやすい言葉を選んで説明してみましょう。
具体的に伝える
「大人は指示をして子どもを動かそうとしがちですが、モチベーションがアップする言葉を具体的にかけられた子どもは、一瞬にして生き生きとした表情に変わります」と述べるのは、子育て学協会会長兼チャイルド・ファミリーコンサルタントとして活躍中の山本直美氏です。
山本氏は幼稚園教諭としての自身の経験から、「子どもたちは、具体的な言葉でイメージさせてあげないとほとんどのことが理解できない」といいます。「ちゃんと座って!」「じっとして!」と言い続けても、子どもは何度でも同じことを繰り返し、親も疲れ果ててしまいますよね。
そんなときは、具体的な説明や提案をしてみませんか?
たとえば、
「おうちから持ってきた本をお膝に乗せて一緒に見ない?」
「次の駅まで、面白い看板がいくつ見つかるか競争しよう」
何をすればいいか、具体的に理解できれば子どもは先の見通しが立ち、楽しんで行動を起こすことができます。
「ありがとう!」感謝の言葉が子どもを動かす
『伝え方が9割』(ダイヤモンド社)の著者・コピーライターの佐々木圭一氏は、「北風と太陽」こそが伝え方の極意であり、それは子どもにも充分通用すると述べています。
人は感謝をされると相手のお願いを拒否しにくいーー。この心理を利用して、子どもがムズムズし始めたらすかさず「静かにしてくれてありがとう!」「電車が来るまでじっと待っててくれてありがとう!」と、言ってみましょう。するとお子さんは、自分の行動がお母さん・お父さんに喜ばれていることを誇りに思うはずです。その結果、少しずつでも期待に沿うような行動を心がけるようになるでしょう。
また、子育てについて多数の著書があるカウンセラーの高橋愛子先生は、「しつけは叱らなくてもできる」と説きます。高橋先生がすすめるとっておきの方法は「過去形で褒める」こと。
たとえば「前に電車に乗ったときよりも静かにできるようになったね」と以前の子どもの様子と比べたり、「今、静かにしようとしていたんだよね」とこれからしようとする意欲を褒めたりすることで、子どもを“暗示”にかけるのです。
高橋先生は「子どもがこれからしようとする行為を親が言葉で表現してあげれば、できたときのイメージが明確になり、その通りに行動できるようになります」と述べます。
またこの方法は、親御さんのストレスも軽減できるというメリットが。子どもを必要以上に叱って後悔したり、落ち込んでしまったりすれば、せっかくの楽しい気持ちが半減してしまい、目的地に着いてからも思う存分楽しむことができません。
親の声かけひとつで、移動中の不安やストレスが、“ワクワクの楽しい思い出”に変わります。ぜひ試してみてくださいね。
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周りに迷惑をかけないように、と考えれば考えるほど焦ってしまいますよね。まずは親御さんが落ち着いて、リラックスした気持ちで優しく声かけしてみましょう。きっとお子さんにもその気持ちが伝わり、驚くほど素直に聞いてくれるようになりますよ。
(参考)
東洋経済ONLINE|新幹線「子連れ専用車両」はなぜ生まれたのか
PHPファミリー|子どもの「ダダこね」には必ず理由がある!?
いこーよ|電車で我が子が騒いだら!?マナーのプロの年齢別対応マナー
KIDSNA|電車内での子どものマナー。「大声を出さない」などの上手な伝え方
All About|「ダメ!」が子どもに効かない2つの理由
「カリスマ先生が保育で一番大切にしてきた「言葉」」,日経DUAL,2018年1月号,pp86-87.
Milly|『伝え方が9割』の著者が教える ママのお願いを叶えるための伝え方
「何歳からでも遅くない「甘えさせる子育て」のすすめ」,プレジデントムック 小学生からの知育大百科,2018完全保存版,p76.