ランドセルづくりの老舗「土屋鞄製造所」。
50年以上、子どもたちのためにこだわりのランドセルを届け続けてきました。人気の秘密は、“ものづくり” にまつわる子どもたちへの真摯で優しい想いにあるようです。
その魅力に迫るべく、ワークショップが行われているお店を訪れました。
土屋鞄が考える、ランドセルづくりの先にあるもの――
1965年に東京都足立区で土屋國男氏が創業した土屋鞄製造所は、長年職人の手作業による丁寧なランドセル製作に取り組んできました。今では、工房を備える西新井本店と軽井澤工房店を含め、全国に12店舗のランドセル取扱い直営店を展開しています。(2019年11月現在)
ランドセルづくり同様、お店づくりにもこだわり、年月を経て味わい深く変化する木材や煉瓦などの自然素材をできるだけ取り入れているそうで、お店によっては、古いミシンを展示するなど、土屋鞄の世界観が感じられる優しい空間となっています。
童具店と呼ばれる店舗ではワークショップも開催され、ランドセルを選ぶだけでなく、子どもたちの体験や学びの場ともなっています。2019年3月16日から4月7日まで開催されたイベントが、土屋鞄の想いを色濃く象徴していますので、次にご紹介したいと思います。
「おもう、つくる、そのさき展」
この展覧会のテーマは、「『つくる』にまつわる魅力を、全身で感じてもらうこと」。そこには、“ものの背景にある物語に思いを馳せることができる、豊かな感性をこどもたちに提供したい”という想いが込められています。
ランドセルをつくり続けて53年。「つくる」ことのそばにはいつも、新しい発見や、心のときめき、誰かを思う気持ちや、完成後の面白さがありました。そしてそれらは、時に感性を飛躍させてくれる力になります。
未来に花ひらく感性の種をたくさん持っているこどもたちへ、私たちが感じている「つくる」ことにまつわる魅力を伝えたい――。豊かな未来への一歩となることを願って…
(引用元:土屋鞄のランドセル|おもう、つくる、そのさき展)
西新井本店の会場では、併設された工房を改造して「おもう」「つくる」「そのさき」3つの体験コーナーが作られました。
■「おもう」 色・形・質感を体感することで新しい発見を!
いろのもり
パープルやブルーなどのニュアンスカラーで照らされた幻想的な森のような場所で、可愛いボールに手が触れると音と色の変化が。色を目で楽しむだけでなく体感できるメルヘンな空間です。
かたちのもと
ランドセルをパーツに分解して壁に展示。「毎日使っている鞄にこんなにたくさんの“かたち”が潜んでいるんだ!」とかたちの新たな発見があります。
てざわりのいえ
小さなおうちには天井からいろいろなものがぶら下がっています。“みずの質感”と“根っこの質感”は子どもたちの五感をたっぷりと刺激します。
しつかんのはこ
暗いへやに置いてある箱の中に手を入れると……それは、“ざらざら”“ツルツル”。「なんだろう?」と想像しているところで、その正体が壁に映像で映し出されます。
かけらのおみせ
たくさんのかけら(ビーズ)の中から好きなものを3種類選んだら試験管に入れてもらいます。それを何に使うかは次のお楽しみです。
■「つくる」 自分の手で“ものづくり”体験
前のブースで選んだ“かけら”で万華鏡を作ります。万華鏡が初めての子もたくさんいて、出来上がった万華鏡を覗き込む目は皆キラキラ輝いていたそう。今まで見てきた景色を万華鏡で覗き込んで、違った世界を楽しむ子までいたそうです。これもまた新しい発見ですね。
■「そのさき」 つくったものに、思いを巡らす
家族ごとに個室に入って、選んだ“かけら”が入った試験管をセットすると、壁中に自分の“かけら”の映像が映し出されて、まるで夢のような空間が。最後は記念撮影をして思い出を残すことができ、ご家族にとても喜ばれたそうです。
普通のものづくりワークショップとは一線を画す、ストーリー性の高いこのイベントは、子どもたちのイマジネーションと自信を生み出し、ものづくりの魅力を楽しく体感できる特別なものとなったようです。
このような子どもたちの感性を育むためのイベントは、今後も開催していく予定だそう。土屋鞄HPにはさまざまなイベント案内が載っていますのでチェックしてみてくださいね。
ものを大切にする心を育む【まいにちWORKSHOP】
定期的に開催されているイベントもあります。【まいにちWORKSHOP】は、ランドセルづくりで余った革を活用することで、「ものを大切にする心」を育もうという取り組みです。つくるアイテムは1~2ヶ月ごとのシーズンにより変わりますが、この日のアイテムは可愛いフォトフレーム。
訪れた童具店・中目黒には、明るい光が差し込む店内の窓際に芝生のようなグリーンのカーペットコーナーがあります。そこに置かれたナチュラルなローテーブルが作業場。この日の参加者は、未就学児の男の子ふたりと小学生の女の子ひとりの3人。職人さんと同じデニムのエプロンをつけてもらい、“ミニ職人” さんのできあがりです。それぞれお母さんやお父さんがそばで見守ります。
ワークショップは、優しいスタッフのお兄さんのご挨拶からスタート。丁寧に手順を教えてくれます。子どもたちは、初めての経験に最初はソワソワ、そして照れくさそうにしながらも、興味津々に一生懸命話を聞く姿が印象的でした。
まず、使用する革(ベージュ・グリーン・ピンク)とヒモ(赤・緑・黄・青)の色を選びます。本体の色はグリーンが人気! ヒモはそれぞれ違う色をチョイス。色選び(組み合わせ)にさっそく個性が出ますね。意外だったのは、皆ほとんど迷いなく色を選んでいたこと。子どもは感性に素直なんだなぁと感じました。
その過程で、「これは何の革でしょうか?」という質問が。たくさんのランドセルが「牛革」で作られているということも、こういう機会がないとなかなか意識しないことですよね。ワークショップの中には、こんな小さな学びが散りばめられています。
そして、いよいよ作業開始。ヒモを玉結びにしたり、穴に通したりするのは、小さな手にはなかなか難しく、神妙な表情でお父さんやお母さんに手伝ってもらいながらの親子共同作業です。つたない手つきで間違いながらも、なんともすごい集中力。そのうちリラックスしてきた子からは、楽しそうな鼻歌が(笑)。後半は、ほかの子のことも気になるのか、チラチラお互いに意識しあっていました。
ヒモを通し終わったら、金具付け作業と模様のスタンプ作業です。金具付けは、くじ引きで決めた順番に、一人ずつお兄さんに手伝ってもらいながら行います。ハンマーを使うのですが、いちばん動きが大きい工程とあって、後で聞くと、子どもたちはこの作業が一番楽しかったそう。慎重にコンコン叩く子、思い切りよくハンマーを打ちおろす子など、性格が出ておもしろかったです。スタンプは、星・丸・三角・四角の4種類。ポンポン気ままに自由にデザインを楽しんで……ついに完成です!
完成後は、作品と一緒に一人ずつインスタントカメラで記念撮影。ちょっと恥ずかしそうで、でも嬉しそうな表情がとても微笑ましく、大人たちの笑顔を誘っていました。おそらく、子どもたちにとってインスタントカメラでの撮影も初体験! 画像が浮き上がってくるのを待つ時間も写真をじーっと眺めてワクワク。できあがった写真をフレームに入れて大満足です。最後は机を囲んで、みんなで「ありがとうございました!」のご挨拶で終了。お父さん、お母さんに自慢げに自分の作品を見せていました。
そして、11月・12月の【まいにちWORKSHOP】のテーマは、「革のジンジャーブレッドくんをつくろう」。クリスマスのオーナメントにもなるジンジャーブレッドマンを革で作り、お気に入りのボタンで飾ります。ボタンは好きなものを持参してもいいですし、お店にご用意もあるそうです。オリジナルのオーナメントはクリスマス最高の記念になりそうですね。
「革のジンジャーブレッドくんをつくろう」
開催日時:2019年11月1日(金)~12月27日(金) ※童具店・南町田は12月1日から開始
11:15〜/12:15〜/13:15〜/14:15〜/15:15〜/16:15〜/17:15〜
所要時間:45分
開催会場:土屋鞄製造所童具店各店
参加費:無料
対象年齢:小学生以下
予約開始:11月参加予約は10月24日(木)~/12月参加予約は11月25日(月)~
また、西新井本店と軽井澤工房店では、工房で作業している様子を見ることができるそうです。ものづくり体験の第一歩として、見に行ってみるのもいいかもしれません。
ちびっこデザイナー大募集しています!
土屋鞄では2013年から「こどもたちの今しか描けない特別な絵をずっと先の未来にも残していきたい」という想いで、ランドセルにつけるリフレクター(反射版)のデザインを募集しています。去年は約4,500件もの応募があったそう!
毎年テーマがあり、去年は「一緒に冒険したい“いきもの”」。子どもたちのイマジネーションから生まれた傑作揃いの中から選ばれたのは、4作品。そこにはそれぞれのストーリーもあるのです。
のんびりなまけもの:「普通に歩いていたら見落としてしまうものも、ナマケモノはすごくゆっくり歩くからちゃんと見つけてくれる」
ぴかぴかいか:「困ったときに道を照らしてくれる」
あいぼうロボット:「AIを搭載しているから助けてくれる」
こころの優しいライオンライオン:「強いライオンが守ってくれる」
それぞれのストーリーの中の子どもの洞察力や感性に驚かされますし、デザインでは色使いの自由さにハッとさせられますね。
今年のテーマは「一緒に遊びたい“いきもの”」。大賞に選ばれた4作品の親子には、工房での「職人体験」とリフレクターの商品化、ちびっこデザイナーセット(スケッチブックとベレー帽)のプレゼントが。特に、工房でプロの職人さんに手ほどきを受ける体験は、とても貴重で特別な時間となるに違いありません。
応募用紙は店頭にあり、WEBサイトからダウンロードも可能です。お店で描いても、持ち帰ってお家で描いて後日の応募も可能です。今年は、童具店各店で世界中のしあわせの情景から生まれた「500色の色えんぴつTOKYO SEEDS」を使うことができるそう! どのお店にどの色があるかはお楽しみ。500色の中から、きっと初めてのお気に入りの色に出会えるはずです。
お子さんたちの自由なイマジネーションをはばたかせるべく、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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ご存じのとおり、土屋鞄製造所は大人用の鞄も扱っています。なんと、大人用の鞄を作ったきっかけは、ランドセルを一緒に選んでくれたご家族(ご両親やおじい様おばあ様など)からのリクエストなのですって。また、スタッフの中には小学生時代、土屋鞄のランドセルを使っていたという方も! ランドセルとともに歩んだ6年間がずっと先につながっているなんて、本当に素敵なことです。
ものをつくることは、ただつくるだけではない、コミュニケーション力、集中力、観察力、想像力、忍耐力など、さまざまな学びが生み出されるのだと実感できました。土屋鞄さんがお届けしたいのは、ものづくり体験だけではなく、そのとき過ごした時間そのもの。純粋に楽しかった時間、新しい発見、初めて触る革の手触り、12色のクレヨン以外に初めて見る色……など、すべて含めての体感です。「ものづくりにまつわる“学び”は広く深い」そう感じさせてもらえる時間となりました。
(参考)
土屋鞄のランドセル