立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授の田浦秀幸さんに、バイリンガリズムや日本の子どもに最適な英語学習についてお話をうかがうシリーズの第4回目をお届けします。
第3回では、言語能力の喪失と維持について、お話いただきました。今回は、家庭で利用できる英語学習教材の代表的なものとして、子ども向け英語DVDの学習効果と活用方法を探ります。
子ども向け英語DVDの学習効果
——前回、小さい頃に海外で英語を身につけたお子さんが、帰国後に英語力を維持する方法として、英語DVDの活用は一つの手だとうかがいました。日本にいて、これから英語の学習を始めるお子さんでも、同じような効果を得られるものなのでしょうか?——
田浦先生:
例えば、お父さんがいつも英語を話している国際結婚の家庭の子どもの場合は、英語はコミュニケーションのツールですね。だから、英語のアニメのDVDを見せると、内容をある程度理解できるでしょう。
特にアニメーションだと、映像上でキャラクターが話しながら動いているから、何が起こっているかもほとんどわかり、面白いですよね。すでに英語の聞き取りがだいぶできるはずなので、知らない単語があっても推測できるはずです。
一方、日本でいつも日本語を使ってコミュニケーションをしている子どもに、英語のアニメのDVDを見せても、英語を習得することは難しいでしょう。
もちろん、面白そうにケラケラ笑いながら見ているんですが、それはただ動画としておもしろいから見ているだけで、そこから単語をピックアップして実際に使うというようなことはありません。
日本人の家庭の場合は、ふだん日本語で意思疎通をしているから、いきなり英語のDVDで面白いものを見せられても、素地が違うので、言語としては入ってこないんです。
言語習得にはインタラクション、つまり人とのやりとりが重要です。あくまで母語習得においてですが、最初は、お母さんが語りかけるベビートーク(motherese)から始まりますね。そして赤ちゃんも、お母さんにだけわかる形でやりとりをしていきます。例えば、赤ちゃんがぎゃーって泣いていても、お母さんには「おしっこしたのかな」「お腹空いたのかな」「だっこして欲しいのかな」とわかるものですよね。
このように子どもは、コミュニケーションがある中で、5歳までに母語を習得していきます。この間にDVDのような、面白い映像音声がぽーんぽーんときたところで、コミュニケーションツールではないですよね。
画面の向こうに知らないお兄ちゃん、お姉ちゃんがいても、果たして子どもは興味を示すのか? 画面の向こうに同じような年齢の子どもが映っていても、自分と友達になれるのか? そう考えると、どちらもきっと難しいでしょう。
英語DVDを活用するために、家庭でできる一工夫
——田浦先生のインタビューで以前、「1〜3歳の子供にはビデオをみせることよりも、安心できる環境、ハグをしてあげたりとか、そういう環境をつくる方が人間の良い発育には重要だと思う」とおっしゃっていましたが、やはりビデオより生身の人間とのやりとりが大切なのですね。——
田浦先生:
あれは、そういう研究があるんですよ。同じ時間、お母さんと接している子どもと、DVDを見せた子どもを比べると、後者の子どもは言語を全然習得しなかったんです。楽しそうにDVDを見ているんですけどね。
まあ、当たり前のことですよね。インタラクションが全然ないし、自分に対して何か語りかけてくれているわけではないですから。だから無駄ですよね。
英語のDVDを活かすには、必ずコミュニケーションツールとして使わないといけません。日本語の映画、例えば「トトロ」を見たとき、子どもはいろいろと感想を言いたがるものですね。お母さんも子どものコメントに対して、受け答えするでしょう。そんな感じで、英語のアニメーション映画を親子で一緒に見て、英語で受け答えするのは一つの方法かもしれませんね。
例えば、日本人のご家庭で、比較的英語ができるお母さんが、1日1時間、子どもの横に座って、英語のアニメーション映画を一緒に見るとする。そして、そのときだけは、お母さんと英語で話すような環境を作ってあげる。こういうふうにしたら、インタラクションのきっかけとして、英語DVDをうまく使えると思います。
普通、いくら英語が得意な方とはいえ、もし日本人のお母さんが日常的に英語で子どもに話しかけたら、お母さんの英語の癖を、子どもが身につけてしまう恐れがあります。でも、映画を利用すれば、うまくいくでしょうね。たとえお母さんの英語が少々下手だとしても、圧倒的なインプットとして、映画から本物の、正しい英語が入ってきますから。
英語絵本の読み聞かせの学習効果
——英語DVDは、使い方次第で効果的なツールになり得るのですね。DVDに並んで、英語絵本も家庭で取り組める英語教材として活用なさる方も多いようですが、英語絵本の読み聞かせに関してはどう思われますか?——
田浦先生:
1ページに数ワードしかないような易しい英語の絵本から読み聞かせを始めるのは、いいかもしれないですね。もちろん、ある程度高い英語力を持ったお母さんでないとだめですが。
幼少期の読み聞かせによって、子どもが本好きになりますよね。本を好きになると、もちろん日本語でも読むだろうし、将来的にずっと継続できますよね。それはすごく大きいと思います。
【プロフィール】
田浦秀幸(たうら・ひでゆき)
立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授。シドニー・マッコリー大学で博士号(言語学)取得。大阪府立高校及び千里国際学園で英語教諭を務めた後、福井医科大学や大阪府立大学を経て、現職。伝統的な手法に加えて脳イメージング手法も併用することで、バイリンガルや日本人英語学習者対象に言語習得・喪失に関する基礎研究に従事。その研究成果を英語教育現場やバイリンガル教育に還元する応用研究も行っている。
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英語DVDや英語絵本も、条件次第で家庭内において活用できるのですね。英語のDVDを親子で見ながら英語で話すのがいいとのこと、ぜひ実践したいものです。次回は、近年増えている、子ども向けオンライン英会話の学習効果と活用方法について、お話をうかがいます。