なにかと忙しい朝……。ついつい朝食づくりは手抜きになってしまいがちです。ただ、オリジナルの育脳レシピ開発で子どもを持つ親御さんのファンも多い管理栄養士・小山浩子さんは、「子どもの脳は朝食で決まる」と語ります。時間が限られるなか、どんな朝食を用意すれば子どもを賢く育てられるのでしょうか。そのための秘訣を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)
朝起きたときには「脳のガソリン」は空っぽの状態
健康のためには「朝食が重要だ」という話はほとんどの人が聞いたことがあるはずです。そして、「脳のため」という観点からすれば、その重要性はさらに高まります。
なぜなら、朝は脳を動かすガソリンが空っぽの状態になっているからです。朝食を食べさせずに子どもを学校に送り出してしまうと、給食までの午前中の授業では、子どもはガソリンが切れた自動車と同じ状態にあるということ。そんな状態でしっかり勉強をすることなんて、できるわけもないのです。
その脳のガソリンにあたるのはブドウ糖で、主に炭水化物が分解されてできるものです。ブドウ糖は、グリコーゲンというものになって肝臓にためられるのですが、じつはこの貯蓄量がすごく限られています。最大限にためたとしても、12時間後には空っぽになる量しかためられません。
夜の7時に夕食を食べたとして、12時間後の朝7時には完全に空っぽです。つまり、ご飯やパン、麺類などの炭水化物は、朝食に必須のものだというわけです。でも、ただ食べればいいというものではありません。炭水化物を一気に大量に摂ると、血糖値が急上昇しインスリンが分泌されます。すると、子どもが2時間目の授業を受ける頃には低血糖気味となり、眠気を催すことになってしまうのです(インタビュー第2回参照)。
そのため、ブドウ糖をゆっくりと脳に送る作用があるカリウムや食物繊維を一緒に摂取できる食事を心がけましょう。また、玄米や胚芽米、全粒粉のパンなど、もともと食物繊維など血糖値の急激な上昇を妨げる成分が豊富な炭水化物食品を選ぶのもいいですね。
最近のシリアルは手抜き朝食などではない
また、脳を働かせる神経伝達物質の材料となるレシチン、脳の材料となるDHA・EPAは、炭水化物とともに、「育脳」のための3大栄養素と言えます。レシチンは主に卵や大豆製品、DHAとEPAは魚に含まれるもの。これらの3つを必ず朝食で摂る習慣をつける、これがとても重要です。
子どもの昼食は給食ということが多いでしょうから、親御さんがコントロールできるものではありません。もちろん、夕食で摂取してもいいのですが、朝食とちがってメニューが変動的ですから、脳のための栄養素を摂ることも入れ込んでしまうと献立を考える難易度が上がってしまいます。であれば、朝食を「育脳のためのもの」と決めてしまうのがおすすめですね。
とはいえ、難しく考える必要はありません。シリアルに牛乳をかけて、エゴマ油ときな粉をかけてあげるだけでも十分。これには、炭水化物にカリウム、食物繊維、レシチンが含まれていますし、エゴマ油は体内でDHAやEPAと同じ働きをしてくれます。
シリアルというと「手抜き朝食の代表格」のように思っている人もいるでしょう。でも、最近のシリアルはとっても優秀です。パッケージの栄養成分表示を見て、必要な栄養素が入っているかを確認してみてください。なかには、炭水化物や食物繊維はもちろん、3大栄養素以外にも脳に有効なビタミンB群や亜鉛などを含むものもありますよ。
脳細胞の働きを邪魔する塩分に要注意!
それより、手抜き朝食といえば、ふりかけご飯だけというものはやめたほうがいいですね。おそらく共働き家庭などで親御さんも忙しいのでしょう。ご飯さえ炊いておけば、家族それぞれが好きなふりかけをかけて食べてくれる。それが毎日の朝食だという家庭が意外に多いようなのです。
もちろん、ふりかけにも含まれる栄養素を強化したものもありますが、多くの製品は塩分が強過ぎる傾向にあります。塩分は脳のなかの血流を悪くしてしまうもの。つまり、脳細胞の働きを邪魔してしまうものなのです。
ただでさえ、日本人は塩分が強い食事を好みます。幼い頃から塩辛いものばかり食べていると、子どもは「これが美味しいんだ」と思ってしまいます。そして、そういう食事を続ければ、当然、将来的に大きな病気を引き起こすことにもなる。子どもの腎臓は小さいので、たくさんの塩分を処理することができません。脳のためだけでなく、子どもの健康を保つために食事の塩分量には気をつけてあげてほしいですね。
黄色アイテムと噛むことが目を覚まさせる
それから、食事の内容以外の部分でいえば、よく噛むことも大切です。朝食だけに重要なことではありませんが、特に朝食ではしっかり噛むことを子どもに教えてあげてください。朝に目が覚めたときには、脳はまだ寝ぼけている状態です。噛むという行為が脳を目覚めさせてくれるうえ、脳の神経細胞の発達も促してくれるのです。
また、ランチョンマットやマグカップなど、朝食に使うアイテムにいくつか黄色いものをチョイスすることもおすすめです。これには、朝日を見ることと同じ効果があります。黄色を目にすることが、しっかりと脳を目覚めさせるのです。逆に、紫や濃紺は脳を休ませてしまいますから要注意。ちょっとした工夫でできることですから、子どもの脳をスタンバイ状態にして学校に送り出してあげてください。
最後にお伝えしたいのは、とにかく愛情を持って料理をしてあげてほしいということ。料理には、脳や体に有効な栄養素といった知識も必要ではありますが、子どもにとってはなによりも母親の愛情を感じられることが最重要です。
親に愛されて育ったかどうかで、大人になったときの笑顔ひとつもちがってきます。賢い子どもに育てたいというのは親として当然の願いでしょうけれど、まずは料理を通じてしっかり愛情を注ぎ、人の気持ちを感じられる健全な人間に育ててあげることを意識してほしいと思っています。
『かしこい子どもに育つ! 「育脳離乳食」:脳をはぐくむ食事は0歳から』
小山浩子 著/小学館(2018)
『こどもの脳は、「朝ごはん」で決まる!』
小山浩子 著/小学館(2015)
■ 管理栄養士・小山浩子さん インタビュー一覧
第1回:子どもの脳は“親の愛情”と“食事”で育つ! 「育脳」に効く食材の選びかた
第2回:“パン&〇〇”で最高の朝食になる! 脳が育つ食べ合わせ「5つの黄金ルール」
第3回:“美味しい”か“美味しくない”か。結果がすぐにわかる料理は、子どもがPDCAを学ぶのに最適
第4回:「お米さえ食べさせておけば大丈夫」が危険な理由。手抜きでも脳に効く朝ごはんとは
【プロフィール】
小山浩子(こやま・ひろこ)
1971年9月5日生まれ、愛知県出身。料理家、管理栄養士、フードコーディネーター。大手食品メーカー勤務を経て2003年にフリーに。料理教室の講師やコーディネート、メニュー開発、健康番組への出演など幅広く活動する。料理家としてのキャリアは20年以上。これまで指導した生徒は5万人以上に及ぶ。著書『目からウロコのおいしい減塩「乳和食」』(社会保険出版社)で、2014年グルマン世界料理本大賞イノベイティブ部門世界第2位を受賞。健康とつくりやすさに配慮したオリジナルレシピにファンが多い。2015年には日本高血圧協会理事に就任。また、日本ではじめて育脳をコンセプトにした離乳食を監修(https://ninau.essence-saraya.com/)。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。