テクノロジーの発展で世の中はとても便利になりましたが、デジタル機器の長時間使用による脳や体への悪影響も指摘されています。私たちは、子どもとテクノロジーとの距離感をどう保っていけばいいでしょう。
そのヒントは、IT業界を牽引してきた中心人物たちが教えてくれるかもしれません。子どもにデジタル機器を与える際の注意点などについて説明します。
「ネオ・デジタルネイティブ世代」とは?
幼いころから自然に英語を使う環境にあり、英語を母語としている人を「英語のネイティブスピーカー」といいますが、現代の子どもたちは総じて「デジタルネイティブ」と呼ばれているそう。幼少時からゲーム、スマートフォン、タブレット、パソコンといったデジタル機器に慣れ親しんでいるからです。
金沢学院大学文学部教授で教育へのICT活用などが専門の今田晃一氏によれば、そのなかでも1996年以降生まれで、2015年前後に大学に入学した世代のことを「ネオ・デジタルネイティブ」と呼ぶそうです。その特徴は、デジタル機器が自分の体の一部になっているかのように機械との親和性が高いこと。加えて、1日中動画漬けになっていて、言葉よりも映像や音楽を重視する傾向にあるといいます。
そんなネオ・デジタルネイティブ世代より後に生まれた、今はまだ幼い子どもたちは、彼らをも超えるハイテク世代になり得るわけです。これから先、いったいどんなふうに子どもたちがデジタル機器と接していくことになるのか、あまりにも未知のことで想像がつきませんよね。
じつはゲイツやジョブズの子どもはローテク育ち
こうした状況を考えると、IT業界を牽引し、今のようなデジタル世界をつくり上げた人々の子どもたちは、さぞかしハイテク三昧だろうと想像してしまいますが――じつはまったく逆なのだそうです。彼らの子どもたちは意外にも「ローテク育ち」なのだとか。いくつかエピソードを紹介しましょう。
- ビル・ゲイツ氏(マイクロソフト社の共同創業者):
子どもが14歳になるまで携帯電話を持つことを許さず、夕食時にはとりあげていた。テレビやデジタル機器などを見る時間も制限していたため、子どもたちが夜更かしすることはあまりなかった。 - 故スティーブ・ジョブズ氏(アップル社の共同創業者):
最初のiPadが発売されたころ、「自分の子どもたちのテクノロジー使用時間を制限している」とニューヨーク・タイムズ紙の記者に話し、驚かせた。 - クリス・アンダーソン氏(3Dロボティックス社CEO):
自身の子どもに対し、自宅にあるすべてのデジタル機器使用の制限時間を設けている。 - 竹内健氏(フラッシュメモリ開発者、中央大学教授):
子どもたちが普段携帯電話を持つことを許さず、どうしても必要なときだけ通話機能だけに絞って持たせている。
デジタル技術をつくり出した張本人でありながら、彼らがここまで厳しく制限するのは、いったいなぜなのでしょう?
彼らが子どものデジタルを制限する理由
彼らが子どものデジタル機器の使用を厳しく管理しているのは、その世界を知り尽くし、危険性についても熟知しているからです。
子どもがデジタル機器を使用しすぎることの危険性は、近年の調査や研究でも示されています。子どもはスマートフォン中毒になりやすいということが明らかになっているのです。
2019年5月に『International Journal of Mental Health and Addiction』で発表された海外の研究では、スマートフォン中毒になるリスクがもっとも高い世代として若年成人(19〜24歳)と、就学前の子ども(3〜6歳)が示されました。
また、東京大学大学院情報学環教授・橋元良明氏の研究室が2018年10月に実施した、乳幼児を育てる母親約2,000人を対象とした調査では、スマートフォン依存の傾向にある子どもは1歳児で9.9%、2歳児で13.3%だったそう。1~2歳にしてすでに、スマートフォンをすぐに使いたがったり、取り上げられると機嫌が悪くなったりするなどの依存状態にある子が、1割ほどもいるのです。
こうした状況で心配されるのは、乳幼児の言葉や目への悪影響です。
カナダ・トロント大学の研究者らは2017年5月に小児科学会で、「生後6カ月~2歳の乳幼児は、スマートフォン、タブレット、ゲームなどで遊ぶ時間が長いほど、言葉の発達が遅れる可能性が高まる」と発表しています。
また、中央大学文学部教授で乳児の脳と心の発達について研究する山口真美氏は、赤ちゃんがスマートフォンなどの画面を長時間見続けてしまうと、近視になったり立体視が弱くなったりする原因になると述べます。国立成育医療研究センター小児眼科医の仁科幸子氏も、0~6歳頃までは目の機能が育つ大切な時期だとし、デジタル機器を長時間使用することを問題視しています。
それに、インターネットを利用している限り「有害なコンテンツ」に触れてしまう可能性は大いにありますし、「ネットいじめ」も深刻な問題です。スマートフォンなどを長時間使用し続けることが、子どもの心身の健康にいいはずがありませんよね。
子どもとデジタルとのほどよい距離感
とはいえ、子どもたちからデジタル機器を完全に遠ざけることは難しいはず。そこで、ITの先駆者や専門家からのヒントをもとに、子どもとデジタル機器との距離感を良好に保つ方法を3つまとめました。
■方法1:年齢に応じて使用時間を制限する
10歳、13歳の子どもには平日夜30分だけデジタル機器の使用を許し、5歳の子どもには平日の使用を禁じていたアウトキャスト・エージェンシーCEOのアレックス・コンスタンティノープル氏のように、子どもの年齢に応じ、デジタル機器の使用時間を制限してみるのはいかがでしょう。
世界保健機関(WHO)は、スクリーンタイム(※テレビやビデオの視聴、スマートフォンの操作、コンピューターゲームをプレイする時間)について、0~1歳児には推奨しないこと、2~4歳は1時間以内にとどめ、その時間は短いほど良いことなどを盛り込んだガイドラインを、2019年4月に提示しています。
また、前述のように子どもはスマートフォン中毒のリスクが高く、目の機能の育成の観点からも長時間使用は推奨されません。5歳以上の子どもについても、「スクリーンタイムはなるべく短く」を常に心がけるとよいでしょう。
■方法2:内容に応じて制限を変える
アイライクの創業者でフェイスブックなどの元アドバイザーであるアリ・パートヴィ氏は、デジタル機器によって「消費される時間」と、デジタル機器上で「創造する時間」は区別すべきだと説きます。YouTubeを見たりゲームしたりするのは単なる「消費」だとして厳しく制限する一方、コンピューター・アートやプログラミングなどは「創造」にあたるので、制限する必要はないといっているのです。
そんなパートヴィ氏にならい、子どもがスマートフォンやタブレットを使いたがったときは、YouTubeを見せるのではなくて、プログラミングを体験させてはどうでしょうか? 折しも、子どもがプログラミングを学べる講座やアプリ、ツールがどんどん登場しています。たとえば、未就学児でも楽しめる「Viscuit」や、文部科学省が提供する「プログラミン」などはその一例です。
デジタル機器を使う時間が、ただの「消費」の時間ではなく、「創造」の時間、「学び」の時間になるのなら、親としても納得して子どもに使わせてあげられますね。
■方法3:制限にメリハリをつける
以前ツイッターのCEOであったディック・コストロ夫妻はかつて、子どもがリビングにいるあいだは好きなだけデジタル機器を使うことを許可している、と語ったそうです。その理由は、過剰な制限によって反動的なデジタル依存に陥らないようにするため、なのだとか。
コストロ夫妻のこの方針は、子育ての専門家の意見と照らし合わせても理に適っているといえそうです。教育学者で東京大学名誉教授の汐見稔幸氏によれば、親が「指示」「命令」「禁止」をしすぎると、子どもは自分で考えられなくなるほか、親に反発するようになったり、必要以上にストレスを溜め込んだりしてしまう場合があるのだそう。
ですから、コストロ夫妻の家庭のように、親の目の届く範囲でなら、デジタル機器をある程度自由に使わせてみる、というのもありかもしれません。
ただし、長時間使用はもちろんNG。そこで、汐見氏が勧める「提案」「依頼」の声かけをしながら、子どものデジタル機器の使用状況をうまくコントロールしましょう。たとえば、「あと10分で終わりにできる?」「YouTubeを見続けるのではなくて、お絵描きツールで遊んだら?」といった具合です。
「スマートフォンやタブレットを触ってみたい!」と思っている子どもに向かって、「ダメ!」と言って禁止ばかりしていると、子どもに必要以上の我慢を強いることになりかねません。何事も、やりすぎは避けたほうが懸命ですね。
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テクノロジーを熟知する人々の、子どもに対するデジタル制限について紹介しました。よろしければぜひ参考にしてみてください。
(参考)
FUTURE IS NOW|第43回 ネオ・デジタルネイティブ世代
NewsPicks|ジョブズとゲイツが我が子のテクノロジー使用を厳しく制限した理由
現代ビジネス|ジョブズは自分の子どもにiPadもiPhoneも触らせなかった
ハフポスト|自分はエレクトロニクス・ITの研究者だけど、子供にはスマホもパソコンも使わせない理由
SpringerLink|Analysis of Problematic Smartphone Use Across Different Age Groups within the ‘Components Model of Addiction’
東京すくすく|2歳児の1割超がもう「スマホ依存」 母親2000人の調査で判明 専門家「リスクは未解明、ほどほどに」
CNN.co.jp|乳児のモバイル使用、言葉の発達遅れるリスクも 学会で発表
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