教育を考える 2018.8.31

自分でできるという自信が学習意欲につながる。「モンテッソーリ教育」成長のためのヒント【愛珠幼稚園園長 天野珠子先生】

自分でできるという自信が学習意欲につながる。「モンテッソーリ教育」成長のためのヒント【愛珠幼稚園園長 天野珠子先生】

理想では穏やかに子どもと接したいのに、現実は子どもに対してイライラしたり怒ってしまったりする親御さんは少なくないと思います。

子どもの教育のために、親が知っておくべき心構えとはどんなことなのでしょうか。モンテッソーリ教育を実践する愛珠幼稚園園長の天野珠子先生に伺いました。

取材・文/田中祥子 写真/大平晋也

子どもがやりたがっていることは成長したがっているということ。大人は怒らず、手助けを

――子育て中の親のイライラはどんな理由が多いのでしょう?

天野先生:
たとえば、お子さんが2~3歳頃になるとオムツを取ることを経験されますね。でも、親がおまるに連れて行ってもなかなか上手くいかないことがあります。それは早すぎるからです。肉体的にきちんと発達していないときは、子どもは排尿の筋肉を動かすことができないので、いくらやっても無理ですよ。教えたり怒鳴ったりしてもできるようになりません。

発達していないので出来ないことが当たり前なのに、やれと要求して親が勝手にイライラしているのです。「おしっこ」と言ったとたんにお漏らしをしてしまうこともありますよね。そういう時は怒らないで「よく知らせてくれたね」と言ってあげたらいいんです。

――子どもができないことをやろうとすると、つい怒ってしまうこともあります。

天野先生:
一人でできることが少なければ、いつまでもお母さんは手を掛けなければいけないでしょ。例えば、一人でコップの水を飲みたがるけれど、上手くいかなくて顔にかかってしまう。だからといって、いつまでもストローや哺乳びんに入れて飲ませていたら、顔にかかるということがずっと分からないままです。コップを持たせてどれくらい傾けていいのか経験させないといけません。親は手伝うだけで、あくまでも一人でやらせることが大切です。

子どもが「できない」ことには、手が届かない、場所が高すぎるといったいくつかの要因が重なっていることもあります。そのときは少し補助してその要因を除いてあげれば、できるようになるものです。洗面所が高かったならば、抱っこするのではなく、踏み台を置く。家庭の中で一人でできるように工夫すればいいのです。

子どもがなにかに挑戦しようとしているときは、怒ったりせず、その挑戦を手助けしてあげることが子どもの学びと成長につながります。

「モンテッソーリ教育」成長のためのヒント2

――幼稚園に通う子を持つ親御さんからお子さんについての相談を受けることはありますか?

天野先生:
「うちの子はおもちゃが片付けられません」と悩まれる親御さんが多いですね。それはおもちゃが多すぎるのです。子どもが遊んでいる様子をよく見てみると、子どもは全部のおもちゃを使っていないのです。ひとつに夢中なったときには、前に夢中になっていたものは使いません。

ですから、今必要なものだけを制限して出してあげましょう。ほかのいらないものはしまっておいて、本当に必要なくなったときには処分すればいい。多すぎると子どもはわけが分からなくなり、混乱してしまいます。数を少なくして、しまう場所を決めれば子どもは片付けられるようになります。これは家の片付けも同じですよ。お母さんも同じようにしてみてはいかがですか。

幼稚園に入ったときに靴を靴箱に入れようとしないお子さんがいます。それは、家庭で脱ぎっぱなしになっているから。これも、やはりおうちでもやってみてください。靴は、「園に履いていく靴」「外で遊ぶときの靴」「お出かけ用の靴」など2~3足だけにして、自分の靴をしまう場所に名前シールなどを貼ってきちんと決めるのです。もちろん、パパやママの靴を入れるところも決めてくださいね。

「モンテッソーリ教育」成長のためのヒント3

――子どものヒステリーで親が驚いてしまうこともあります。

天野先生:
2~3歳までは「秩序感の敏感期」ですから、いつも同じものが同じところにあることを好む時期です。例えば、いつも自分がご飯を食べる席に、お客さんが座るとものすごい勢いで泣いて怒ることがありますよね。これはいつもの秩序が狂わされるからです。

お母さんがいつもと違う服を着ると泣くとか、自分のお箸をお母さんが勝手に来客に貸したら怒るとか。このときの子どもは応用が利きません。大人のようにケースバイケースという訳にはいかないのです。でも、これは秩序感の敏感期のあいだだけのことです。ある程度時期が過ぎると融通性が生まれてくるので、もう少し大きくなるとお箸だって友達に貸してあげられるようになります。

ですから、そのときだけ気をつけてあげましょう。半年もないほど一時的なものなのです。

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子どもの教育は、指導ではなく、アドバイスを。自分でできるという自信が、学習意欲につながる

――どうやって子どもに接していけば良いのでしょうか?

天野先生:
親がやってあげようとしたら拒否するようなことは、どんどん子どもにやらせてあげればいいですね。子どもが一人でレインコートを着るとします。やっと着られたと思ったら、ボタンがずれている。その時、せっかく一人で着られたものを親が勝手に外してはいけません。

モンテッソーリ教育では、まず鏡を見せることにしています。子どもが自分の姿を見て自己訂正させる機会をつくってあげるのです。それで、子どもが外してほしいと言えば外してあげればいいし、自分でやるといえばやらせればいい。それでうまくできなかったとしても、自分でやったほうが、次から自分で注意をするようになります。人がやってくれたら、どこが間違っていたのか自分で気づくことなく終わってしまうでしょう。

今何ができているのか何ができていないのかという子どもの発達の様子を見極めながら、一歩退いて、指導ではなく、アドバイスをしていくのです。それには工夫も必要。子どもは靴を左右履き違えることが多いですよね。そんなときは親御さんに靴の中敷に絵を描いてもらいます。例えば、チューリップの形を半分に切って描いておけば、一目で右と左が分かる。そういう風に自分で気づけるようにしておけばいいですよ。

アドバイスの次には一緒にやることも大切です。歯磨きの習慣などは、親も子どもと一緒に磨くといいですよ。お手本があるということがとても大事なのです。ですから、上に兄弟がいるお子さんは自立が早いですね。一人っ子とか一番上のお子さんの場合は、集団生活を早めにするのもいいかもしれません。週に2回くらい児童館で遊ばせてはどうでしょう。

子どもにとって大人というのは、何でもできる完璧な存在ですから、競争心は沸きません。どうせお母さんとは同じようにできないと知っているのです。でも友達と、ましてや自分より小さい子といると競争心が沸いて、自立していきます。

自分のことが自分で出来て、それに自信を持たせることが何よりも大切です。その自信が学童期の学習意欲に繋がっていきますよ。

【プロフィール】
天野珠子(あまの・たまこ)
東京都世田谷区にある学校法人天野学園「愛珠幼稚園」理事長・園長。短大の保育科で「乳幼児心理学」や「幼児教育心理学」の教鞭をとる傍ら、日本で初めてのモンテッソーリ教員養成機関「上智モンテッソーリ教員養成コース」の3期生としてモンテッソーリ教育を学び、その後、お母さまが経営していた「愛珠幼稚園」を引き継ぎ、モンテッソーリ教育を30年以上にわたって実践。
現在、NPO法人東京モンテッソーリ教育研究所理事長、日本モンテッソーリ協会(学会)副理事長。駒沢女子短期大学名誉教授。

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天野先生のおはなしをお聞きしていると、子どもの行動の謎が解けて、「そうだったのか!」とスッと胸が軽くなった人もいるのではないでしょうか。子どもができないことを怒ったり心配したりする前に、子どもに備わっている成長や学びの力を応援する気持ちを思い出すことが大切なのかもしれません。次回は、モンテッソーリ教育の幼稚園から小学生にかけての応用などを伺います。

■ 「モンテッソーリ教育」天野珠子先生 インタビュー一覧
第1回:子どもの自主性を尊重し、集中力と柔軟な対応力を育む「モンテッソーリ教育」
第2回:子どもたちが自ら育つ力を応援する「モンテッソーリ教育」のメソッド
第3回:自分でできるという自信が学習意欲につながる。「モンテッソーリ教育」成長のためのヒント
第4回:ボキャブラリーが豊富な子どもは思考の展開が早くなる。日常生活にモンテッソーリ的発想を