子どものなかには、中学年の頃までは勉強ができたのに高学年になったら成績が下がってしまう、逆に中学年まではぱっとしなかったのに高学年になったら一気に成績が上がる、いわゆる「後伸び」をする子どももいます。両者にはどんなちがいがあるのでしょうか。ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員の小川大介さんは、「幼い頃の熱中体験」に鍵があるといいます。
構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
後伸びする子、そうじゃない子のちがいとは?
「幼いときになにかに熱中した経験」があるかどうか――。これが後伸びする子どもとそうなない子どものちがいだとわたしは考えています。後伸びする子どもは、エネルギーにあふれています。体力だけでなく、好奇心や自分の世界を深めていく心のエネルギーも強い。そのエネルギーを生み出すのは、幼いときに好きなことを好きなだけやった経験です。
夢中になって遊び続けてパタンと寝てしまうような子どもっていますよね? 布団にもたどり着けずに電池が切れたように寝てしまうような(笑)。それは、自分の興味が向いているものに体力と心の限界まで熱中していたということ。つまり、そういう子どもは、なにかを「やりたい」と思ったときに瞬時に動けて限界まで集中し続ける力を持てているということなのです。
その「なにか」が勉強になったとしたらどうでしょうか。体と心の強いエネルギーを勉強に向けるわけですから、成績が伸びていくのは当然のことです。
つまり、後伸びする子どもにしたければ、幼い頃には好きなことを好きなだけやらせてあげる必要があります。幼い子どもが好きなことというと、たいていは「遊び」になるでしょう。それでいいのです。「なにをするか」ではなく、「なにかに熱中すること」が重要なのですからね。
「遊び」と「勉強」をわけて考える必要はない
そして、そもそも「遊び」と「勉強」をわけて考える必要もありません。むかしから定番の積み木など「知育玩具」と呼ばれるおもちゃがあるように、程度のちがいこそあれ、勉強には遊びの要素があり、遊びにも勉強の要素があるものだからです。
そういった勉強の要素を含む遊びを、わたしは『1日3分! 頭がよくなる子どもとの遊びかた』(大和書房)という本にまとめました。掲載している58種類のなかから、いくつかおすすめのものを紹介しておきましょう。
【頭が良くなる遊び】
1. 折り紙グシャグシャ遊び
親子それぞれが好きな色の折り紙を選び、まず手でグシャグシャと丸めます。それを開いて、折り目がかたちづくる○△□といったかたちを見つけて、ペンでなぞりましょう。そのうち、子どもが乗り物や動物のかたちを発見することもあるかもしれない。図形のかたちをとらえ、想像力を育むことにもなる遊びです。
2. ひたすら直線並べ遊び
積み木をひとつの入れ物に入れておき、「○○ちゃんのところからテレビまで積み木いくつかな?」などと声をかけ直線で積み木を並べさせます。自分の手でひとつずつ並べるため、ごく自然に長さや広さを体感することになります。最後は、積み木を一緒に数えながら片づければ、数の学習にもなりますね。
3. 言葉パズル遊び
50音が書かれている「あいうえおカード」を使って、相手がつくった言葉から抜いた1字を使った言葉をつくるという遊びです。たとえば、子どもが「あひる」とカードを並べたら、親がそのなかから「ひ」を抜いて「ひまわり」とする。今度は子どもが「ひまわり」から1字を抜いて好きな言葉をつくるという要領。どの1字を使うかを考え、それが含まれる言葉を思い浮かべることは、幼い子どもにとってはかなりの知的作業です。わざと子どもがまだ知らない言葉をつくって、それを教えるということもできますね。
習い事が成長する感覚、挑戦意欲を育てる
子どもが熱中することというと、習い事も挙げられます。習い事には子どもの成長に好影響を与えることがいくつも含まれています。ひとつは「多様性を知る」こと。世代や価値観が異なるさまざまな人に交じって、学校の先生とはちがう先生と習い事に取り組む。子どもは、これまで知らなかった世界を知ることになります。
もうひとつが、自らの「成長感覚をつかむ」ということ。習い事は、やったらやっただけ成果が見えるようにできています。スイミングでも書道でも、はじめたからには「○級になりたい、○段になりたい」というふうに思うものでしょう。
そのために、教室以外でも練習をするようにもなります。そして、努力を続けることで技能が身についていき、目標を達成したという成功体験を得る。これが、自分が成長していく感覚や挑戦意欲を育ててくれるのです。
もちろん、「熱中すること」が重要ですから、習い事も世間一般にいいと言われているものではなく、子どもが興味を示すものでなければなりません。とはいえ、習い事をはじめてもすぐに「もうやめたい」といったり「今度はあれがやりたい」と興味の方向が変わったりする飽きっぽい子どもがいるのも確かです。そういう子どもは、同じように飽きっぽく見えても、その原因は異なる場合があります。
赤ちゃんのように瞬間的に別のものに興味が向かってしまう、こらえ性がない本来の意味での飽きっぽさなら、「もう1回頑張ってみようか」と、やはり我慢することを教える必要があります。単に「うちの子は好奇心旺盛だから」で片づけると、成長能力がまったくないまま大きくなってしまう可能性があるからです。
もうひとつのケースは、単純に「ビビり」だというもの。面白そうと思って教室に行ってみたものの、先にはじめているまわりの子は自分より上手だった。そこで弱気になって、「やっぱりやめる」と逃れようとしているのなら、そこは親が励ましてあげるべきでしょう。もちろん、家でも子どもと一緒に練習をする。そうして練習すれば、確実に上達するという事実を教えてあげればいいのです。
いずれにせよ、飽きっぽく見える子どもの裏になにが潜んでいるのかを見定めてあげて、熱中体験、成功体験をきちんとつくってあげることが大切です。
『1日3分! 頭がよくなる子どもとの遊びかた』
小川大介 著/大和書房(2017)
■ 中学受験のプロ・小川大介さん インタビュー一覧
第1回:“国語嫌い”になりやすい子どものタイプと、親がやりがちな間違った教育法
第2回:“リビング学習でかしこくなる”は勘違い。東大生がリビングで勉強する本当の理由
第3回:子どもは勝手にかしこく育つ。“自ら学ぶ力”を伸ばす辞書・地図・図鑑の活用法
第4回:“後伸び”する子としない子の違い。成長後に学力が急伸する幼少期の過ごし方
【プロフィール】
小川大介(おがわ・だいすけ)
1973年生まれ、大阪府出身。ウェブサイト「中学受験情報局『かしこい塾の使い方』」主任相談員。プロ家庭教師集団「名門指導会」副代表。京都大学法学部卒業。関西最大手の進学塾の看板講師として活躍後、個別指導教室「SS-1」を創設。教科指導スキルに、声かけメソッド、逆算思考、習慣化指導を組み合わせ、短期間での成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。家庭をひとつのチームと見立てておこなう独自のカウンセリングは実施数5000回を超え、高い精度でクライアントを成功へ導いている。受験学習はもとより、幼年期からの子どもの能力の伸ばし方、親子関係の築き方といった子ども教育分野でも定評がある。著書に『1日3分! 頭がよくなる子どもとの遊びかた』(大和書房)、『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』(すばる舎)、『親子で学べる! カピバラさんドリル 小学社会47都道府県』(かんき出版)など多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。