教育を考える 2018.4.12

坂上忍さんの子役育成から学ぶ 子どもの「才」の伸ばし方【第7回】~大人にとって都合のいい子ども~

坂上忍
坂上忍さんの子役育成から学ぶ 子どもの「才」の伸ばし方【第7回】~大人にとって都合のいい子ども~

役者、舞台や映画の脚本・演出、そして番組MCとマルチな活動をしている坂上さんですが、もうひとつの顔が存在します。それは、2009年に立ち上げた『アヴァンセ』という子役育成のためのプロダクションを運営していること。役者業は既に48年目目を迎えた坂上さん。

その長いキャリアを持っているからこそ教えることができる、目から鱗の子どもの「才」の伸ばし方を、全10回に渡って公開します。第7回目となる今回は、大人のエゴと子どもだけに与えられた特権についてのお話です。

子どもにだけ許された特権がある

『アヴァンセ』を立ち上げてから、たくさんの子どもたちと出会ってきました。最初から役者としての才能を感じさせる子、人の顔を見て話すのが苦手な子、本当にさまざまです。

わたしは指導することにおいて、子どもの才能や容姿などはほとんど気にしていません。なによりも大事にしているのは、「子どもらしさ」です。レッスンを通して、まずは子どもらしい子どもであり、そのうえでしっかりした演技のできる子役を育てていきたいのです。

では、「子どもらしさ」とはどんなものでしょうか?

明るさや天真爛漫な振る舞いもそのひとつですが、わたしは「子ども=大人に迷惑をかける(かけてもいい)生き物」と考えています。子どもだから、悪さをしたり、ふざけたり、ウソをついたり、言うことを聞かなかったり、大人をイライラさせたりするのは当然のこと。いわばそれは、子どもだけに許された特権なのです。

しかし、現在の役者の世界ではそれが当然のことではなくなっています。いかに、周りに迷惑をかけずにいい子でいられるか、大人が扱いやすい子でいられるか。そのような指導をしている劇団やタレント事務所の、多いこと多いこと……。なによりも先に挨拶や礼儀を徹底されるので、「おはようございます!」と大人が喜ぶような挨拶ができる子は非常に多い。ただ、それはけっして自然な挨拶ではなく、芸能界特有の作られた挨拶だと感じてしまうのも事実です。これって、子どもらしいと言えるでしょうか? 「大人にとって都合のいい子役ばかり作るってどうなの?」と、いつもそんな疑問を抱いてしまいます。役者として子役と共演することもありますが、「こんなに小さいのに、挨拶ばっかり達者だなあ。自分の子どもだったら、こんなふうにはしたくない……」と思うこともしょっちゅう。共演者やスタッフと話していると、同じような感覚でいる人は多いようです。

子どもの「才」の伸ばし方第7回2
※写真は2015年撮影のもの(©辰巳千恵)

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大人にとって都合のいい子どもを作らない

わたしは、子どもにかかわる仕事をしているからこそ、子どもらしさを大切にしたい。皆さんの家庭ではいかがでしょう。「いい子に育てたい」「周りに迷惑をかけない子どもに育てたい」と思うあまり、単に大人に都合のいい子どもにしていませんか?

たしかに、大人にとっての都合のいい子どもは周囲からの評判もいいでしょうし、子育て自体も楽なのかもしれません。ただ、その子育ては大人のため、親のための子育てであって、子どものためではないように思えます。

先述した、「子どもだけに許される特権」を使えるのは、実際に子どもでいられるほんの一瞬でしかありません。その特権を思う存分に使って、ときには怒られたり、ときには褒められたりと、親を含め周囲の大人たちからの「愛情」を受けることの積み重ねが、その子の未来を形成する経験値となるのです。そしてその経験こそが子どもの個性を作り上げ、大人になる過程での軸になっていくのだと考えています。

大人にとって都合のいい子どもを作るということは、大人のエゴを押し付けるのと同義。「ふざけない子がいい」「いつも静かにしている子がいい」「誰にでも挨拶できる子がいい」……そんな窮屈な大人のエゴではなく、子どもたちが誰に気兼ねすることなく自分を出せる環境づくりも大人の役目でしょうし、それがあって初めて子どもの個性が伸びていくのだと、そう考えています。

子どもの「才」の伸ばし方第7回3
※写真は2015年撮影のもの(©辰巳千恵)

※当コラムに関するお断り
この連載コラムは、2015年に刊行された坂上忍さんの著書『力を引き出すヒント~「9個のダメ出し、1個の褒め言葉」が効く!~』(東邦出版)を、当サイト向けに加筆修正をしたものです。

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■坂上忍 著『力を引き出すヒント~「9個のダメ出し、1個の褒め言葉」が効く!~』はこちら→