先日、駅のホームで電車を待っていたときのことです。静かなプラットフォームに、カラスが「かー、かー、かー、かー」と4回続けて鳴く声が響きました。そして1分と経たないうちに、また繰り返すように「かー、かー、かー、かー」と、これまた4回鳴きました。
すると、私のうしろで電車を待っていた小学校1年生ぐらいの子どもが、お母さんにこう話しかけたのです。
「『かー、かー、かー、かー』って、4回のかたまりだね」
でもお母さんは、携帯電話に夢中でノーリアクション。スマートではありませんね。
非常に残念で仕方がありませんでした。なぜならば、「かたまり」への気づきは、数学的な「高まり」へのひとつのサインなのですから。
そこで、おじさんの “小さな親切・大きなおせっかい”。
「あ、そうだね。いいぞ。4回の『かたまり』か。『かたまり』ね。すばらしいね」
とうなずきながら笑顔で、オウム返しのようにその子に語りかけました。
お母さんにらまれたところで、電車がホームに入ってきました。その後の会話は電車の音にかき消されてしまいましたが……その子はとてもニコニコしていました。
「数える」と楽しい、そして愉しい
「いち、に、さん」といった、リズミカルに「数える」場面は、子どもたちの生活の中に自然にあります。「同じ」動作の中にある部分的な “順番” を数える場面、そして「同じ」仲間のモノの “個数” を数える場面、という2つの場面でしたね。その2つの場面で起こる子どもの「数える」というアクション、そこが「算数的態度」を育てるリアクションのしどころでした。
前述のようなカラスの鳴き声だけではなく、「同じ」順番や個数を持ったモノは、身のまわりにたくさんあります。水が落ちる音、風雨の音、花や葉っぱ、そして実——気がつけば、自然界にはいくつもの「同じ」順番や「同じ」個数がありますね。ましてや、自然にならって作りあげた人工のモノにも「同じ」があることは言うまでもありません。それらの「同じ」を数える音は、まさに楽しい「数楽(?)」なのです。
いやいや、“楽しい” だけではありません。気がつくと “愉しい” のです。主体的に自ら「数える」と、与えられた “楽しさ” から、気づく “愉しさ” に変わります。「数える」ことが愉快になっていくのです。
「かたまり」への気づき
その「同じ」順番や「同じ」個数がわかってくると、必ずと言っていいほど、「同じ」動作(同動作)として1セットとなるまとまりや、「同じ」仲間として属する個数のまとまりが見えてきます。このまとまりが、あの子の言葉を借りると「かたまり」なのです。子どもは本当に、すばらしい感覚(数と形への感覚)を持っているのですね。
すなわち、「同じ」部分の “順番” と、「同じ」仲間のモノの “個数” をリズミカルに「数えた」体験から、“区切られた” あるいは “区別された”「かたまり」が見えてきます。
このような「区切り」や「区別」への気づきが、子どもを次のステップへと導きます。“順番” や “個数” に気づくと、それらが「区切られた」「区別された」状態であることに気づき、そこに「かたまり」を意識させるからです。「ひとかたまり」「1セット」「ひと組」「1パック」「1ケース」「ひと皿」「ひと山」「ワンブロック」「ワンピース」などなど……です。
「かたまり」から始まる “概念形成”
なぜ、「区切り」や「区別」に気づき「かたまり」を意識する子どものアクションを取りあげフィードバックする「リアクション」が重要なのでしょうか。それは、区切ったり区別したりして「かたまり」が見えてくると、そのかたまりをひとつの「同じ」“なかま” として認識するからです。そしてこれが、いわゆる「概念」形成の始まりとなります。
「概念」なんてちょっと難しそうな言葉ですが、じつはそんなに難しくはありません。「概」とは「だいたいこのぐらいね」といったような意味です(「概」という字はもともと、立方体のような入れ物「桝(ます)」で穀物を売り買いするときに用いた枡切棒のことだそうです。棒だから木ヘンなのですね)。ですから、もともと「概念」とは「だいたいそれはこんなもんだね」といった、物事がだんだん明確になる途中経過のような「念」、つまり「心や頭の中の思い」を指します。沖縄風に言えば「てーげー(大概)」でしょうか。
たとえば、小さな子どもがゴールデンレトリバーという大きな犬を見て「わんわん」と認識します。次に、柴犬という中型犬を見ます。さらに、ブルドッグを見ます。こんな具合にいくつかの「わんわん」を見て、そこに「わんわん」という「かたまり」を “同じなかま” と見ていきます。これがすなわち、犬という「概念」を形成していくということなのです。
“人間力” 育成のために
リズミカルに「数える」ことから「区切り」や「区別」に気づき「かたまり」を見出していく、という流れが、物事を見て取り知識として身につけていく最初のステップとなります。つまり、概念形成への準備体操のようなものなのです。こうなると、「算数力」に向けて、小さな子どもの「算数的態度」を育成する親の役割は、「算数力」向上だけにはとどまりません。いわば人間力育成のための大きなエネルギーともなるのです。
ですから、「区切り」「区別」に気づき、「かたまり」へと高まる子どもの「わざと」「わざわざ」するなにげないアクションを見逃がさずに、ぜひ「リアクション」をお願いします。私たち大人は、フィードバック機能を備えたスマートでアカデミックな「リ・アクションスター」でありたいものです。
これからの未来を担う小さな子どもたちの能力開発を考えると、どんなににらまれても、“小さな親切・大きなおせっかい” 役のおじさんを、私もしばらくはやめられそうにありません。