学校では学べない力を手に入れることができるという「旅育」。文字通り、「旅を通じて行う教育」ですが、じつは旅そのものだけではなく「旅の後」も重要なのだそう。そう語るのは、旅育の第一人者である旅行ジャーナリストの村田和子さん。「遠足は家に帰るまでが遠足」といわれますが、旅育は家に帰った後も続くようです。その他の、旅育で重要となる考え方や具体的メソッドと併せてアドバイスをしてくれました。
構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
旅は時間感覚をつかむ機会にあふれている
移動が伴う旅は、子どもが「時間の感覚を学ぶ」にも最適です。そのためにも、まずは「スケジュールを共有する」ことが大切です。幼い子どもと旅行するときに親御さんがいちばん気を遣うのは、電車などでの移動中に子どもが静かにできるかというところでしょう。
よくあるパターンとしては、移動中に子どもが「あと何分? どれくらい?」と大きな声で何度も聞いてくるというもの。それに対して「あと少しだから静かにして」なんて言う親御さんもいますが、そもそもなぜ子どもがそうやって聞いてくるのかと考えたことはあるでしょうか?
じつは、「不安」が子どものぐずる要因になることが多いのです。スケジュールを知らなければ、いまある状態がいつまで続くのかわからず、大人だって不安になるでしょう? その不安を解消してあげるために、まずはスケジュールを共有してあげてください。「今日はここからここまで行くよ」「時間は何分くらいかかるから、なにをして過ごそうか」と事前に話してあげれば、子どもは安心感を得られ、静かにできることが多いと感じます。
同時に、スケジュールを共有することが時間感覚をつかむことにもなります。子どもというのは、どのくらいの時間になにができるかという感覚をまだつかめていないものです。旅にはその感覚をつかむ機会があふれています。
たとえば、電車の乗り継ぎに15分かかるとしましょう。「15分あるからなにをしようか」と子どもに考えさせるのです。経験を重ねるうち、「15分だとご飯を食べるのは難しいから、トイレに行って飲み物を買う」というふうに、徐々に時間の感覚をつかんでいくはずです。
そして、移動時間を家族のコミュニケーションに使うというのもおすすめです。家族旅行を敬遠する人は、移動中に子どもが騒がないかと心配することが多いようです。
でも、よく考えてみてください。家族といっても、親が仕事をして子どもが保育園や学校に通っていれば、全員が一緒に過ごせる時間は朝食や夕食の時間など本当に限られたものです。しかも、子どもが大きくなるにつれその時間はさらに減っていきます。でも、家族旅行での移動時間は必然的に家族が一緒に過ごすことになる。考え方を変えて、移動時間を貴重な家族のコミュニケーションの時間ととらえてはどうでしょうか。
子どもにチャンレンジを促す父親の役目
そして、旅先では子どもにいろいろなチャレンジをさせてあげてほしいですね。さまざまな体験プログラムなどの他、日常から離れた環境だからこそできるチャレンジも旅にはあふれています。もちろん、チャレンジすることには不安も伴います。それでもチャレンジをしたというその事実が、「次もまたやってみよう!」という積極性を子どもにもたらしてくれます。
そういう意味では、お父さんと子どもだけの時間、父子旅行などもおすすめですね。その間、お母さんはひとりの時間を楽しみ、リフレッシュすれば一石二鳥です。
共働き家庭が増えているとはいえ、子育ての中心はお母さんが担うことが多いものです。そのためお母さんは、一生懸命さや責任感から「危ないことはやっちゃ駄目!」と保守的になったり、「ちゃんと野菜も食べなさい」と、旅先でも日常と同じように細かいことを子どもに言ったりしがちです。なにを隠そう、わたしにもその傾向がありますしね(笑)。
でも、お父さんはワイルドというか、大人になっても冒険好きな部分を持っている方が多いようです。ちょっとくらい危ないことでも「やってみよう!」と子どものチャレンジを促す傾向が強い。子どもにとってまだ難しいことでも、少し背伸びをさせてチャレンジさせるのがお父さんという存在です。それでたとえ失敗したとしても、子どもは必ずなにかを得るはずです。
食事も、お父さんと子どもだけなら、「今日1日くらいいいよな」「お母さんには内緒だからな」なんて言って、揚げ物やスパゲティーなど好物だけを食べるということもあるかもしれない(笑)。
そんなお父さんと子どもだけの秘密の体験も、子どもにとっては印象深いものになります。それに、仕事が忙しいお父さんが日常のなかで子どもと一緒に過ごせる時間は本当に限られています。お父さんと子どもの絆を深める意味でも、父子旅行はとてもいいと思いますよ。
旅の記録を「モノ」として残して成功体験を思い出させる
最後に、旅が終わった後についてアドバイスをしておきましょう。子どもは未来を見て生きています。つまり、日々起きたことは脳の奥にしまわれていくのです。でも、せっかくなら、家族旅行の思い出や、旅先での成功体験を日常で思い出し、そのたびに子どもが自己肯定力を高めることにつなげたいものです。
そうするために、旅をなんらかのかたちで「モノ」として残してあげましょう。写真もデータのまま保存するのではなく、子どもと見返してプリントしてアルバムにする。あるいは、子ども自身が選んだイチオシの写真を部屋に飾ってみる。写真じゃなくても、旅先でつくった「モノ」を飾るということでもいいでしょう。それらを見れば、子どもは旅の経験、自分が頑張った経験を思い出すのです。
わたしの家庭では、旅先から家族それぞれがちょっとずつコメントを書いた絵葉書を自宅に送るようにしていました。息子に「パパとママがけんかした」なんて書かれたこともあります(笑)。写真に残っていないささいなことは意外と忘れてしまうものですが、こうしてコメントがあればしっかり思い出になるのです。
しかも、これは子どもの成長記録にもなります。幼いときは大きく拙かった字がだんだん小さくなり、そのうち難しい漢字も交じってくる。思春期になると面倒なのでしょうね。ほんのひとことになったりもする(笑)。写真のアルバムとはまたちがった思い出の残し方なので、ぜひトライしてみてください。
『家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ 旅育BOOK』
村田和子 著/日本実業出版社(2018)
■ 旅行ジャーナリスト・村田和子さん インタビュー一覧
第1回:子どもの人生は“旅”で幸せになる。いまの時代こそ親子で旅に出るべき理由
第2回:旅先での行動は“親子別々”に。“親の不在”が深める子どもの「自信」
第3回:旅の計画には“正解がない”。子どもの「考える力」を育む旅行プランの立て方
第4回:忘れてはいけない“旅の記録”。旅先での成功体験を思い出すたび「自己肯定力」が高まる
【プロフィール】
村田和子(むらた・かずこ)
1969年8月29日生まれ、神奈川県出身。旅行ジャーナリスト。2001年、生活情報サイト「All About」運営スタート時に旅行情報のガイドに就任したことを機に執筆活動を開始。モットーは「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」。現在は家族旅行を応援する旅行情報サイト「家族deたびいく」を運営しながら、消費者視点での旅の魅力や楽しみ方を年間100以上の媒体で紹介する他、旅行に関する講演、旅行サイトや宿泊施設のコンサルティングもおこなう。得意なテーマは旅育、家族旅行、ひとり旅、記念日旅行、ヘルスツーリズムなど。特に旅によって子どもの生きる力を育む旅育を村田式教育メソッドとして著書等を通じて啓蒙を進めている。一児の母。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。