有名な温泉地である箱根。芦ノ湖の海賊船や小涌園ユネッサンなど子どもも楽しめるので、現地ではたくさんのご家族連れを見かけます。
彫刻の森美術館をはじめとして自然の中でアートを楽しめる数ある美術館の中で、ポーラ美術館は “おとなの美術館” というイメージがあるのではないでしょうか。でも実は、子どもも楽しめる美術館なのです。その魅力をご紹介します。
ポーラ美術館について
ポーラ美術館は2002年、創業家2代目の鈴木常司氏が40年以上かけて収集したコレクションを元に開館しました。そのジャンルは西洋絵画、日本画、東洋陶磁器、ガラス工芸など多岐にわたり、総数1万点以上。特に印象派コレクションには定評があり、モネやルノワールなど約100点の所蔵は日本最大級と言われています。
仙石原の自然豊かな地にあることから、美術館のコンセプトは「箱根の自然と美術の共生」。実際に訪れてみると、建物の佇まいにもアートにも自然と混じり合う柔らかな印象を受けます。この優しいコンセプトが子どもたちとアートの距離を縮めてくれているようです。そこはやはりオーナー会社が女性視点の会社だからなのかもしれませんね。
ポーラ美術館ならではの視点による企画展、作品の見せ方
“女性の美” を扱う会社だけに、作品収集や企画展のテーマにその影響は明らかです。愛、平和、自然美などを感じさせる作品が並んでいます。
展覧会は、基本的には豊富な所蔵品の中からそのときのテーマに合わせて作品を選び、他の美術館からの借用作品とともに、テーマに沿った見せ方をします。なので、同じ作品がたびたび登場することがあります。ポーラ美術館の企画のうまさはここ。テーマに応じて同じ作品も違う側面から鑑賞することができるからです。
例えば、2018年7月22日~12月2日開催の「ルドン ひらかれた夢—幻想の世紀末から現代へ」では、19世紀末から20世紀はじめ頃までフランスで活動したオディロン・ルドンに焦点を当てています。
日本ではあまり知られていないルドンとモネは同い年。印象派全盛の時代に一線を画する作風を崩さなかったルドンと成功者モネの対比や、「もしかしたら二人は友だちだったかも?」など親近感と想像を掻き立てる設定、ルドンが影響を受けた先人たちやルドンの絵画と共通点を見出す現代作家の作品などを並べて展示するなど、ルドンを共通点に多角的に作品が集められています。ただ並べられた作品を眺めるのではなく、コースに沿って見ていくと、最後にはひとつのストーリーを見終えたような感覚になるのです。
その過程でモネの作品も登場しますが、ルドンの作品との対比で鑑賞する「睡蓮」は、当時の時代背景が絡み合ってまた違った味わいでした。
このような展示の仕方が、子どもたちにも見やすい工夫となっているように思います。ただ観るだけではなく、自分なりの見方や発見を通して、アートへのモチベーションが自然と湧く展示の工夫が感じられるのです。
ルドン作品の象徴「目玉」の絵からも見て取れるように、その幻想的な世界観は、現代のマンガやアニメーションにも通じるものがあり、アート作品としてのアニメ動画展示なども含めて特に子ども達に楽しめる内容になっています。
開放感あふれる建築
美術館の核である所蔵作品以外の魅力のひとつが建物そのものです。建築家の安田幸一氏は、権威ある村野藤吾賞をこのプロジェクトで受賞。「自然と美術の共生」のコンセプトは施工面、デザイン面の両面で生かされています。
施工面では、富士箱根伊豆国立公園の自然をできるだけ現存するそのままの形で残すための緻密な調査の元に、建築場所を選び、美術館の営みが周りに及ぼす様々な影響を極力抑える最大限の配慮がなされています。
デザイン的には、ガラスを多用することで外の自然を感じ、開放感を演出するとともに、吹き抜けのアトリウムロビーは、初めてきた人にもわかりやすく美術館の構造を見渡せるような工夫も。森に馴染むよう建物の高さは8mに抑えられているため、その姿は悪目立ちせず、木々に埋もれるように佇む風情は控えめでありながら上品です。
自然光が差し込むオープンな空間には随所にアートが散りばめられていて感性をくすぐられます。子どもたちにとっても非日常の贅沢感が味わえて感受性が刺激されるにちがいありません。
アート観賞の後に。森の散歩道
ポーラ美術館を訪れたら必ず寄ってほしいのが、美術館の周りに広がる「森の散歩道」です。人間の創造物であるアートを堪能した後に、今度は豊かな自然美を体感できる贅沢。これは都会の美術館では味わえません。
ブナやヒメシャラが群生する国立公園の自然の中をのんびり歩いていると、つい先ほど見たアートが自分の中で自然と消化されて、身にしみ込んでいく気がします。
散歩道はとても綺麗に整備されているので、小さなお子さんの足元にも安心。途中には森に自生する木々や鳥達の説明書きもあるので、子どもと一緒に楽しみながら自然を学ぶことができます。
充実の子ども向けサービス
子どもに優しい美術館としてのサービスも充実しています。
■子ども用ワークシートを配布
小さな子ども向けと小中学生向けの2種類があって美術館を楽しむためのガイドブックとなっています。
■こどもぷち絵本美術館
地下2階ロビーに美術をテーマとした絵本を集めたコーナーがあります。鑑賞時の休憩場所としても活用できます。
■土曜日は小中学生入場無料!
たくさんの子どもたちにアートに触れて楽しんでほしいという美術館の想いから実施されています。
■イベントの開催
子ども向けイベントもときどき開催されていますよ。夏休みには、学芸員と一緒に作品を鑑賞し、自由にディスカッションする「子ども美術鑑賞会」が開催されました(参加費無料)。また、8月末に開催された美術館の森でキャンプして一晩を過ごす「FOREST MUSEUM」(参加有料)は、ギャラリートークや屋外シネマなど普段できない体験ができる魅力的なイベントでした。日頃からチェックしておいて、イベントに合わせて訪れてみるのもいいですね。
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展覧会以外にもロビーエリアなどで随時企画展示が行われていて、オブジェや現代アートなどが楽しめます。広々した明るい空間に置かれたアートは、息吹が吹き込まれたように生き生きと目に映ります。
所蔵品の中で筆者がお子さんにオススメの作品が、レオナール・フジタの「小さな職人たち」シリーズ。仕立て屋、椅子職人、ガラス職人など、子どもたちがそれぞれの仕事に真剣に取り組む姿をユーモラスに描いた連作で、とても可愛らしい作品です。タイル状の正方形が連なる小品なのですが、ひとつひとつに小さな職人たちの姿が描かれていて、子どもと一緒にそれぞれ何の職業か想像しあいながら見るのも面白いと思います。
売店には子ども向けの美術本も充実しています。たくさんの魅力を備えたポーラ美術館。「自然と美術の共生」をぜひ体感しに、ぜひ訪れてみてください。
(参考)
ポーラ美術館
竹中工務店|ポーラ美術館
日建設計|美しい緑に包まれる美の館 ポーラ美術館
ARTAgendA|ルドン ひらかれた夢—幻想の世紀末から現代へ