からだを動かす/教育を考える 2019.7.8

夏バテ・熱中症になりやすい子どもの特徴。「暑さに強い体づくり」の要はココにある!

宍戸 洲美
夏バテ・熱中症になりやすい子どもの特徴。「暑さに強い体づくり」の要はココにある!

最近は地球の温暖化が様々な形で自然環境に影響し、体が暑さに慣れる前にいきなり暑くなることがよくあります。また、日本の夏は高温多湿でじめっとした暑さが続くので、からだの調子を崩しやすいもの。いわゆる夏バテの経験があるお子さんも多いかもしれませんね。さらに、体調が良くないと熱中症のリスクも高くなります。今月は、夏を元気に乗り越えるために子どもたちの生活を見直してみましょう。

夏バテとは何か?

「夏バテ」という言葉はよく使いますが、夏バテとはどのような状態をいうのでしょうか。一般的には、「食欲がなくなる」「体がだるくなる」などがよく知られていますが、暑くて夜よく眠れなくなると自律神経の働きが崩れ、「疲れやすい」「イライラする」「やる気がなくなる」など心身両面に影響が及ぶのです。

お子さんに「食が細くなる」「すぐに疲れたと言う」「お部屋でダラダラしている」などの様子が見られたら、それは夏バテの兆候の可能性があります。これが続くと、夜眠れなくなったり、朝起きられなくなったりするほか、体重が増えなくなるばかりか減ってしまう子どももいます。「たかが夏バテ」と侮っていてはいけないのです。また、夏バテになると熱中症にもなりやすくなるので注意が必要です。

夏バテ・熱中症になりやすい子どもの特徴2

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夏バテ、熱中症の子どもが増えた背景

実は最近、子どもたちに夏バテや熱中症が起こりやすくなっています。その背景について詳しく説明しましょう。

人間は恒温動物ですから、外気温が暑くなっても寒くなっても体温を一定に保つ能力をもっているはずです。しかし、1978年にNHKが、故正木健夫先生(日本体育大学教授)の調査をもとにした「警告!子どものからだは蝕まれている」という特集を報道し、子どもたちの体がおかしくなっていることに警鐘を鳴らしました。その後1979年に立ち上げられた「子どものからだと心連絡会議」は、子どもの体温に関する調査を随時行っており、朝の体温が低い低体温の子どもや、暑くなっても汗がかけなくて体に熱がこもってしまう高体温の子どもたちが出てきたことを報告しています(※1)。人間の体温の日内変動は0.5度ぐらいといわれているのですが、2度以上も体温が上がってしまう子どもたちが出てきたのです。こうした高体温の子どもは、熱中症にかかる危険率が高くなります。

私の養護教諭としての経験のなかでも、9月の新学期に体調の悪さを訴える子どもたちが増え、午前と午後の体温を測定してみたところ、午前は36度台だったのに午後は38度以上に上がってしまったという子どもが何人もいてびっくりしたことがあります。子どもたちの体温調節能力(自律神経の働き)が弱くなっていることがよくわかる例だと言えるでしょう。

一般的に南国の人は暑さに強く、北国の人は寒さに強いといわれていますが、この違いはどこから出てくるのでしょうか。生理学の見地から見ると、以下のように言われています。

  • 寒さに強い体をつくる機能:
    生後3週間までに寒さを経験させ、自ら熱をつくる働きを高めることが必要。
  • 暑さに強い体をつくる機能:
    3歳ぐらいまでに暑さを経験させ、暑くなったら汗をかいて体温を下げるための能動汗腺を発達させることが必要。

今は、「暑くなればクーラーで」「寒くなれば暖房で」と常に快適な室温が保たれていますね。そのため、子どもたちが幼少時期から暑さや寒さを乗り越える経験をする機会がないまま成長してきていることで、暑さにも寒さにも耐性が弱くなったと言われているのです。

このように、子どもの体が変わってきてしまったことと、近年の気候変動とが相まって、子どもたちに夏バテや熱中症が起こりやすくなっていると考えられます。

夏バテ・熱中症になりやすい子どもの特徴3

夏バテ、熱中症になりやすい子の特徴

子どもはもともと自律神経の働きが未熟なため、大人に比べると夏バテや熱中症になる危険性が高いと言えます。なかでも、私の経験からすると、生活リズムが崩れていて特に夜更かしをしているような子どもの方が夏バテをしやすい傾向にあります。先ほども述べたように、夏バテになると熱中症にもかかりやすくなりますので、普段から生活リズムを整えておくことが大切です。睡眠不足や栄養不足にならないようにご家庭で心がけましょう。

今の親御さんたちが小学生だった頃と比べ、今では学校の教室にもクーラーの導入が進んでいます。ですが、文部科学省の平成29年度のクーラー設置率調査を見ると、高いところでは東京都が8割、沖縄が7割で、低いところだと暑さの厳しい九州でもたった3割というところも。クーラーのない教室で過ごさなければならない子どもたちはまだ大勢いるのです。また、体育館はさらに設置率が下がります。子どもたちの体が暑さに慣れていないと、学校で夏バテや熱中症になることは容易に考えられ、実際に熱中症の子どもが増えているというデータがあります。

帽子をかぶる、汗拭きタオルで汗をこまめに拭く、水分をしっかりとるなど、学校でもできる直接の暑さ対策は進んで行ないましょう。今では、子どもに自宅から水筒を持参させる学校も多くあります。とはいえ、冷たい飲み物をとりすぎると、食欲がなくなったり体がだるくなったりすることもあるので、水筒の中身は冷たすぎないもののほうがいいかもしれません。

夏バテ・熱中症になりやすい子どもの特徴4

子どもは「暑い!」と感じやすい

夏に多くの親御さんがお困りになる問題に、いくつかアドバイスをしたいと思います。

【親御さんからの質問 1】

エアコンのかけすぎは体に良くないと思い、室温を高めに設定するのですが、子どもは「暑いからもっと下げて!」と言います。親にとってはじゅうぶん涼しくても、子どもにとっては暑く感じられるようです。体に負担をかけず、かつ大人も子どもも快適に過ごせる室温調整の仕方を教えてください。

子どもは大人に比べると体の機能が未発達です。汗腺から出る汗の量が大人より少ないため、皮膚の血管を拡張させて放熱し体温を下げようとしますが、子どもの体温調節機能はまだ完全ではないので暑さを感じやすいです。ですので、子どもの体温が下がるまではエアコンを少し強めにし、涼しくなり体温が下がったら設定温度を変えるなど、こまめな調節をするといいでしょう。また、扇風機を合わせて使うこともいいかと思います。

一般的には、昼間の活動中には温度設定を低くし、就寝時にはそれより高く設定するなどの対応がいいと思います。ですが、室温には風通しの良し悪しや部屋の広さ、人数なども影響しますので、数値よりもそこで生活する人の感覚で調整することが大切です。ただし、子どもは大人より外気温に影響されやすいので、その点を考慮した温度設定をするように心がけましょう。

夏バテ・熱中症になりやすい子どもの特徴5

1日に一度はたっぷり汗をかかせて

【親御さんからの質問 2】

うちの子どもは「暑いから外に出たくない」と言います。他の子に比べて汗っかきなので、汗をかくのが嫌なようです。外に出てもお店やデパートに入りたがり、外遊びもあまりしません。親としては楽ですが、このままではひ弱な子どもになりそうで心配です。汗をかくことを避けて過ごしていてもいいのでしょうか?

夏の外遊びは熱中症が気になりますよね。でも、体の成長のためには夏でも運動することが必要です。熱中症予防の観点から、直射日光が強い炎天下での外遊びはできるだけ避け、朝夕の比較的涼しい時間に外で活動できる工夫をするといいでしょう。1日一度はたっぷり汗をかく程度の外遊びを、ぜひさせたいものです。それが暑さにも強い体をつくるのに役立ちますよ。それ以外の夏の外遊びとしては、プールや水あそびなどを活用するといいと思います。

夏バテ・熱中症になりやすい子どもの特徴6

アイスの代わりに○○をおやつに

【親御さんからの質問 3】

子どもは暑いと、問答無用でアイスを欲しがります。でも、体が冷えすぎる気が……。子どもが「暑い」と言うのなら1日に何回かアイスを与えても問題ないでしょうか。また、食事ではそうめんぐらいしか食べたがらず、栄養面が心配です。夏バテ予防にもなって食べやすい食事があれば、ぜひ知りたいです。

私が小学校に勤めていた頃、冷たい水を飲みすぎた子どもたちが腹痛を訴えて保健室に来ることがよくありました。おなか全体が冷たく、中には手足も冷たくなっている子どもがいて、湯たんぽやカイロでおなかを温めてあげると治りましたが、冷たいものの取りすぎはやはり良くないのだということが分かりますね。アイスの食べすぎも同じです。人間の体の内部温度は37度ぐらいですが、が冷えすぎると血行が悪くなり、胃腸の働きだけでなく、自律神経の働きも悪くなり、体全体の調子が悪くなってしまいます

アイスは手軽なのでついつい食べすぎてしまいますが、子どもと一緒にフルーツやゼラチン、かんてんなどを使ったおやつづくりをするなどの工夫をしてみたらいかがでしょうか。お砂糖の取りすぎもそれによって予防することができますよ。

それから、暑いからといって冷たい飲みものばかりになり、食事をとらないのは要注意。特に子どもは1日3食食べることが大切です。魚やお肉もしゃぶしゃぶなどにして、さっぱり食べられるよう工夫してあげましょう。また、汗をかくと水分だけでなく塩分やミネラルも失われますので、食事には果物や野菜を添えることも忘れないでください。

夏バテ・熱中症になりやすい子どもの特徴7

暑いときこそ生活リズムを重視しよう

夏を元気に乗り越えるポイントは、普段からの生活リズムにあります。生活リズムが崩れている子どもは夏バテや熱中症にもかかりやすいので、暑い時期こそ生活リズムをしっかり整えられるよう、親御さんが気を配ってあげることが大切です。

寝る前の冷たいものの取りすぎは体を冷やし、寝つきを悪くしますので要注意です。また、暑いからと運動不足にならないよう、プールを活用したり比較的涼しい時間帯に運動したりして、しっかり体を動かしぐっすり眠る生活を送れば、暑い夏を元気に過ごせることでしょう。

(参考)
(※1)野井慎吾,中島綾子,鹿野晶子著,「発育発達研究第51号 」,2011.
阿部茂明,野田耕,正木健雄(1996),「子どものからだの調査’95」の結果報告,日本体育大学紀要,31,pp.121-138.
阿部茂明,野井真吾,野田耕,成田幸子,正木健雄(2006),「子どものからだの調査2005」の結果報告—”からだのおかしさ”の教育者の“実感”とその実体の究明—,日本体育大学紀要,36,pp.55-76.
正木健雄監修(1995),『心とからだいきいき学習1 基本定期生活習慣をみなおす せいかつのリズム』,ぱすてる書房.