「子育ての最終目標」というと、みなさんはどんなものだと考えているでしょうか。人それぞれだとは思いますが、自身も子育ての真っ最中である、京都大学大学院准教授の森口佑介先生は、「子どもの自主性を伸ばすことが子育ての最終目標」だといいます。では、子どもの自主性を伸ばすために親ができることとはなんでしょうか? 森口先生がアドバイスしてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカット)
受け身ではない「真の我慢」が自主性を伸ばす
「我慢」という言葉を聞いたとき、みなさんはどんなイメージを持ちますか? 子どもの頃、親や学校の先生に「我慢しなさい」といわれたことは誰もがあるでしょう。一般的に、我慢とは周囲の誰かに強いられるものというイメージが強いはず。このケースなら、子ども自身は我慢しようと思っているわけではなく、親や先生が我慢させたいだけ。これは、いわば「受け身の我慢」です。
ただ、子ども自身がそうしたいと思ってする我慢もあります。たとえば、大好きなスポーツをうまくなりたいからと、肉体的にはきつくても一生懸命に練習やトレーニングに取り組むような我慢がそれにあたります。これは、子どもが自らすすんでやる「真の我慢」といえます。
では、どちらの我慢が大事かというと、もちろん「真の我慢」です。というのも、自らすすんで行う「真の我慢」には、いわゆる非認知能力の発達に欠かせない「自主性を伸ばす」ということが伴うからです(インタビュー第1回参照)。
また、非認知能力を伸ばすという目的以外にも、子どもの自主性を伸ばすことはとても大切だとわたしは考えています。意見はそれぞれでしょうけれど、子どもの自主性を伸ばすことこそが、子育ての最終目標なのではないでしょうか。通常、親は子どもより長く生きることはできません。子どもに「親から離れたあとも、自分で生きていける力」を身につけさせるには、自主性を育てることが大事。これこそが、親の役割であるはずです。
成長する子どもをよく見て、子どもの自主性に「任せる」
さて、子ども自らそうしたいと思ってやる「真の我慢」が大切であることはたしかですが、そうはいっても、幼い子どもにはなかなかできることではありません。「真の我慢」ができるようになるのは、だいたい4〜6歳頃からです。ですから、3歳くらいまでの子どもには、必要に応じて親がある程度コントロールして我慢させることも必要でしょう。
でも、いつまでもそういう我慢をさせていては、子どもは「受け身の我慢」を続けさせられるだけですから、「真の我慢」によって自主性を伸ばすことができません。その一方で、親が子どもの自主的な行動を容認することで、子どもに「真の我慢」が身につくということもあります。
だからこそ、親が子どもにかかわるバランスが大切。日々成長していく子どもの行動をしっかりと見て、親がかかわる度合を少しずつ減らしていくのです。そうして、これまでは子どもが自分でできなかったことが、子どもひとりでできそうに思えたなら任せてあげる。子どもの「自分でやりたい!」という気持ちを尊重し、徐々に子どもの自主性に任せる割合を増やしていくことがなにより大切です。
「褒める」より「認める」子育てを!
また、子どもの自主性を伸ばすことを考えるなら、近年流行している「褒めて伸ばす」子育てをするにも注意が必要です。なぜなら、褒めることが子どもの自主性によくない影響を与えることが研究によってわかっているからです。
これは、専門用語で「アンダーマイニング効果」と呼ばれるもの。どういうものかというと、子どもが自主的にやっていることに対して褒めたりご褒美をあげたりすると、その行為を子どもがしなくなるというものです。
たとえば、子どもがお友だちに対してなにか親切なことをしたとします。親であれば褒めたくなりますよね? でも、子どもというのはそもそも親切にすること自体が好きなのです。ですから、ただ自分がそうしたくて自主的にお友だちに対して親切にしただけにすぎないということもよくあります。それなのに、「すごいね!」なんて大げさに褒められたり、あるいはご褒美をもらったりすると、ただそうしたくてやっていたことの目的が、「褒められたい」「ご褒美が欲しい」というふうにすり替わってしまうのです。
すると、「褒められたい」「ご褒美が欲しい」というときには同じことをするかもしれませんが、「褒められたくない」「ご褒美はいらない」というときには、それまでならすすんでやっていたことをやらなくなってしまうというわけです。褒め方次第では子どもの自主性の芽を摘むことになるという点には注意が必要です。
そこで、「褒める」よりも「認める」ことを意識してください。「すごいね!」「天才かも!」といった大げさな言葉ではなく、子どもの行動をしっかりと見て、「頑張ってるね!」「自分でやり切ったね!」といった言葉で、「あなたがやっていることをきちんと見ているよ」ということを伝えてあげてほしい。それこそが「認める」ということであり、認められた子どもは「このままでいいんだ!」とさらに自主性を伸ばしていくことになるはずです。
『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』
森口佑介 著/講談社(2019)
『非認知能力を育むリーフレット』
(大阪府教育委員会)森口佑介先生作成協力
■ 京都大学大学院准教授・森口佑介先生 インタビュー記事一覧
第1回:エビデンス多数あり。「目標を達成する力」のある子どもは幸せになる!
第2回:困難に立ち向かえる自信のある子の育て方。何より大切なのは親子間の「アタッチメント」
第3回:“真の我慢”によって「子どもの自主性」を伸ばす。これぞ子育ての最終目標!
【プロフィール】
森口佑介(もりぐち・ゆうすけ)
1979年生まれ、福岡県出身。京都大学大学院文学研究科准教授。科学技術振興機構さきがけ研究員を兼任する。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。専門は発達心理学、発達認知神経科学。人文学に着想を得た問題を科学的に検討している。主な著書に『自己制御の発達と支援』(金子書房)、『おさなごころを科学する 進化する幼児観』(新曜社)、『わたしを律するわたし 子どもの抑制機能の発達』(京都大学学術出版会)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。