教育を考える 2020.1.28

「わたしの子=わたしのもの」と思ってはダメ。“傾聴力”で子育てはもっとうまくいく!

「わたしの子=わたしのもの」と思ってはダメ。“傾聴力”で子育てはもっとうまくいく!

子育てをする親にとって必要とされる重要なものにはどんなことがあるでしょう。近年のトレンドなら、「自己肯定感を伸ばしてあげること」「褒めて伸ばす考え方」などが挙げられます。子育てにとっての重要なものの筆頭に「傾聴力」を挙げるのは、「励ましの言葉」である「ペップトーク」の第一人者、日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さん。その主張の真意とはどこにあるのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

子どもの気持ちを無視した「子どものため」はただの空回り

子育てをするにあたって絶対に必要なものが傾聴力だとわたしは考えています。傾聴力とは、子どもの言葉や本心を聴く力のことです。

その力がなかったら、どういうことが起きるでしょうか。たとえば、子どもに夢ややりたいことができたとします。すると、親のなかには、子どもの先回りをしてしまい勝手にいろいろと調べて、「こういう勉強や練習がいい」というふうに、自分の考えを押しつけてしまう人が出てくる。

もちろん、この親も子どものことを思っています。でも、子どもの気持ちをくみ取ることなく突っ走ってしまっては、それはただの空回り。まずなによりも、子ども自身はどうしたいのかということをきちんと聴いてあげるべきです。

親の傾聴力は、子どもが打ち込んでいるスポーツの試合や、勉強した成果を発揮すべき試験に臨むときにも威力を発揮します。子どもの本心をしっかり摑むことができれば、本番前に子どもがおじけづいているときに安心感を与えることができるし、興奮し過ぎているなら落ち着きを与えることもできるでしょう。また、気持ちが乗っていなくて落ち込んでいるなら励ますというふうに、適切な対応を取ることができるのです。

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耳だけではなく、目や心も使って子どもの心を「聴く」

もちろんこの力は、他の場面でも大いに有効です。たとえばある朝、突然「学校に行きたくない」と子どもがいったとします。傾聴力がない親の場合、その瞬間に「学校に行くのはあたりまえのこと」という自分のものさしが作動し、「なにいっているの! ちゃんと学校に行きなさい!」と叱ってしまう。

でも、子どもが「学校に行きたくない」というからには、そこになんらかの理由があるのです。それこそ友だちと大きな喧嘩をしたとか、いじめを受けている、授業中に恥をかいたなど……。なにか理由があって、意を決してそういっているわけですから、親ならその言葉の向こう側にある事実や、子どもの思いを聴いてあげる必要がある

では、どうすれば子どもの本心をしっかり聴くことができるのでしょうか? それは、コミュニケーションを取る以外にありません。この例の場合なら、子どもが「学校に行きたくない」と言葉を発しているわけですから、すでにコミュニケーションを取ることはできています。そこでもう1段階、コミュニケーションを先に進めてほしいのです。親の勝手なものさしで叱るのではなく、「どうしたの? なにかあったの?」と、子どもからさらなる言葉を引き出すことを意識すべきです。頭ごなしに親のものさしで意見をいうのは、コミュニケーションではないのです。

また、言葉に頼ることだけがコミュニケーションではありません。」という文字には、「」という字に加えて、「」「」が含まれます。つまり、耳だけではなく目や心も駆使して、子どもの本心をくみ取ることが大切なのです

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子どもを「ひとりの人間」としてとらえることの重要性

子どもの言葉や本心をしっかり聴くには、先の例にも表れているように、親のものさしを子どもにあてはめないことがなにより大切。そうしないためにも、子どもを自分の「持ちもの」ととらえないようにすべきです。「わたしの子=わたしのもの」と思うと、つい親は自分のものさしで子どもを測ることになるからです。

子どもとは、親とまったく別の人格を持つ「ひとりの人間」です。ですから、大人同士がそうであるように、子どもは子どもなりに親を試している部分だってある。その傾向は、2歳くらいの小さい子どもにも見られることです。たとえば、なにか欲しいものがあって駄々をこねたとします。そのときの親の反応を見ながら、子どもは「お父さんはこうやって駄々をこねたら欲しいものを買ってくれる」「お母さんはこれだけ泣けば買ってくれる」というふうにしっかりと観察しているのです。

そういう場面でこそ、子どもをひとりの人間としてとらえることが重要です。それを理解していれば、ただ親のものさしで「駄目!」といったり、かわいい「わたしの子」だからとものを与え過ぎたりすることもなくなるでしょう。きちんと、子どもの主張に耳を傾けたうえで、本当に必要なものなら買い与えるという判断ができるようになるはず。あくまでも、子どもは「ひとりの人間」なのです。

また、共働き世帯やシングルの家庭も増えているいまの時代にはそぐわなくなっている部分もありますが、父親と母親でその役割をわけることも大切かもしれません。子どもの言葉や本心を聴くにも、母親は子どもの心に寄り添ってあげるべきでしょう。一方、一般的に母親に比べて社会経験豊富な父親は、子どもの目標や希望を叶えるためにはなにをすべきかといった実務的な部分の悩みを聴きサポートするのです。

もちろんいまは、子育てや家事なども含めて両親の役割の差が明確ではなくなりつつあります。それぞれの家庭事情や子どもの悩みの種類などを踏まえ、臨機応変に対応することを考えてください。

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相手の結果を100%引き出す 実践!ペップトーク
岩﨑由純 監修・浦上大輔 著/フォレスト出版(2019)
相手の結果を100%引き出す 実践!ペップトーク

■ 日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さん インタビュー記事一覧
第1回:子どもの成功も失敗も、親の言葉がけ次第! 「ペップトーク」が持つすごい力とは
第2回:子どもの夢を断ち切っているのは親かもしれない。注意すべき「ドリームキラー」発言
第3回:「わたしの子=わたしのもの」と思ってはダメ。“傾聴力”で子育てはもっとうまくいく!
第4回:本番に強いか弱いかは価値観で決まる。「緊張を味方につける方法」の教え方

【プロフィール】
岩﨑由純(いわさき・よしずみ)
1959年10月10日生まれ、山口県出身。一般社団法人日本ペップトーク普及協会代表理事。NECレッドロケッツ・コンディショニングアドバイザー。日本体育大学体育学部体育学科卒業後に渡米し、米シラキューズ大学大学院体育学専攻科修士課程修了。日本初の「アスレチックトレーナー」として数々のスポーツ現場で活躍。アメリカ留学中に、ペップトークの迫力・思い・魅力を体感し、現在はスポーツの他、教育・ビジネスの世界にペップトークを普及するため精力的に講演活動を行っている。主な著書に『子どもの心に響く励ましの言葉がけ「ペップトーク」』(学事出版)、『想いが伝わるペップトーク』(いまじにあ出版)、『やる気をなくす悪魔の言葉VSやる気を起こす魔法の言葉』(中央経済社)、『心に響くコミュニケーション ペップトーク』(中央経済社)、『子どものココロを育てるコミュニケーション術』(東邦出版)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。