最近、畳の上にテーブルと椅子を配した和風レストランをよく見かけます。高齢者の足腰対策のためなのでしょうか、あるいは海外の方に和食文化を伝えるためなのでしょうか。
先日も研究会の後に、おしゃれな和食レストランへ食事をしに行きました。ここも靴を脱いで畳の上にあがる形式で、隣の席にはハイハイする赤ちゃん連れの一家がいました。かわいく元気のいい男の子の赤ちゃんでした。
畳敷きの広間は、赤ちゃんにとって恰好のハイハイの場です。ママの制止も聞かず、あちらこちらへとハイハイをして駆け回っていました。私たちをはじめ、ほかのお客さんたちを和ませる小さい子どもの動きは、愉快で幸せな雰囲気をつくりますね。
そこでびっくりしました。その赤ちゃんのハイハイの動きが、まるでゼンマイ仕掛けのように見えたのです。そばにいた、その赤ちゃんのお姉さんらしき小さな女の子が、その動きに「いち、に、さん、ほら」などと声をかけているのです。
「繰り返す」運動体
私たち人間は、生活の一部分で、同じ動作を繰り返す運動をしています。その運動は、いわばルーチンな「同動作運動」です。「同動作運動」なんて私の造語ですが、服を着たり脱いだり、歯を磨いたり、髪の毛を梳いたり、挙げたらきりがないほど、私たち人間は「同動作」を無意識に繰り返しています。心臓がコンスタントに動いていることが「同動作」の根本かもしれません。そういう意味では、「同動作」があることは「生きている」証拠ですね。
その「同動作」の代表が歩行です。そして赤ちゃんの歩行は、前述のようなハイハイです。ハイハイという「這いずる」運動は、確かに「いち、に、さん……」という段階があり、その段階の連続が1セットとなり、その1セットが繰り返される「同動作」なのです。
歩くときも走るときも、腰かけるときも起立するときも、寝て起きるときも、私たち人間は1セットを「繰り返す」運動体です。「繰り返す」運動の「きまり」を帰納的に見出し、その見出した運動の「きまり」を演繹的に組み立てていくのがロボットづくりなのです。
順番の「いち、に、さん……」
さて、赤ちゃんのハイハイを「いち、に、さん……」と囃し立てていた女の子は、その「同動作」1セットの部分的な動きの「順番」を「いち、に、さん……」と命名していました。このように、順番を「いち」「に」「さん」と唱えることはよくあることです。
右、左、右、左は「いち」「に」「いち」「に」と歩くときの順番。起立、礼、着席は「いち」「に」「さん」と立って挨拶をする順番。鍵を鍵穴に入れて、回して、戻して、鍵を鍵穴から抜く動作は、「いち」「に」「さん」「し」と玄関戸の施錠を解く順番。このように、私たちは生活の中でいくつも、順番のある1セットを「同動作」として繰り返しているのです。
そんな、順番のある「同動作」運動がリズミカルになされると、「いち」「に」「さん」と声かけをしたくなるのです。不思議ですよね。もちろん、「いち」「に」「さん」でなくてもかまいません。「タン」「タン」「タン」でもいいですし、「アン」「ポン」「タン」(?)でもいいのです。順番を意味していればいいのです。
これが、いわゆる「数える(かぞえる)」というひとつの姿です。順番を意味する「数える(かぞえる)」という行為です。
個数の「いち、に、さん……」
そうそう、「数える(かぞえる)」ですぐに思いつくのは、「個数を調べる」ということですよね。「何個ありますか?」「7個あります」といったときに、「いち」「に」「さん」……と数えますからね。
そうなのです。順番を意味する「いち」「に」「さん」……とは別に、「同じ」物の集まり、いわゆる集合の個数を意味する「いち」「に」「さん」……もあるのです。
子どもは鋭い感覚で「同じ」ものの仲間を見出し、「同じ」ものがいくつかあることに気づきます。そして、いくつかあることに気づいた子どもは、手で「タン」「タン」「タン」などと触るのです。赤ちゃんに近い小さな子どもにとっては、その「同じ」ものの個数を意味する「コトバ」は持ち合わせていませんので、「うー」「うー」「うー」とか「ポン」「ポン」「ポン」などど触って音声を発します。いくつかの「コトバ」を獲得した子どもならば、きっと「いち」「に」「さん」……につながるアクションをしてくることでしょう。
順番を意味する「数」、これを「順序数(序数)」といいます。それとは別に、同じ集合の個数を意味する「数」、これを「集合数(基数)」といいます。両方とも小学校1年生の算数で学ぶ、算数数学の入門期の学習内容です。ですから、「数える」に相当する子どものアクションは見逃せません。数の世界への入り口ですからね。
「いち」「に」「さん」……をともに愉しむ
「アクション」といえば……そうでしたね、「リ・アクション」です。順番にしろ、個数にしろ、「同じ」動作や「同じ」ものへの気づきから起きた子どものアクション、「タン」「タン」「タン」などが、「リ・アクション」のしどころです。ぜひ、子どもの「タン」「タン」「タン」に合わせて相づちを打ち、一緒にいい気持で、うきうきしながらうなずき、笑顔で演じてオウム返しをしてあげましょう。「あ、いいぞ。うまい。えらい。たんたんたん、だね。」とね。
もちろん、「それって『いち、に、さん』といえばいいよ」なんて「範を示す」のもいいですね。ちょっと気取って英語で「one、two、three……」、さらに気取ってフランス語で「un、deux、trois……」、ドイツ語で「eins、zwei、drei……」などでもかまいません。中国語で「イー、アール、サン、スー」などもいかがでしょう。算数(サン、スー)らしいでしょ?
いずれにせよ、子どもの「数える」という仕 “草” を仕 “種” に高めましょう。なぜならば、「関数の考え」をはじめ「算数力」を育てるためには、どうしても “数表現に子どもを近づけたい” からです。なぜ数表現に近づけていきたいか、さらに次回、明確にしていきます。