ビジネスの世界では広く知れ渡るコーチングですが、近年、子育てや教育にもその効果を期待して取り入れる動きが出てきています。しかし、具体的にどういったことを意味するのか、そしてコーチングの効果とはどのようなものなのか、詳しく知っている人は少ないのではないでしょうか?
今回は、親子のコミュニケーションに取り入れることで“ある力”をぐんぐん伸ばす『コーチング』について、くわしく説明していきましょう。
コーチはあくまでもサポート役
ビジネスでの「コーチング」は、コミュニケーションを通じて目標達成や問題解決の道筋を見出してあげることを意味します。欧米では政治・ビジネス界のトップ層の8割近くが、自分専用のコーチ(マイコーチ)を雇っているとも。ここで重要なのが、コーチの役割です。コーチはあくまでも個人の自己実現や目標達成の“サポート”であり、指示を出して行動させるわけではありません。
子育てにコーチングを取り入れる場合も同様です。親子でのコミュニケーションを通じて、子ども自身に自分の中にある答えに気づかせることを目的としています。その結果、自分の目標を見つけたり、やる気を引き出したりする効果が期待できることから、現在「子育てコーチング」は多くの保護者たちに支持されているのです。
国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチの石川尚子さんは、講演会などで簡単な質問や感想を投げかけた際に、「わかりません」と答える子どもがいるのを目にするたびに、自分で考える習慣がない子の多さに驚くといいます。
その質問とは、正しい答えがあるものではありません。「どう感じた?」「どうしたらいいと思う?」といった、本人の率直な考えや意見をたずねる質問でも、「わからない」というのです。
考える力がまだ備わっていない子、恥ずかしくて自分の意見を口に出せない子、周りの目を気にして発言を控えてしまう子、それぞれに抱えている問題は異なるかもしれません。しかし、普段から会話の中にコーチングの手法を取り入れることで、いざというときの発表の場で必ず役に立つでしょう。
コーチングで身につくもの
では実際にコーチングを実践することで、子どもにとってどんな良い変化が期待できるのでしょうか。
たとえば、毎日「忘れ物はない?」「宿題はやったの?」と何度言い聞かせても、一向に改善しないどころか、本人も言われることに慣れてしまって聞き流す始末……という状況にぐったりしている親御さんも多いはず。
しかし子どもは大人が思っているよりも、頭の中ではいろいろ考えを巡らせています。ただ思考を整理できないために優先順位がつけられず、「自分が何をやらなければならないのか」ということがわからなくなっているのです。
そこでコーチングの手法を取り入れて、親が子どもの話をしっかりと聞いて、子どもが自分で考えるよう質問をしてあげることで、自分から「やろう!」と思えるようになるというわけです。
もちろん実践してすぐにうまくいくとは限りません。親も子も、試行錯誤しながら時間をかけて取り組むことで、必ず子どもは「自分で考えるクセ」を身につけられるようになるので、長い目で見守ってあげることが大切です。
またほかにも、口下手で自分の考えを言葉で表現するのが苦手な子や、「どうせ私なんて」と思考がネガティブになりがちな子も、コーチングによって自分に自信がつき、前向きな気持ちを手に入れることができます。
コーチングによって身につくもの。それは次のようなものです。
- 自分で考える力
- 自分から行動する力
- 自らやる気を出すことができる力
- 前向きな心
- 自己肯定感
これらはこれからの時代、どんな道に進んでも必ず求められます。だからこそ、小さいうちから親子で協力して高めていく必要があるのです。
コーチングの基本は「聞くこと」と「質問すること」
まず、コーチングの基本は“聞くこと”。それもただ“聞く”だけではありません。大切なのは、子どもの話に100%意識を集中し、本人の気持ちを尊重することです。
ここでの目的は、「どんな話でも聞いてもらえる」という安心感や信頼感を抱かせることなので、適当に聞き流したり、話の先を急いだりしないように気をつけましょう。もちろん「ちゃんと聞いているよ」という合図にもなる“相づち”は欠かさないようにしてください。
次は、“質問”です。子どもの話に対して、「なぜそう思うの?」「どうしてそうしたいの?」と、積極的に質問しましょう。その際に気をつけなければならないのは、「はい・いいえ」で答えられる質問をしないこと。
「いるの? いらないの?」「やるの? やらないの?」といった「はい・いいえ」で答えられる質問は『クローズドクエスチョン』といいます。これでは会話がそこで途切れてしまい、子どもの心の奥まで踏み込むことができなくなってしまいます。ですので、自由に返答できる『オープンクエスチョン』を意識して質問内容を考えるようにしましょう。
また、質問して返ってきた子どもの答えが、自分の意図から外れるものだったとしても、決して否定してはいけません。いきなり「○○のほうがいいと思うけど」と返答してしまうと、子どもは「言ってもしょうがない」と思ってますます口を閉ざすようになります。
まずは一度受け止めるのが正解です。
「なるほど。そう思ったんだね。なんでそう思ったの?」
と最初に共感してから理由を聞いてみると、意外と納得できるかもしれませんよ。
もしくは、
「なるほどね、そう考えたんだね。もしも、そのままやってケガをしそうになったらどう対応する?」
といった質問を返して、子ども自身がリスク回避策を考えるよう促すのもテクニックのひとつです。
ネガティブ発言ばかりでも共感してあげて
おしゃべりが好きで、こちらの質問にもポンポンと答えてくれる子がいる一方で、自分の発言に自信を持てずに口数が少なくなってしまう子もいます。
「どうせぼくなんて」「どうせ私なんて」
お子さんがそうつぶやいていたら、どのような言葉を返しますか?
おそらくほとんどの親御さんは、「そんなことないよ。あなたはやればできるんだから大丈夫! 自信もって」と励ますはず。しかし、「コーチングという視点から見ると、この対応は正しくありません」と指摘するのは、『子どもの心のコーチング』(PHP文庫)の著者で、NPO法人 ハートフルコミュニケーション代表理事の菅原裕子さんです。
その理由は、「そんなことないよ」と子どもの言葉を否定していること。最初に否定されてしまったら、こどもは自分の気持ちをわかってくれないと感じてしまいます。たとえネガティブな発言ばかりが目立っていても、「そうなの。それはつらいよね。何があったの?」と同じ目線で会話をスタートさせることが大事です。子どもが前向きな気持ちを取り戻せるように支援するのが、コーチングのスタンスだと覚えておきましょう。
また、前出の石川さんによると、「こちらが言いたいことや聞きたいことのみ焦点を当てるのではなく、子どもが話したいことにアンテナを立ててて、子どものペースに合わせて対話を重ねることが大事です」とのこと。
「うちの子は話さない」と決めつけないで、子どものペースやタイミングに合わせて話すように心がけると、子どもの内側の深い部分に触れることができるはずです。
日頃から子どもに対してつい言ってしまう言葉にも注意が必要です。『男の子のやる気を伸ばす お母さんの子育てコーチング術』(メイツ出版)の著者・東ちひろさんは、「なぜできないの?」「なんで片づけないの?」といった、「なぜ~~なの?」は、子どもを責めている口調になるのでNGだといいます。
そんなときは、「何」に言い換えるといいそうです。「何から片づけられる?」「何をしたらいいと思う?」と質問することで、子どもは一生懸命どうしたらよいかを考えるようになるでしょう。
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『コーチング』と聞くと難しいことのように感じますが、実際にやってみると、親子のコミュニケーションがさらに深まり、親にとってもいいことばかりです。いつもとは違う視点で会話を楽しむことができれば、子どもの“考える力”も自然と身についていきますよ。
(参考)
JCF 日本コーチ連盟|コーチングを学びたい方のために|24の質問で知る「コーチングとは」
KUMON|子育てコーチング「やる☆キッズ」
ベネッセ教育情報サイト|子どもが「自分で考える」習慣をつけるには[やる気を引き出すコーチング]
ベネッセ教育情報サイト|家庭内で話さない子どもとどう関わる?[やる気を引き出すコーチング]
ベネッセ 教育情報サイト|コーチング専門家の菅原裕子さんに聞く、思春期への対応(1)
東ちひろ(2017),『男の子のやる気を伸ばす お母さんの子育てコーチング術』,メイツ出版.