あたまを使う/サイエンス 2018.3.19

たら・れば・たびに・つれて——「関係」に気づいた子どもの “サイン” を聞き逃すな。

黒澤俊二
たら・れば・たびに・つれて——「関係」に気づいた子どもの “サイン” を聞き逃すな。

「お父さん、『おはよう』と声をかければ、『おはよう』って言ってくれるんだね」
「うんうん、そうだね。『おはよう』って声をかければね。気持ちいいね」

けさ、駅に向かう道すがら、保育園に行く途中のお父さんと娘さんの会話を耳にしました。お父さんと歩いていたその女の子は、街角の小さな公園にいる黒い猫を見つけて駆け寄り、「おはよう」と元気に声をかけたのです。すると、なんてことでしょう。その黒猫は「おはよう」と返答したのでした。

え? そんな馬鹿な?

もちろん「にゃーん」という鳴き声なのですが、その猫の声が、私にも「おはよう」と聞こえました。確かに「おはよう」と聞こえたのです。不思議な感覚でした。

その女の子は、これまできっと、毎朝ここを通るたびに猫にあいさつをしてきたのでしょう。猫のほうも、それを心得て待っているかのようでした。

「声をかければ」の「れば」の意味

ほら、このお父さんの「リアクション」、すばらしいでしょ。「うんうん」と “いづち” を打ち、「気持ちいいね」という “いところ” をフィードバックしています。もちろん、“なずいて” “顔で演じ” “ウム返し” もしています。

そして同時に注目するべきは、この女の子の「声をかければ」の言葉に、なんと「算数的態度」が含まれているということです。それはずばり「関係」に対する「気づき」。特に、この「れば」、これが貴重なのです。なぜならば私は、この「れば」というコトバに、数学の重要分野である「関数」の始まりを感じるからです。

え? 「関数」ですって?

いきなり「関数」なんて、ちょっと唐突ですよね。「関数」は日常生活に関係なさそうですものね。確かに、2次関数だの三角関数だのという文言は、日常生活ではお目にかかりません。「サイン、コサイン、何になる」なんて流行歌もありましたようにね。

しかし「関数」とその「考え」は、日常生活の中では目立たずとも大活躍しているのです。なにしろ地球は動いていますからね?

動いている地球の表面に乗っかって生きている私たち人間にとっては、すべてのものが変化しています。乱暴に言うならば、変化する事柄どうしの関係を数理化していくのが「関数の考え」であり、その結果が「関数」なのです。

だんだん明らかにしますが、この「関数の考え」は、わかっていることに関係づけてわかるようにする、創造的に考える強力な方法なのです。これからの創造の時代を生きるうえで、小さな子どものころからぜひとも育てたいのが「関数の考え」です

その「関数の考え」の現れの始まりを、私はあの女の子に見出しました。「れば」は、「関数の考え」を育てるという深い意味がある肝心な「コトバ」です。ですから、「れば」は肝に銘じたい「コトバ」なのです。肝心要の「れば」なのです。

「おはよう」と返してくれるねこ

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「関係」に気づく子どものサイン

猫に「おはよう」と投げかけると、猫は「おはよう」と返してくるようになった。これはひとつの猫の変化です。しかも自分の行為も変化としてとらえ、その変化をその猫の変化の要因として意識し、「れば」と自分の行為と猫の行為を関係づけているのです。

「おはよう」と声をかけ「れば」、「おはよう」が返ってくる。この「れば」が、「関数の考え」の現れの始まりなのです。なぜならば、「変化」と「その変化をもたらすもうひとつの変化」の「関係」に気づいているからです。

あいさつの回数や声の大きさは数値化されていませんから、厳密には「関数」とは言いすぎかもしれません。しかし、あの子どもは、「変化」する側と「変化をもたらす」側のもうひとつの「変化」という「関係」に確実に気づいています。「れば」は「関係」の気づきからのサインであり、子どものアクションなのです

そして「れば」と同じように、「たら」「ごとに」「たびに」「つれて」など、ふたつの数量の「関係」に気づいたときの子どもの「コトバ」を、ひとつの「関係」気づきのサインとして、絶対に聞き逃さないでほしいのです。そして「リアクション」してほしいのです。

「たら」「ごとに」「たびに」「つれて」などの言葉

「関係」の気づきの前に「変化」の気づきがある

この「れば」を代表とする「関係」気づきのサインは、前述の子どものあいさつの声と猫の声のように、「AればB」というふたつの伴った変化の関係なのです。猫に何回もあいさつをするという子どもの変化がAであり、それに伴ってあいさつするようになった猫の変化がBなのです。

「暖かくなる」という変化Aに伴って、「花が咲く」という変化Bが起こります。「スピードを上げる」という変化Aに伴って「はやく着く」という変化Bが起こります。

このようにとらえてみると、この伴って変わるAとBの関係に気づく前に、それぞれに対しての「変化している」という気づきがあるはずです。ですから、あの女の子には「私、何回も猫にあいさつするようになったね」とか「黒猫ちゃん、だんだんとあいさつするようになったね」といった気づきが、「関係」気づきの以前に必ずあったのです。

そうなのです、「だんだん」とか「何回も」といった「コトバ」で「変化」に気づいているのです。子どもは身のまわりをよく見て、いくつもの変化をとらえています。ですから、「関係」へと向かう「変化」の気づきのサイン「だんだん」「何回も」といった「コトバ」も聞き逃せないのです。「だんだん大きくなってきた」「だんだんはやくなってくる」「何回もやってみた」これらはすべて「変化」の気づきのサインなのです。

「変化」に気づき「関係」に気づいていく、これこそ「関数の考え」が育つ始まりです。算数力育成に向けた「算数的態度」の中で、まずもって育てたいのは、この「関数の考え」の態度なのです。

次回は、そもそもこの「関数の考え」とは何かをさらに明らかにし、子どもの「関数の考え」に向けた「算数的態度」の子どものアクションについてさらに深めていきましょう。リアクションスターをめざして。