ついつい口に出てしまう「勉強しなさい!」という言葉。いくら繰り返したところで子どもがやる気を出すようにならないのはわかっていても、黙っていられない! という親御さんはきっと少なくないはず。
しかし、主体的に学習する姿勢が子どもに身についていれば、自ら考え行動できるはず。したがって、「勉強しなさい」という声がけは、そもそも必要なくなります。では、どうすれば子どもの主体性を引き出すことができるのでしょうか?
勉強の強制は逆効果!?
「勉強しなさい!」と机に向かうことを強要し続けると、学年が上がるほど、いわゆる「馬の耳に念仏」に。すると、ますます親のイライラは募り、子どもは「ウザい」と感じるようになり、主体的な勉強からはさらに遠ざかっていくばかり……。
そのような悪循環に陥るのを防ぐためにも、なるべく早い段階から「勉強しなさい」という言葉を避ける必要がありそうです。つまり、勉強は強制するのではなく習慣化するよう心がけるのが、伸びる子を育てるポイントになります。
実は、成績の良い子ほど親から「勉強しなさい!」と言われていません。
良い成績をおさめることができている子は、小学生のころから親にガミガミ言われなくても学習する習慣がついているのです。
私の経営する学習塾でも、成績が良い生徒には、「親に言われる前にやる」タイプが多く、彼らは自分で考え、前向きな気持ちで勉強を楽しんでいます。
(引用元:安村知倫(2017) ,『子どもの成績を「伸ばす親」と「伸ばせない親」の習慣』, 明日香出版社.)
また、東大生の6割は「勉強しなさい」と言われたことがないといいます。彼らは、子ども時代に自主性・主体性を重視した教育を受けてきたおかげで、「好きなことに思いっきり没頭できた」のではないかと言うのは、東北大学加齢医学研究所教授で医学博士の瀧靖之氏。
脳は、「好き」「興味がある」とポジティブなレッテルが貼られた情報ならば、思考が深まり、しっかり理解して記憶するようになるそう。「勉強しなさい」「やらなくちゃダメでしょ」などといったネガティブな声かけでは勉強が楽しいものだと感じることができず、拒絶するようになってしまうのも無理はありません。
まずは行動を認める声がけを
そうはいっても、いつまでも机に向かおうとしない子どもを黙って見過ごすことはできないですし、放っておいても進歩は望めません。まずは現在進行形で子どもの行動を認める言葉かけをするとよいと、学習コンサルタントでステージメソッド塾代表の西角けい子さんは言います。
たとえば、宿題をしているときに「宿題、頑張っているね」と、声をかけてみましょう。これは宿題や勉強に限らず、ごはんを食べているときに「おいしそうに食べているね」、ゴロゴロしているときに「疲れているみたいね」といった、子どもの「いま」に対する共感の言葉がけを心がけると、家の雰囲気もよくなり子ども自身も親から行動を認めてもらえると感じるようになり、自信につながってきます。
「宿題をやらなくちゃだめでしょ!」「今やろうと思ってたんだよ!」と言い合うような、怒る親とふてくされる子どもという悪しき構図からひとまず抜け出す簡単な方法です。
また、「褒めて伸ばす」とはよく言いますが、テストの点を褒めたり成績を褒めたりするのももちろんですが、まずは途中の頑張りを認めて褒めてあげることも大切です。
誰が見てもわかるような成果がなくても、姿勢よく机に向かっている、字を丁寧に書いている、難しい問題も投げ出さずに取り組んでいる、というような努力の過程の具体的な部分に注目し、「頑張っているね」「いいね!」と声をかけてあげましょう。
これは、いちばん身近にいる親だからこそできること。小さな努力を認められ褒められて育つ子は、やる気も出て、その積み重ねで大きな成果を生むはずです。
強制ではなく、きっかけづくりを
子どもの「いま」を認め、さらにはテストの結果などがんばった面を評価することができたら、次に、わかっていない部分を親子で確認し合います。
そこで親が「こんなふうに勉強してみたら」と提案するなどして、子どもが自分に合った勉強の仕方を発見するきっかけを作ってあげることが、勉強への姿勢を変えていくコツ。
勉強して賢くなることが実感できれば、子どもは面白がってそれに打ち込むようになります。例えば練習を重ねて50メートル走のタイムがどんどん早くなったり、あるいはピアノが上手に弾けるようになったりするのと同様、勉強することで賢くなるのは、誰にとっても快感なのだから。賢くなり、難しい問題が解けるようになると、子どもなりに手ごたえを感じてくれるものなのです。
(引用元:松永暢史 (2007) ,『子どもを親より賢くする本 子どもを賢くする親は、ここが違う!』, PHP研究所.)
子どもよりも少しだけ上のレベルの目標を設定し、「この目標を達成させるためにはどうしたらいいと思う?」と声をかけ、一緒に目標を達成するための方法や段取りを考えます。
ただし、一緒に考えているようで最終的に親が「こうしなさい」と決めてしまうのはNG。あくまでも、学ぶのは子ども自身。本人から「こういう方法があると思う」という考えを引き出すことが大切です。それによって成果を得ることができれば、自ら勉強に取り組む姿がみられるようになるはずです。
子ども主導で勉強時間を決めておく
しかし、まずは大前提として、宿題や勉強に取り組む「時間」を生活の中に作らなくてはなりません。そこで親が「夕食前に1時間は勉強するようにしなさい!」と押しつけても、子どものモチベーションは続きません。
自分で決めさせて実行させるほうが、子どもの責任感も育つというのは、チャイルドコーチングアドバイザーで桜ゼミナール塾長の安村知倫氏。子ども主導で、平日の何時から何時は宿題、何曜日の何時から何時は理科の復習、といったようなスケジュールを決めさせるのです。
まずは、1週間のうちで時間が決まっている行動を書き出し、空白時間を見つけ、そこに勉強時間を設定していきます。ただし、空白時間には勉強だけでなく遊び時間もしっかり組み込み、勉強内容は最終的に子ども自身が決めるとよいといいます。効率的なスケジュールを組むことができれば、親は決まった時間に「そろそろ時間だね」と声をかける程度で済むようになるはずです。
これは学習面だけでなく、健康で規則正しい生活を送るためにも有効な手段といえますが、親の協力も不可欠。できるだけスケジュールに沿った時間に子どもが夕食や入浴を済ませられるよう、生活の土台となる部分は崩さないようにしていけるといいですね。
努力の「見える化」がさらなるやる気を引き出す
さらに安村知倫氏は、子どもが自分で努力したことを「見える化」すると効果的だといいます。壁かけカレンダーを用意して、学校の宿題を含めたその日の家庭学習がきちんとできたら、カレンダーに◯をつけていく。学校のプリントを見直ししたら、ひとつの箱に入れていく。漢字練習や計算などの自学ノートを終わったら、同じ場所に積み上げていく。
カレンダーに◯が並んだり、箱にプリントがたまったり、ノートが積み重なったりしていけば、頑張った証拠が目に見えることで満足感が得られ、さらなるやる気を引き出すことができるのです。
この「見える化」した部分を親も一緒に喜ぶようにすれば、ますます効果的かもしれません。前述しましたが、親だからこそ知ることができる努力の過程を見逃さないことが大切です。テストや試験の「結果が全て」ではなく、それまでの努力が大切で尊いものだとわかっている子どもは、学習習慣が自ずと身につき、いずれ成績に反映されることでしょう。
***
家事や仕事を「頑張りなさい」と言われるよりも、「頑張っているね」と言われたほうがモチベーションを保てるのは、大人も同じ。何かを「やりなさい」と言われると逆効果になることが多いのは、振り返ってみれば合点が行くのではないでしょうか。「勉強しなさい!」を封印することができれば、親も子も少しずつ良い方向へ変わっていくはずです。
文/酒井絢子
(参考)
こどもまなび☆ラボ|「勉強しろ」は逆効果! 統計でわかった、親が本当にやるべき3つのこと
ベネッセ 教育情報サイト|「勉強しなさい」よりも効果的!?な、子どもの学習意欲を高める関わり方
プレジデントオンライン|自ら机に向かう子の親が欠かさない習慣 「勉強しなさい」と言わない理由
SankeiBiz|「勉強しなさい」は逆効果 勉強嫌いな子を変貌させた家庭の特徴
安村知倫 (2017) ,『子どもの成績を「伸ばす親」と「伸ばせない親」の習慣』, 明日香出版社.
明光2020教育改革室 (2018) ,『開始5分の「振り返り」から子どもの学力はぐ〜んと伸びる!』, 主婦の友社.
西角けい子 (2010) ,『子どもの成績は、お母さんの言葉で9割変わる!−−普通の子が次々日本一になったニシカド式勉強法』, ダイヤモンド社.
小林公夫 (2009) ,『「勉強しろ」と言わずに子どもを勉強させる法』, PHP研究所.
江藤真規 (2009) ,『勉強ができる子の育て方』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
汐見稔幸 (2007) ,『親子のハッピーコミュニケーション』, 岩崎書店.
瀧靖之 (2018) ,『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える究極の子育て「賢い子」は図鑑が育てる』, 講談社.
松永暢史 (2007) ,『子どもを親より賢くする本 子どもを賢くする親は、ここが違う!』, PHP研究所.