たくさんの手助けが必要だった赤ちゃんの頃とは比べものにならないくらい、自分でできることが増える4歳。言葉の数も増え、きちんとコミュニケーションがとれるようになってくるのもこの頃です。
しかし同時に、自分のこだわりや主張を通そうとして周囲とぶつかってしまったり、急に初めてのことに物怖じするようになったりも。それ以前にはほとんど悩むことなどなかった問題が次々と現れる、いわゆる「4歳の壁」にとまどってしまう保護者も多いのではないでしょうか。
子どもの成長過程において4歳がどんな時期であるのかを踏まえながら、親が心がけたい対応の仕方をご紹介していきましょう。
心が急に成長し、コントロールが難しくなる時期
オランダ心理学会(NIP)認定心理士でポジティブ育児研究所代表の佐藤めぐみさんによると、子どもは4歳を過ぎると大脳の発達が進み、脳や心の認知能力が大きく伸び、より複雑な思考ができるようになってくるそう。その急な変化に子ども自身は戸惑いや葛藤を感じ、気持ちのコントロールがうまくできなくなってしまうんだとか。そこから生まれた言葉が「4歳の壁」です。
ただ、その “壁” の高さは人それぞれ。「魔の2歳児」や「3歳児神話」などといった言葉が影響し「4歳になればきっと楽になるだろう」という印象が生まれ、ちょっとしたことでも 親が “壁” と感じてしまうパターンもあります。
見通しがつき、自制心が芽生える4歳
少し先のことまで見通しがつくようになり、今やりたいことと、この先やりたいことを天秤にかけ、先のお楽しみのために我慢するという自制心が生まれてくるのがちょうど4歳頃。
子どもの中に「〜ダケレドモ〜スル」という自制心が生まれてくると、「痛かったけど、わざとじゃないからたたき返さない」「悔しいけれど、たたかずにことばで伝える」など、ぐっと自分の中で衝動を抑えて、「よりよい自分」をつくることができるようになってきます。
(引用元:西川由紀子(2013),『かかわりあって育つ子どもたち 2歳から5歳の発達と保育』,株式会社 かもがわ出版.)
ただし「よりよい自分」をつくりたいという気持ちがあったとしても、衝動が抑えられずイライラすることも、もちろんあるのです。もしも子どもがそのイライラに任せてつい手が出てしまったり、攻撃的な態度や行動を取ってしまったら、頭ごなしに叱るのはNG。
まずはどうしてそうしてしまったのか、どうしたらよりよくなるのかを、一緒に考えてあげましょう。そのきっかけがたとえどんな些細なことだったとしても、「なんだ、そんなこと?」とは言わず、子どもの目線になって寄り添ってあげることが大切です。
見通しがつくからこそ、物怖じしてしまう4歳
それまではどんなことにも果敢にチャレンジしていたのに、4歳頃になって急に臆病に……という変化が現れることもあります。
3歳を過ぎると想像力が急に働きだし、たくさんの疑問を持つと同時に、目に見える世界と想像の世界の両方を恐れるようになる、と動物学者のデズモンド・モリス氏は言います。
かしこくなればなるほど、自信が積み上げられてきたこれまでと違って、ここで獲得するかしこさは、自分の不十分さに気づくかしこさでもあります。時には、自我が萎縮して「やりたくない」と言ったり、はつらつとした子どもらしさとは異なる表情を見せます。
(引用元:同上)
人からの評価にも敏感になっているこの時期。親からの声がけや、大人同士の会話にも注意が必要になってきます。
やってしまいがちなのは、せっかく子どもが褒められているのに、謙遜のつもりでうっかり子どもの心を折れさせてしまうこと。たとえば、ほかの子のママに活発な様子を褒められても「いえいえ、全然! 活発でも親譲りで運動はダメなんです」なんて応えてばかりいると、子どもは「どうせ僕は運動がダメなんだ」と意欲を失ってしまいます。
幼い子どものあらゆる挑戦は、スポーツの試合などとは違い、「結果が全て」ではありません。がんばっていること、夢中になっていることに対しては、ほんの少しの進歩にも着目し、褒めたり励ましたりしてあげたいものです。
「〜しなかったら、〜になっちゃうよ!」は完全にNGワード
また、成長と共にできることが増えてくるにつれ、言うことを聞いてくれないことが余計にもどかしく感じることも多くなってきます。すると思わず「〜しなかったら、〜になっちゃうよ!」とマイナスの事例を挙げながら叱ってしまいがち。
しかし、いやなことが待っているから……と考えながら動くのは、子どもでも大人でも、決して楽しいものではありません。
なかなか言うことを聞いてくれないときに、お仕置きのような罰を与えたくなるかもしれませんが、お仕置きや体罰などはしつけとしては有効ではありません。しつけは、望ましい行動を教えること。お仕置きや体罰は、その場の問題行動を止めることはできますが、新たな行動を学ばせる力はありません。
(引用元:All About|4歳児の癇癪・反抗期!イヤイヤ期の後も続く「4歳児の壁」とは)
このように、お仕置きや体罰などは、教育的にほとんど効果がないのです。逆に、「〜したら、〜できる」という、後に「お楽しみ」が待っているようなプラスの想像力を働かせる声がけなら、自発的に動いてくれることも増えますよ。
たとえば、ご飯を食べるのが遅い子どもには、以下のような【OKワード】が効果的です。
【OKワード】
「しっかり食べて“ごちそうさま”をしたら、◯◯で遊べるね」
【NGワード】
「のんびり食べていると、遊ぶ時間がなくなっちゃうよ!」
また、小さなことでもできたことをほめてあげると、次もがんばろうと思えるもの。
【OKワード】
「脱いだお靴を揃えてえらい! きっと次にお出かけするときも気持ちが良いね」
【NGワード】
「またお靴が脱ぎっぱなし……もう、何度言ったらわかるのよ!」
「やればできるじゃない。だったらいつもちゃんとお靴を揃えてよね!」
このように、ちょっとした良い部分や成長に気づける親のまなざしが、子どものモチベーションにつながります。
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子ども自身も内部で葛藤している4歳の時期。親が自分に寄り添ってくれたと実感してもらうことが、いちばんの対応策と言えそうです。忙しい毎日に子どもと真っ向から向き合い続けるのは難しいものですが、見守り励ますことを心がけることを忘れなければ、きっと壁を乗り越えていけるはずです。
文/酒井絢子
(参考)
All About|4歳児の成長ポイント……コミュニケーション能力や言葉の発達
All About|4歳児の癇癪・反抗期!イヤイヤ期の後も続く「4歳児の壁」とは
camily|4歳時のしつけ、子育てで意識すべきこと
ベネッセ 教育情報サイト|4歳男児の反抗期にどう対処していくべきか
西川由紀子(2013),『かかわりあって育つ子どもたち 2歳から5歳の発達と保育』,株式会社 かもがわ出版.
デズモンド・モリス(2010),『デズモンド・モリス 子どもの心と体の図鑑』,株式会社 柊風舎.