あたまを使う 2019.12.10

お手伝いで子どもの「自制心」が育つ“脳科学的メカニズム”

お手伝いで子どもの「自制心」が育つ“脳科学的メカニズム”

普段は元気いっぱいに遊び回っていても、必要なときには「遊びたい」気持ちを抑えてやるべきことをしっかりやる――。親なら、子どもにはそんな自制心を持った子になってほしいものです。著書の『脳科学的に正しい 一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)で注目を集める脳科学者・西剛志先生は、「自制心を育てるにはお手伝いをさせるべき」だといいます。その理由を、脳科学の観点から教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/和知明(インタビューカットのみ)

自制心が高いほど、学力が伸びて社会的成功をつかめる

教育熱心なみなさんなら、いわゆる「非認知スキル」の重要性は知っているでしょう。学力よりも大切だとされる、テストでは測れない力のことです。それには創造力やコミュニケーション能力、困難を乗り越える力などさまざまなものがありますが、なかでも「自制心」は非常に大切な力のひとつです。

というのも、アメリカのデューク大学の研究によって、自制心がある子どもほど社会的な成功をつかむということがわかっているからです。その研究では、1,000人の子どものセルフコントロール力、つまり自制心を調べ、彼らの人生の歩みを追跡調査しました。

すると、自制心が高い子どもほど、大人になったときに高い収入を得て高い社会的地位にいたのです。一方、自制心が低い子どもはどうなっていたかというと、ギャンブルに走ったりドラッグに手を出したりと、親なら避けてほしい状況に陥っていました。

また、みなさんが気になるところとしては、自制心と学力の関係もあるでしょう。学力より大切だとされる非認知スキルのひとつである自制心ですが、それが備わっていることで学力も上がることについては、いくつもの研究データがあります。たとえば、自制心がある子どものほうが数学力や言語能力が高くなるというデータや、アメリカの大学入試の成績がいいというデータもあります。

ただ、自制心と学力の関係については、あらためて研究結果を見るまでもなく、容易に想像できますよね? 勉強をしなければならないときには、「遊びたい」といった気持ちを抑えて勉強することができるのですから、学力が伸びるのも当然です。

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自制心がある子どもは「思いやりがある」人間になる

また、自制心が高い子どもは、ある人間的魅力を備えることにもなります。脳科学の研究において、自制心が働いているときに活性化する脳の特定の部分がわかっているのですが、その部分が別のことをしたときにも同じように活性化するのです。「別のこと」とはなにかというと、なんと「他人に対して思いやりを持った」ときなのです。

意外に感じられるかもしれませんが、ちょっと考えればすぐに納得できるはずです。他人を思いやるとはどういうことかというと、自分の欲望をコントロールして他人のために尽くすことですよね。つまり、他人を思いやるとは、自分を抑制していることにほかならないのです。

他人を思いやることができれば、周囲と無駄な衝突をすることなどなく、コミュニケーション能力を伸ばすことにもなります。そうすれば、仕事でもプライベートでも周囲と良好な関係を築いていけるのですから、人生における成功により近づけるわけです。

「自制心」というと、字面から個人のなかで完結する力のように思えるかもしれませんが、そうではありません。他者とのかかわりにおいても非常に重要な力だといえるのです。

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自制心を育むために有効なゲーム、スポーツ、お手伝い

これまでの話を踏まえると、子どもの自制心をしっかり伸ばすことの重要性をご理解いただけたと思います。そして、自制心を伸ばすために有効なもののひとつが、ゲームやスポーツです。自制するとは、ただじっと我慢することだけを指すわけではありません。ルールがあって制限されているなかでいかに力を発揮するか、楽しむかと考えるような場面でも、自制心はしっかり働いています

たとえば、「だるまさんがころんだ」なら、子どもは鬼に近づきたくてうずうずしています。でも、鬼が振り向いているときは動いてはいけないというルールが存在する。そのなかで自制心が育つわけです。

それから、「お手伝い」も自制心を育むためにとても有効です。子どもというのは、なにかと親の真似をしたがるものです。夕飯の買い物に行った帰りに、「買い物袋を持ちたい」と子どもにいわれた経験は多くの人にありますよね。

この発言は、そもそもは「親のまねをして自分もやってみたい」というただの欲求からのものです。ですが、実際にやらせてみたあと、「ありがとう」と伝えてあげたらどうなるでしょうか。子どもにとっては、他人を思いやることができれば褒めてもらえるという快感を得ることになります。そうして、「誰かを思いやることはいいことなんだ」と認識するわけです。

先に述べたとおり、「他人を思いやる」ことは「自制心を発揮する」こととイコールのものです。つまり、子どもが「やりたい」というお手伝いをさせることが子どもの自制心を育むことになるのです。

お手伝いの内容によっては、子どもに任せたくないこともあるでしょう。買い物袋に重いものや割れやすい卵が入っていたら、心配しながら子どもに任せるよりは自分で持ちたいと思うはずです。でも、「子どもの自制心を育むため」と考え、できるだけ子どもの「やりたい」を大切にしてください。

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■ 脳科学者・西剛志先生インタビュー一覧
第1回:家のなかに生活感を! 子どもの「創造力」を伸ばすために親ができること
第2回:お手伝いで子どもの「自制心」が育つ“脳科学的メカニズム”
第3回:集中力がない、聞き分けがない、内気。子どもの性格の「困った」はどうする?
第4回:子どもを自立できる人間に育てる――脳科学者が考える「理想の子育て」

【プロフィール】
西剛志(にし・たけゆき)
1975年4月8日、鹿児島県出身。脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。LCA教育研究所顧問。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、(一財)知的財産研究所に入所。2003年に特許庁入庁。大学非常勤講師を兼任しながら、書籍出版、雑誌掲載、ノーベル賞受賞者との対談、世界旅行、結婚、当時日本に1100人しかいない難病の克服など、多くの夢を実現。その自身の夢をかなえてきたプロセスが心理学と脳科学の原理に基づくことに気づき、いい人生を歩むための脳科学的ノウハウを企業や個人向けに提供するT&Rセルフイメージデザインを2008年に設立。現在は、脳科学を生かした子育ての研究も行う。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。