子どもには少なくとも人並みに、贅沢をいえるなら突出した人間になってほしいと願うのが親というものです。そういう人並み外れた成果を上げる人間には「子どもの頃に特徴的な遊びをしていたという共通点がある」と語るのは、2003年に「都内義務教育初の民間校長」となったことで注目を集めた藤原和博先生。そして、その「特徴的な遊び」をさせるためにも、子どものスマートフォンとの接し方を考える必要もあるといいます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)
突出した人間に共通する「ゲームメーカー」になる体験
2019年2月に上梓した著書『僕たちは14歳までに何を学んだか 新時代の必須スキルの育み方』(SBクリエイティブ)の執筆のため、わたしは4人の人物にインタビューを行いました。その4人とは、お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣さん、言わずと知れたホリエモンこと堀江貴文さん、誰もがスターになれるストリーミングサービス・SHOWROOMを提供する前田裕二さん、日本でトップレベルのお金持ちとしても有名なDMM.comグループ創業者の亀山敬司さんです。
そのインタビューを通じてはっきりしたのは、彼らのように大人になって突出してくる人間には、子どもの頃に徹底的に遊んだ経験があるということ。しかも、その遊び方に特徴がある。それは、ただ与えられたものを処理的に遊ぶのではなく、自ら遊びを生み出すような編集的な遊び方をしていたということです。
西野さんを例に挙げてみましょう。彼には年の離れたお兄さんがいます。子どもの頃、弟の西野さんに与えられるものはすべてがお兄さんのお古でした。それを改造して「自分のものにする」ということを西野さんはずっと続けていたのだそうです。たとえば、自転車のハンドルをバスのハンドルに換えるといった大胆な改造をしていたとか(笑)。
また、家庭が経済的に恵まれていなかったということもあり、西野さんは欲しいものをほとんど買ってもらえませんでした。子どもの頃の西野さんが欲しかったのはレゴブロック。でも親には買ってもらえない。そこで、西野さんは段ボールを使ってブロックのピースを一つひとつ自分でつくったのだそうです。
これはどういうことかというと、誰かがつくった遊びに興じるゲーマーではなく、遊びの世界観やルールを自らつくる「ゲームメーカー」になっているということです。子どもが成長して社会に出たときに、誰かに与えられる仕事をただこなすのではなく、自らイニシアチブを取って仕事する人間になってほしいと考えるのなら、子どもの頃からゲームメーカーになる遊びをさせることが大切なのです。
スマホの「貸し出し制」で子どもとスマホの接し方を管理する
それを思えば、どのようにスマホを子どもに使わせるかということも大切な要素でしょう。ただスマホを与えてしまうと、子どもは自分の部屋に閉じこもってゲームざんまいということになりかねません。それこそ、ゲーマー側の人間になってしまいます。
わたしの子どもは末っ子が24歳。高校生になるまで携帯電話を与えないということがギリギリできた世代でした。でも、ここまでスマホが身近になったいま、子どものセキュリティー面を考えても、スマホを持たさざるを得ないと考える親が多いのは、無理もありません。
では、どう制限をかければいいのでしょうか。わたしは、子どもがまだ小さい場合には、スマホを買い与えるのではなく、親がスマホをもう1台買って「子どもにスマホを貸す」というスタンスがいいのではないかと考えています。子どもにスマホを買い与えて、スマホが子どものものになってしまうと、子どもは食事をしていても家族で会話をしていてもスマホをいじり続けるということになります。
でも、「親が子どもにスマホを貸す」というスタンスなら話は変わります。子どもが学校に行くときにスマホを貸し出す。そして、帰宅したら子どもからスマホを返してもらう。そうすれば、子どものスマホに対する接し方をうまく管理できるのではないでしょうか。
いまの子どもはYouTubeで知りたいことを検索する
スマホは便利な反面、危険なものでもあります。インターネット上の情報によって、行動が画一化されてきているのがいまという時代です。たとえば、ある場所で食事をするというときにグルメサイトで高評価の店に行ったという経験はほとんどの人にあるはずです。あるいは、はじめて訪れる場所に向かうときには、地図サイトやナビゲーションサービスに案内されるまま移動するということもあるでしょう。
そうすると、考えるという作業をどんどん外部化することになり、判断能力が失われていく。つまり、「考える力」が必要だとされ、これまでの「正解主義」を覆そうとするこれからの教育の目指すべき方向とはじつは真逆に進んでいて、まさにひとつの正解らしきものに、誰もが疑うことなく安易に従うようになってきていると見ることもできるのです。
その傾向は、子どもたちにとくに顕著です。なにか知りたいことがあったとき、みなさんならどうしますか? Googleなどで検索しますよね。そして、ヒットしたいろいろな情報に目を通して、自分なりの答えを見つけるはずです。
でも、いまの子どもたちはちがう。なんと、YouTubeで検索をするのです。なぜかというと、文章を読むことが面倒だから……。動画でひとつの正解を教えてもらえればそれでOK。我々がGoogle検索でヒットしたいろいろな情報に目を通すように、たくさんの動画を見るようなこともしません。しかも、思うような動画がヒットしなくても、他の手段で調べつくそうともしない。彼らのなかでは、その答えは「ない」ことになるのです。
つまり、時代がどんどんインスタントの方向に進んでいるといえます。その風潮は、なにかとせわしない都市部のほうがより強いでしょう。だとすれば、都市部に住んでいる人なら、子どもをいっとき地方で過ごさせてスマホから距離を置かせることを考えてもいいかもしれません。
とはいっても、いきなり移住するのは難しいでしょうから、ラッキーにもおじいちゃんやおばあちゃんが農村や漁村に住んでいるのなら長期休みに子どもを預けてみるとか、地方自治体が行っている移住体験ツアーに参加してみるとか。そうすれば、子どもがスマホ中毒になってしまうリスクを多少なりとも減らせるのではないでしょうか。
■ 教育改革実践家・藤原和博先生 インタビュー一覧
第1回:10年後に必要となる力――正解がない問題に多くの仮説を立てる「情報編集力」
第2回:過剰な受験勉強よりも大切な、「10歳までに思い切り遊ぶ」という経験
第3回:我が子はGoogleやAmazonの面接に通用する? 子どもを伸ばす親の「問いかけ」
第4回:判断能力が失われていく……「正解主義」に子どもを向かわせるスマホの危険性
【プロフィール】
藤原和博(ふじはら・かずひろ)
1955年11月27日生まれ、東京都出身。教育改革実践家。1978年、東京大学経済学部卒業後、日本リクルートセンター(現リクルート)に入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任し、メディアファクトリーを立ち上げる。1993年からヨーロッパに駐在し、1996年から同社フェロー。2003年から杉並区立和田中学校校長に就任し、都内では義務教育史上初の民間校長となる。「私立を超えた公立校」を標榜して「45分週32コマ授業」を実践。「地域本部」という保護者と地域ボランティアによる学校支援組織を立ち上げた他、英検協会と提携した「英語アドベンチャーコース」や進学塾と連携した夜間塾「夜スペ」などの取り組みが話題となる。2008年3月に同校校長を退職すると、当時の橋下徹大阪府知事から教育分野の特別顧問を委託され、大阪の小学校から高校までの公立校の活性化と学力アップに注力。その後、2016年から2018年3月まで奈良市立一条高校校長を務める。主な著書に『10年後、君に仕事はあるのか? 未来を生きるための「雇われる力」』(ダイヤモンド社)、『たった一度の人生を変える勉強をしよう』(朝日新聞出版)、『「ビミョーな未来」をどう生きるか』(筑摩書房)、『藤原先生の心に響く授業 キミが勉強する理由』(朝日新聞出版)、『父親になるということ』(日本経済新聞出版社)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。