『ホビングリッシュで英語も◯◯も! 一石二鳥な「英語で習い事」最前線』でご紹介した、英語による習い事。
英語を通してスポーツや音楽、アートなどの他のスキルを習うことは、子どもが英語を身につける上でも効果的です。
でもなぜ、ホビングリッシュは子どもの英語習得に有効な手段なのでしょうか? 今回は、第二言語習得研究の知見に基づき、英語による習い事のメリット2つをご紹介します。
1. まるでTPR? 母語習得のように自然に身につく
英語で習い事をするとき、レッスンはどのように進むのでしょうか?
まずは先生が、実際に動作を見せながら、英語でその説明をします。その説明を子どもが聞き、実際に動作を真似してやってみます。
そして先生が子どもの出来を見て、英語でほめたり、助言をくれたりします。そのコメントをもとに子どもが再度挑戦したり、新しい動きを習ったりして、レッスンが進んでいきます。
ホビングリッシュにおいて重要なのは、先生の英語をきいて、子どもが実際にやってみること。実はここに、Total Physical Response(全身反応教授法)と共通する要素があります。
Total Physical Response(略して「TPR」)は、学習者が教師の命令を聞き、その命令に合わせて動くことで、目標言語を習得させる教授法。
1960年にアメリカの心理学者James Asherによって提唱されました。モデルとなるのは幼児の母語習得過程。英語をまるで母国語のように自然に学べる方法です。
例えば、英語によるダンス教室では、回りながら”Turn around!”、跳びながら”Jump!”、手をたたきながら”Clap!”など、先生が実際に動きを見せながら英語で話してくれますね。
子どもが先生の英語を聞いた上で、実際にその動きをやってみることで「”Turn around”はこういうことなんだ」と体感できます。動作によって意味を理解するので、いちいち日本語に訳して考える必要はありません。
第二言語習得論を専門とするケースウエスタンリザーブ大学の白井泰弘教授は、TPRには以下のようなメリットがあると言います。
命令文を聞くということは、動詞中心の言語活動が続くので、文の構造や予測文法(英語を聞いて、次にどんな言語的要素が来るか予測する能力)が身に付くという効果があるのです。
名詞中心の活動だと、単語は覚えても、英語の構造には慣れないまま進んでいく可能性が高い。その意味で、TPRは優れています。ここ20~30年の文法理論においても、個々の動詞の持つ情報の重要性が強調されています。
(引用:白井泰弘(2016),「英語教師のための第二言語習得論入門」,大修館書店.)
むりやり話すことを強制しないので、ストレスがなく楽しく続けられるという利点もあります。まずは先生の英語を聞くことから始め、子どもは動作をすることで英語の指示に応答するだけ。英語を始めたばかりの子どもの心理的負荷をグッと下げられます。
もちろん、動作によって学べる表現には限界があります。そのため、抽象的な思考や具体的な会話の表現方法を学ぶことには向いていません。しかし、それは子どもが英語に慣れてからいくらでも上達させることができるので心配は不要です。
さらに実際に体を動かしながら学ぶことで、学習内容の記憶を長期にわたって保持しやすいともいわれています。英語による習い事を通して、日本語を介さず英語を英語のまま体感し、楽しく自然に習得することが可能になるのです。
2. 英語にふれる全体の時間が増える
英語習得の成功を左右する重要な要因が「英語にふれる時間」。第二言語習得研究で有名なColin Baker教授は、著書「バイリンガル教育と第二言語習得」の中で次のように述べています。
第二言語に触れる時間が長いこと(例・第二言語の教育を受けた期間)が第二言語の学習がうまくいくかどうかの重要な要因になる。
(引用:Colin Baker(1996),「バイリンガル教育と第二言語習得」,大修館書店.)
さらに関西学院大学の寺沢拓敬准教授は、早期英語学習開始のメリットとして専門家の合意が取れているのは「量の問題」だといいます。
小学校や家庭での英語学習に加えてホビングリッシュの時間があれば、それだけ英語にふれる時間がトータルで増えますね。
自分の興味のあるおけいこ事をしながら英語にふれる時間を増やすことができるのは、大きなメリット。
英語以外にも習いたいことがあって、これ以上英語学習に割く時間を確保できないというお子さんにもおすすめです。
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英語「を」学ぶのではなく、英語「で」学ぶ。新たな習い事のスタイルは、子どもの英語習得に最適です。
後編では第二言語習得研究に加えて発達心理学の観点から、ホビングリッシュのメリットをご紹介します。
■関連記事:『ホビングリッシュで英語も◯◯も! 一石二鳥な「英語で習い事」最前線』
(参考)
白井泰弘(2016),「英語教師のための第二言語習得論入門」,大修館書店.
Colin Baker(1996),「バイリンガル教育と第二言語習得」,大修館書店.
白畑知彦,若林茂則,須田孝司(2013),「英語習得の『常識』『非常識』」,大修館書店.
藤原康弘, 仲潔, 寺沢拓敬(2017),「これからの英語教育の話をしよう」,ひつじ書房.
ECCジュニア教育研究所|TPRの指導