あたまを使う/教育を考える 2020.2.10

“できない”意識を持つ子にすべき、超重要なこと「褒めて自己肯定感を高める!」

“できない”意識を持つ子にすべき、超重要なこと「褒めて自己肯定感を高める!」

「褒めて伸ばす子育て」がいいといわれることが多い昨今。新著『それは子どもの学力が伸びるサイン!』(廣済堂出版)が好評で、首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る進学塾VAMOSの代表である富永雄輔先生は、「褒める」ことの一方で「叱る」ことの重要性を指摘します。そして、そもそもいまは、時代背景として「褒める」ことがより大切になってきているのだそう。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

子どもの精神状態を一定にすることが大切

いま、子どもの力をしっかり伸ばしてあげるために、「褒める」ことが大切だとよくいわれます。でも、その反面、きちんと「叱る」ことももちろん大切。そして、子どもを褒めるにしても叱るにしても、そのタイミングこそが重要だとわたしは考えています。褒めることが大切だといっても、ただむやみに褒めるのではなく、適切なタイミングで褒め、逆に叱るべきタイミングにはしっかり叱るべきです。

なぜかというと、子どもが勉強で成果を出すためには、精神状態を一定に保つことがなにより大切だからです。勉強ができる子どもには、いい精神状態を保っているという特徴があります。いい精神状態とは、学校や塾に通うこと、学ぶこと、勉強で結果を出すことが「楽しい」と感じる状態です。そういう子どもの学力が伸びることは、容易に想像できるでしょう。

しかも、精神状態がいい子どもの場合、その伸び方は大人の想像を超えます。「飛び越し学習」といいますが、大人の勉強での伸び方が「1、2、3、4……」と一定のものだとすると、子どもの場合は、「1、2、7、12、20……」というふうに、飛躍的な伸び方をするということがよくあります。でも一方で、ちょっとした心の問題によって、「20、12、7、2、1……」というふうに学力が直滑降で落ちてしまうことがあるのも子どもの特徴です。

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褒めるも叱るも、子どもの精神状態次第

子どもがなにか心の問題を抱えているような状態で、算数の問題を目の前にしても、気持ちを切り替えてしっかり勉強に取り組めるはずもありません。大人でもそうでしょう? たとえば、離婚したというようなネガティブな出来事を経験した直後に、気持ちを切り替えてしっかり仕事に取り組めといわれても、なかなかそうはできません。そういう状態では、仕事のパフォーマンスが上がるわけもないでしょう。まだ精神的に幼い子どもなら、なおさらです。そして、子どもの精神状態を安定させるために、適切なタイミングで褒めたり叱ったりすることが大切なのです。

では、その「適切なタイミング」とはいつなのでしょう。それは、子どもの精神状態次第ということになるでしょう。たとえば、子どもがテストで70点を取ってきた。70点に対して子どもが自信を失って落ち込んでいるようなら、70点取れたことをしっかり褒めてあげるべきです。

逆に70点で子どもが有頂天になっているようなら、足りなかった30点についてしっかりと叱るべき。精神状態が安定していることが大切だといっても、子どもが有頂天になっているような状態は問題です。有頂天とは油断以外のなにものでもなく、現状に満足して努力をやめるということもあるからです。

褒め上手とは叱り上手――そう認識して、テストの点数などの基準ではなく、子どもの精神状態をきちんと観察して、適切なタイミングで褒めたり叱ったりしてもらいたいと思います。

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子どもができたことを褒めて自己肯定感を高める

また、褒めることには、子どもの精神状態を安定させること以外にも子どもの自己肯定感を高めてあげられるというメリットがあります。

いまの子どもたちは、たくさんの習い事をしています。しかも、わたしたちが子どもの頃の習い事と比べて、野球やサッカーなどスポーツの習い事も本格的ですし、英会話やプログラミングなど、かつてはあまり見られなかった習い事をしている子どもも多い。とくに都内では小学校受験も盛んですから、そういう傾向も強まっています。

すると、子どもたちのなかでのヒエラルキーが早い段階ででき上がってしまうのです。小学校に入学した時点で、体操教室に通っていたために鉄棒で前回りが何回もできる子どももいれば、鉄棒なんて触ったこともないという子もいる。先取り教育によって小学校入学前に九九を覚えている子どももいれば、数字を覚えていない子もいます。しかも、幼い子どもは残酷ですから、「え? ○○ちゃん、こんなことも知らないの?」「こんなこともできないの?」というふうに、まわりの子に劣等感を植えつけるということもある。そうして、ヒエラルキーの下位になってしまった子は、劣等感の塊になってしまいます

そして、劣等感の塊になってしまった子どもに起こりがちなのが、できないことや苦手なことを「嫌い!」と思ってしまうこと。まわりの子どもよりできないから「鉄棒は嫌い!」「算数は嫌い!」というふうに思ってしまうのです。

「嫌い!」というのは“感情”ですから、親など周囲からの働きかけで解消させることは容易ではありません。だからこそ、たとえまわりの子どもたちから遅れていたとしても、なにかができたらしっかり褒めることが重要です。そうして子どもの自己肯定感を高め、「嫌い!」をつくらないようにしてください。子どもを褒めることが単純にいいわけではなく、いまの時代背景として、子どもの自己肯定感を高めるためにも、褒めることが必要になってきているのです。

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それは子どもの学力が伸びるサイン!
富永雄輔 著/廣済堂出版(2019)
それは子どもの学力が伸びるサイン!

■ 進学塾VAMOS代表・富永雄輔先生 インタビュー記事一覧
第1回:子どもを「“エンジンがでかい”賢い子」にするための、親の心得
第2回:“できない”意識を持つ子にすべき、超重要なこと「褒めて自己肯定感を高める!」
第3回:「ゲームや漫画は禁止!」が、子どもの“集中力の育ち”を阻害する理由

【プロフィール】
富永雄輔(とみなが・ゆうすけ)
京都府出身。進学塾VAMOS代表。幼少期の10年間をスペインのマドリードで過ごす。京都大学卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生までを対象とする進学塾VAMOSを設立。現在、吉祥寺校に加え、四谷校、浜田山校の3校を開校。入塾テストを行わず、先着順で子どもたちを受け入れるスタイルでありながら、毎年、首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る。受験コンサルタントとしての活動も積極的に行っており、年間300人以上の子どもたちの家庭をヒアリング。その経験をもとに、子どもの個性に合った難関校突破法や東大生を育てる家庭に共通する習慣についての研究を続けている。主な著書に『男の子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)、『女の子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)、『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)、『「急激に伸びる子」「伸び続ける子」には共通点があった!』(朝日新聞出版)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。