「上の階に来たら、人がだんだん減ってきたね」
「きまってるじゃん。人が降りていくぶん減るんだから」
デパートのエレベーターの中での、お兄ちゃんと弟との会話です。
1階でエレベーターに乗ったときは、今にも定員オーバーで「ビー」となりそうな満員状態だったのです。しかし、私が降りる14階にエレベーターが着いたときには、私とその兄弟の家族4人の合計5人しかいませんでした。
私が降りようとしたそのとき、「またひとり減ったね」という子どもの声と「そうだね、だんだん減っていくね」というお母さんの声が聞こえてきました。
(そうそう、その「リ・アクション」だよ。いいぞ)と、私は心の中で叫んだのでした。
「変化」から「関係」に気づく。そして……
ひとつの「変化」に気づくと、その「変化」の要因となるもうひとつの「変化」に気づき、2つの伴って変わる「関係」に気づいていく。前回の記事「たら・れば・たびに・つれて——「関係」に気づいた子どもの “サイン” を聞き逃すな。」では、この “「関係」気づき” を紹介しました。
エレベーターでの兄弟の会話も、その「関係」気づきのひとつです。降りる人数がだんだん増え「れば」、エレベーターに乗っている人数は減る、というきれいな「れば」の関係をうかがうことはできませんでしたが、「たら」「れば」「たびに」「つれて」を用いた「関係」気づきの会話は、不完全な形でけっこう頻繁に子どもたちの会話のなかにあるのです。
そんな「れば」などの言葉遣いで表面化する、伴って変化する「関係」気づきの子どもの「アクション」が、私たち親にとっての「リ・アクション」のしどころでしたね。なぜならば、「算数力」のひとつである「関数の考え」を育てる大チャンスだからです。
おおいに「相づちを打ち」「いいことを見つけて」「うなずき」、子どものまねをして「笑顔で演じ」「オウム返し」をしてください。きっと子どもは、うれしくてにこっとしますよ。関係に目をつけるのがいいことだと理解して、今後も関係に目をつけるようになる。そんな態度形成が一歩進むフィードバックなのです。
そしてさらに、この兄弟の会話では、「降りていくぶん」という「コトバ」が象徴しているように、その関係をさらに詳しくとらえる「変わり方」にも気づき始めています。
「関係」をさらに詳しくする「変わり方」
関係をさらに深くとらえる「変わり方」への気づきが、「関数の考え」を育てる次のステップです。
先ほどの例でいえば、お兄ちゃんは「増える『ぶん』減る」という「変わり方」に気づき始めています。「れば」というコトバを使い、伴って変わる2つの変化に気づいた段階から、さらに関係を詳しく、「増える『ぶん』減る」といった「変わり方」に気づき始めてくるのです。子どもって本当にすばらしいですね。
しかし、この「変われば変わる」といった「関係」気づきから、その「変わり方」へと関係を深める気づきは、小さな子どもには無理かもしれません。たとえば「ぶん」などという「コトバ」は、そう簡単には出てきません。なぜならば、変わり方を表現する「コトバ」や、変わり方を読み取りやすくする「数」は、小さな子どもにとっては自分のものになっていないからです。
「変わり方」とは、「Aが2倍になれば、Bは半分になる」「Aが1増えると、Bは1減る」といった、AとBの「関係」をさらに詳しくする「変化」の様子です。
たとえば、「梅の花が昨日2つ開花しました。その前の日も2つ開花していました。そして今日もまた2つの花が開きました」といった変化に気づいた子どもは、きっと「日がたつにつれて梅の花が咲くね」と気づくでしょう。しかし、だからといって、「日にちが1日経つごとに花が2つずつ咲く。2、4、6、8だ」といった「変わり方」への気づきは、容易に出てくるようなものではありません。
「変わり方」のコトバ
出てこないのならば、どうすればいいのでしょう。そうです、出てくるようにすればいいのです。それが「教える」ということで、大人の役割でもあります。「『関数の考え』を育てる」という「算数力」をめざして、わが子に「算数的態度」を育てるのですから、意図的に「変わり方」をとらえる「コトバ」が子どもから出てくるようにするというわけです。
もちろん、あのエレベーターにいたお兄ちゃんのように、「ぶん」といった「変わり方」を表現する「コトバ」が子どもから自然に出てくれば儲けものです。こういうときは、すかさずフィードバックをしてあげましょう。あの子どもはきっと、変わり方を意味するコトバ「ぶん」をどこかで学び取ったのでしょう。ですから、子どもが学び取るように教えればいいわけです。
変わり方を表現する「コトバ」は、数量関係を表現します。「ぶん」だけでなく、「半分」「倍」「わりに」「差」「比例」などといった算数用語っぽい「コトバ」だけでなく、「ゆるやかに」「急に」「徐々に」「うなぎのぼり」「急降下」「右肩上がり」「V字回復」などなど、日本語として生活のなかにあります。これらの「コトバ」に子どもが興味関心を持ったときが、まさに教えるチャンスなのです。
そしてさらに、変わり方を表現する「コトバ」のうち最も端的で洗練されたものが、数学的表現道具である「数」や「式」や「グラフ」や「表」なのです。何しろ、日本語や英語以上に “世界共通の” 言語ですからね。
それでは、変わり方の「コトバ」である、生活によく出てくる用語や数をどのように「リ・アクション」しながら「教える」のか。次回はいよいよ、「数」へと導く親の役割をとらえてみます。算数力に向かう算数的態度を育てる、アカデミックな「リ・アクションスター」をめざして。