人が生きていくなかで、すべてのことは「感じる心」から始まると言えるでしょう。「好きだから夢中になる」「不思議だから調べる」「お友だちと一緒に遊ぶのが楽しい」「仲よくしたいから相手を思いやる」など――。
そして成長するにつれて、それらの思いが、勉学や仕事、生き方につながっていき、その人の人生を彩っていきます。だからこそ、子どもの頃に「感じる心」をしっかり育むことはとても大事なのです。
忙しい日常のなかでも、子どもたちの「心」をやわらかく丁寧にすくい取ってあげるために親ができることを考えてみましょう。
「感じる心」は学びにつながっている
武蔵野大学、創価大学で教授を務め、現在は上級教育カウンセラーとして活躍する角田冨美子氏によると、「幼児期は出会ったものすべてに心を動かされる時期」なのだそう。そして、感じる心や感じる力は「感性」であるとしています。
一般に幼児期は,日々の生活の中で,直接的・具体的な体験を通して豊かな心情・意欲・態度を培い,成長・発達を促していく。その際,幼児は,新しいこと,珍しいこと,楽しいことなど,様々な場面で「もの」や「こと」に感じて心が動き,表現する。この「感じる力」(感性)は,自然・もの・人とのかかわりの中で培われ,人間の情緒・情操を養い,豊かな人生を築くための大きな力となる。
(引用元:CiNii|幼児期の感性を育てる(1)幼児期の感動体験と教師の役割)
では、そもそも「感じる心」や「感性」とは何を意味しているのでしょうか。広辞苑による「感性」の定義は次のとおりです。
- 外界の刺激に応じて感覚・知覚を生ずる感覚器官の感受性。
- 感覚によって呼び起こされ、それに支配される体験内容。従って、感覚に伴う感情や衝動・欲望も含む。
- 理性・意志によって制御されるべき感覚的欲求。
- 思惟(悟性的認識)の素材となる感覚的認識。
少し難しい言葉が並んでいますが、つまりは思考力や知識、行動の源となる欲求を生むための力、「生きる力」と言えるでしょう。
また、未就学児は「考える」よりも「感じる」ことに長けているのだそうです(右脳優位)。しかし、小学校に入学して知識を得るにつれ、考えること優先(左脳優位)に変化していきます。成長にともなう変化はもちろん必要で、とても重要ですが、左脳優位になる前に、いかに子どもたちの「感じる心」を育んであげられるかということも大切なのです。
角田氏は、「子どもが深く感じ、心を動かされるような経験が、好奇心や探究心となり、それがやがて思考力を育み、知識や技能獲得への意欲になる」と話しています。幼児期に「感じる心」を育てることが、その後の「学び」につながっていくのですね。
「感じる心」が育っている子どもの特徴は?
学びにつながるのであればなおのこと、「子どもには感性豊かな人に育ってほしい」――親であればそう願う人は少なくないはず。では、「感性豊かな人」とは、どんな人のことでしょうか。
子どもは、急に突拍子もない行動をしたり、常識外れの発言をしたり、大人からみたらハラハラすることも多いですよね。でも、これこそまさに自由な感性の現れです。この感情表現は「感じる心」の素直な発信で、自分らしさ、個性に直結しています。
「感じる心」をまっすぐに育み、豊かな人生を歩んでいるすばらしい方がいます。さかなクンです。幼少期のエピソードをご紹介しましょう。きっと参考になるはずです。
幼少期からとにかく好きなことに邁進するさかなクンの日々を支え、見守り、応援し続けたお母さま。ポイントは「子どもの意思や行動を肯定する声かけ」と「子どもが好きなことに熱中するためのサポート」だそうです。なんと、食材の魚は、さかなクンが観察しやすいように丸ごと一匹購入していたのだとか。
子どもの強くまっすぐな欲求をいっさい妨げないのは、とても勇気がいることだったでしょう。親が子を信じる力はすばらしいですね。いまは好きなことで成功をつかみ、メディアで活躍中のさかなクン。魚関連だけでなく、楽器演奏や料理など “好きなこと” にどんどん挑戦し、「好きを深める力」を発揮して、豊かな人生を送っています。
さかなクンのお母さまのように、「好きなことをまっすぐ伸ばしてあげたい」と思っても、徹底するのはなかなか難しいものです。もしお母さまが、「もっと勉強しなさい!」「毎日タコなんて無理に決まっているでしょう」なんて言っていたとしたら……さかなクンの人生は違うものになっていたのではないでしょうか。
「感じる心」を育てるために親ができること
朝日新聞DIGITAL「花まる先生公開授業」に取り上げられたことのある、作文倶楽部トトロ講師・岩崎美紀先生は、子どもたちの創造性について、「ひとりひとりの創造性を育てる土壌ができているアメリカ」に対し、「日本ではゴツゴツした創造性を早くから丸く収めようとするために、その芽をつんでしまう傾向がある」と話しています。
たしかに日本では、人と違うことをするよりも、まわりの人と足並みをそろえたほうがいいと考える人のほうが多いかもしれません。しかし、それでは子どもの可能性を狭めてしまいます。そこで、子どもの「感じる心」を育むマインドフルネスをご紹介しましょう。
マインドフルネスとは、“いま” の自分の心をあるがままに受け入れること。ストレスフルな現代では子どもにもマインドフルネスが必要だと言われています。イエナプランで注目される教育先進国オランダでも、最近は学校や子育てに取り入れらているそう。また、グーグルやインテルなど一流企業も、創造力や柔軟性などの能力を向上させるトレーニングとしてマインドフルネスを取り入れていますよ。心を整えることで、感性が磨かれるのです。親子で簡単にできるマインドフルネス、ぜひやってみてください。
【親子でマインドフルネス:私の心の天気】
- 子どもに目を閉じたまま座ってもらいます。
- 「いまの〇〇ちゃんの心のお天気は?」と子どもに尋ねてください。
「晴れ!」だけでなく「雨……」という日もあるでしょう。これは、自分の “いま” の心に素直に向き合うトレーニングになります。“いま” に向き合うと、自分を客観的に見つめることができ、雑念が取り払われるため、感性が研ぎ澄まされるのです。
【親子でマインドフルネス:悩み事の小さな箱】
- まず、悩み事の箱をつくります。絵を描いたり、好きな色紙を貼ったり、箱づくりをまず楽しんで。
- 就寝前に、「今日嫌なことあった?」「心配なことはない?」など、子どもに聞いてみましょう。
- 「この箱に入れちゃおう!」と、嫌なことや心配事を箱に入れるふりをしてください。
- 嫌なことや心配事が入った箱を部屋のすみに置いて、遠くから眺めてもらいます。
これで、“悩み事は心の外に出た” というイメージになり、すっきりと明日を迎えられます。マイナス要素を箱に閉じ込めることで心がリセットされ、また新しい何かを感じることができるでしょう。
子どもの心がざわざわしていそうなとき、このふたつのマインドフルネスはとても効果的です。自分の心に向き合えるようになることで、「感じる心」を素直に受け入れらるようになり、やりたいことにまっすぐ向かえる力が育まれます。家で親子一緒に遊び感覚で楽しめるのもいいですね。
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「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌をたがやすときです。
(引用元:レイチェル・カーソン 著, 上遠恵子 訳(1996),『センス・オブ・ワンダー』, 新潮社.)
アメリカの生物学者レイチェル・カーソンさんの言葉が心に響きます。彼女は子どもが生まれつきもつ新鮮な感性のことを「センス・オブ・ワンダー」と呼び、その感じる心を保ち続けるためには、「一緒に感動を分かち合う大人が少なくともひとりはそばにいる必要がある」と言っています。親が子どものためにできることは、「そばにいて感動を分かち合ってあげること」なのですね。
(参考)
CiNii|幼児期の感性を育てる(1)幼児期の感動体験と教師の役割
朝日新聞デジタル|山梨・作文倶楽部トトロ・岩崎美紀さん 全身を目や耳にして
山梨版 習いたい.ネット|コラム「岩崎美紀先生の作文教室」|第1回「感じる心(感性)」
七田式藤井寺教室|【考える心と感じる心】その2
レイチェル・カーソン 著, 上遠恵子 訳(1996),『センス・オブ・ワンダー』, 新潮社.
さかなクン(2016),『さかなクンの一魚一会〜まいにち夢中な人生!〜』, 講談社.
エリーン・スネル(2015),『親と子どものためのマインドフルネス』, サンガ.