こんにちは、難波です。
前回は、携帯デバイス、とくにスマートフォンの何が問題かについてお話ししました。そこでは、スマートフォンのような小さい携帯デバイスは、コミュニケーションの三角形を作りにくく共同注視の場ができにくいこと、結果として共通の話題(たとえば、本やテレビなど)を間に挟んだ通じ合いも起こりにくいことをお話ししました。
ここで注意していただきたいのは、私は、何が何でもスマートフォンを子どもに持たせるのはダメだとは思っていないことです。
携帯デバイスの可能性に向き合わない日本の教育現場
前回にもお話ししたように、私は以前「子どもとインターネットを考える会」という会を作り、積極的に学校でスマートフォンのような携帯デバイスを使った教育、とくに携帯デバイスの持つ可能性そのものを教える教育をするべきだと訴えてきました。
しかし日本の学校は、携帯デバイスを学校に持ち込んだ教育をすることはありませんでした。自宅や自分用にスマートフォンを持っているにもかかわらず、学校でわざわざタブレット端末やコンピュータを購入し、インターネットにもつなぐことのない授業をしており、携帯デバイスの良さや問題点の教育はなされず、家庭に任せ放しになったのです。
日本の子どもたちは、携帯デバイスの可能性と問題点のどちらも、自力で学ばざるを得ないようになりました。そして日本の親たちは、学校からアドバイスされることなく、自分の子どもにスマートフォンをどう与えればいいかを、これまた自力で考えざるを得ない状況に追い込まれました。
その結果、子どもたちはどうなったでしょうか。
携帯デバイス依存への分かれ道は“メタ認知能力”がカギ
次のグラフを見てください。すこし前ですが、私が関わった「子どもとインターネットを考える会」が、2011年に行った広島県内の中学生669名へのアンケート調査の結果の一部です。携帯電話をいつごろから持ったかということと、中学生段階の現在、一日何時間ぐらい携帯電話を使うかということをクロス集計したものです。
このグラフをご覧になるとわかるように、携帯電話を小学校1年生から持ったすべての中学生(100%)が4時間以上携帯電話を使用していました。小学校2年生から持ち始めた中学生も、50%が4時間以上使っています。
もう一つ注目すべきは、小1、小2と早くから携帯電話を持ち始めて「一日30分未満しか使用しない」という中学生は一人もいないということです。このことは、携帯電話を早く使い始めた子どもは携帯電話への依存を強めてしまっているということを表しています。
ところが、小学校3年生以上になるとそれほど差が出ていません。小学校3、4年はメタ認知能力が育つ学年だと言われています。これは、自分のことを自分で振り返られるようになってくる能力があるということです。
つまり、それくらいの年齢からは、子どもたちも分別を持って使用できるようになるということなのです(ただし、学年が上がっても依存を強めてしまう一部の子どもたちがいることには留意しなければなりません)。
これは今から数年前の調査です。携帯電話がスマートフォンとなり、さらに便利になった今は、もしかしたらこのような傾向はより強くなっているかもしれません。つまり、メタ認知能力が育つ以前(小学校2年生以前)に、魅力的なスマートフォンなどの携帯デバイスを持ったため、依存性が強まっているかもしれないということです。
先ほども申し上げたように、スマートフォンなどの携帯デバイスについては、学校における教育にはそれほど期待できません。家庭でしっかり教育をしなければならないのです。だとすると、このような調査結果は、家庭における「携帯デバイス教育」において無視できないことになるでしょう。
家庭における携帯デバイス教育の注意点
前回、今回とスマートフォンなどの携帯デバイスについて考えてきました。ここまでのことをふまえて、家庭における「携帯デバイス教育」に関する私からの提言をまとめておきます。
- スマートフォンなどの携帯デバイスについては、学校での教育は望めないので、家庭での教育を意識的に考えておくこと
- スマートフォンのような小さいデバイスでは「共同注視」が難しいことから、乳幼児には渡したままにはしないこと。できれば、タブレットのようなみんなと見ることができるデバイスを使うほうがいいこと
- 小学校2年生くらいまでは、子ども専用のスマートフォンを渡すことについてはよく考えたほうがいいこと
なにより、携帯デバイスのよさ・おもしろさを、親と子が一緒に楽しむことが大切です。そこには、共同注視そして共通の話題からの通じ合いも起きる可能性があるからです。本もテレビも携帯デバイスも、親子一緒に楽しむのです。
さて、次回はいよいよこの連載の最終回です。ことばと教育について最後に私からお話したいことで締めくくろうと思います。