仕事や家事、日々の子育てに追われてたくさんのストレスを抱えている人も多いことでしょう。大人にとってはあたりまえのように使う「ストレス」という言葉ですが、はたして子どもはどれくらいストレスを感じるものなのでしょうか。お話を聞いたのは桜美林大学の小関俊祐先生。日本ストレスマネジメント学会事務局長でもある同氏が、子どもの感じるストレスについて詳しく教えてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
ストレスにはいくつもの種類がある
ストレスとひとことでいっても、じつはいくつかの種類にわけることができます。ふつう、ストレスというと心理的なものをイメージしますよね。ただ、ストレスとはもともと「圧力」を意味する物理の用語ですから、物理的な圧力を表すものでもあるわけです。両方のストレスがあるわかりやすい状況というと、満員電車でしょうか。まわりの人と身体的接触がある満員電車では物理的な圧力も感じますし、「窮屈だなあ」「暑いなあ」といった心理的ストレスも同時に感じます。
また、それらとは別の観点からのストレスのわけ方もあります。いま挙げた満員電車でも感じるような日常的なストレスは「デイリーハッスル」と呼ばれるもの。一方、人生のうちで何度も経験することのないストレスが「ライフイベント」と呼ばれるものです。ライフイベントの例としては、子どもの場合なら、入学や卒業、転校、クラス替え、受験、親の離婚といったものが挙げられます。大人の場合なら、結婚や就職、転職などでしょうか。大人と子どもに共通するものとしては震災などの災害も含まれます。
ライフイベントの場合は自分が置かれている立場によって内容が大きく変わりますから、やはり大人と子どものライフイベントにはちがいが出てきます。でも、デイリーハッスルのほうは人間が日常生活を営むうえで感じるストレスですから、大人と子どもで大きくちがってくるものではありません。
子どもも大人と同じようにストレスを感じている
子どもはいつでもニコニコ笑っている天使だなんて思っている人なら、「子どもはストレスを感じるの?」という疑問を持っている人もいるかもしれません。「これがストレスだ」と本人が理解しているかどうかは別として、もちろん子どもだってストレスを感じます。たとえば、生まれたばかりの赤ちゃんなら、「お腹がすいた」「おむつを替えてほしい」「ママがいないよ」と泣きますよね。いま置かれている状況、感じていることが「嫌だよ」といって泣くのですから、これも立派なストレスといっていいでしょう。
幼稚園や保育所に入って大きく変わるのは友だち関係ができるということ。すると、おもちゃを貸してほしいのに貸してくれない、おもちゃを貸したくないのに取られちゃったというようなことが起きてきます。つまり、友だち関係から新たなストレスを受けるようになるのです。また、家庭内でも弟や妹が生まれれば、下の子に対する対抗からストレスを感じるということもあるでしょう。
そして、小学生になれば、いうまでもなく勉強がはじまります。勉強をする幼稚園もあるでしょうけれど、小学校での勉強時間はそれまでより一気に長くなる。しかも、未就学児なら勉強の出来に関係なく「わあ、すごいね!」と褒められていたのに、小学生になったらテストや通知表などで他者から評価をされることになります。運動をしても、「勝った負けた」「あの子はうまい、へた」というふうにやはり評価をしたりされたりする。それは子どもにとってこれまでになかったストレスです。
また、小学校中学年くらいになると、分数や小数といった抽象的概念が登場するなど勉強の難易度が一気に上がります。そうすると、低学年の頃は多くの子どもが比較的容易にテストで高得点を取れていたのに、学力の差が顕著になってくる。それまで勉強が得意だと思っていた子どもも、テストで結果が出なくなり大きなストレスを感じることも出てきます。
そして、これらは大人にもあてはまるものです。大人も子どももお腹が減ればストレスを感じますし、友だち関係の悩みも持つ。勉強にかかわるストレスは仕事にかかわるストレスに置き換えることができるでしょう。子どもは子どもなりに大人と同じようにさまざまなストレスを日常的に感じているのです。
子どものストレスを排除し過ぎることは危険
では、そんなストレスはわたしたちにとって必要なのでしょうか。その答えは「YES」です。ただ、それは自分がつきあえるほどの「ある程度のストレス」ということになる。手に負えないような過大なストレスは心を大きく傷つけてしまいますから、ないに越したことはありません。
一方、ある程度のストレスとは、たとえば「お腹が減る」といった日常的に感じる小さなストレスです。それこそが、人間にとって重要なのです。人間というのは、お腹が減るからご飯を食べようとするし、将来が不安だから働こうとする。もちろん、そこに楽しみを見出している一面もありますが、自分が生きていくためにするべきことをしないといけないという危機感を与えてくれるのがストレスなのです。
そもそも、まったくストレスを感じないとしたらどうなるのかと想像してみてください。お腹が減ることにストレスを感じなければ、体はエネルギーを求めていても食事をしようともしない。また、将来になんの不安も感じませんから、お金を稼ごうと働くこともしないでしょう。つまり、ストレスを感じなければ、生きていけないということになるのです。
そういう意味では、子どものストレスを排除し過ぎることは危険だといういい方もできます。「転ばぬ先の杖」という言葉がありますが、ストレスマネジメントにおいてはその杖は危険なものです。ストレスと無縁の人生を送ることは不可能なのですから、子どもが転ばないようにするのではなく、転んだときにそのストレスとどう向き合ってどう起き上がればいいのかということを、子どもが小さいうちから教えてあげなければならないのです。
■日本ストレスマネジメント学会事務局長・小関俊祐さん インタビュー一覧
第1回:ストレスと無縁の人生を送ることは不可能。教えるべきは「転んだときの起き上がり方」
第2回:高学年までに身につけさせたい、ストレスに対抗する“セルフコントロール”の力
第3回:子どものストレスを軽減させる“ストレスコーピング”。選択肢は多ければ多いほどいい
第4回:子どもの「レジリエンス」を高めるのは、親子の会話。結果ではなく“挑戦”を褒める!
【プロフィール】
小関俊祐(こせき・しゅんすけ)
1982年1月9日生まれ、山形県出身。博士(学校教育学)。日本ストレスマネジメント学会常任理事、事務局長。桜美林大学心理・教育学系講師。他に、日本認知・行動療法学会公認心理師対策委員及び倫理委員、一般社団法人公認心理師の会運営委員及び教育・特別支援部会長も務める。子どもを対象とした認知行動療法を中心として、主に学校、家庭、地域における臨床実践・研究を推進している。小学校〜高校における学級集団を対象としたストレスマネジメントや学校における特別支援教育の支援方法の検討、発達障害のある子どもとその保護者に対する支援を中心に研究と臨床を行う。また、東日本大震災以降、被災地での心理的支援も継続して実施している。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。