教育を考える/知育 2018.9.5

なぜ子どもは “電池で動く電車” を止めたがる? 発達心理学が教えてくれた「アナログ遊び」の魅力

中村桃子
なぜ子どもは “電池で動く電車” を止めたがる? 発達心理学が教えてくれた「アナログ遊び」の魅力

こんにちは、日本知育玩具協会認定講師の中村桃子です。

連載『知育玩具で育てる アタマとココロ』も、いよいよ最終回となりました。最終回は「幼児期・学童期にこそ出合わせたい、能力を育てる “アナログ遊び”」について、おもちゃの先生として親御さまにお伝えしたいことをお話ししたいと思います。

じつは私には、おもちゃの先生として活動していくうえで掲げている、個人的な理念、個人的な思いがあります。それは、「子育て中のすべてのご家庭に、電池の入っていない木の汽車のおもちゃが当たり前にあるようになる」というものです。

なぜ、木の汽車なのでしょう? じつはここには、私に「子どもの発達に合わせたおもちゃを選ぶことの必要性」を気づかせ、おもちゃの先生になろうと思い立ったきっかけにもなった、私の娘とのエピソードがあります。そのことについて少しお話ししましょう。

発達心理学が教えてくれた「アナログ遊び」の魅力2

子どもが「動いている電車」を止める謎

今から数年前のことです。当時、私の実家には、頂き物の「電池で動く電車&レールセット」が山ほどありました。そして、たまに実家に遊びに行くと、“孫のため” と、私の父がせっせと部屋中にレールを組んで待っていてくれるのです。最初の頃はそれをありがたく思っていたのですが、ひとつ大きな問題がありました。

なんと、つながれたプラスチックのレールの上を電池でビュンビュン走る電車を見るや否や、当時2歳間近だった娘が、動いている電車という電車を全て止めに入るのです……! 当時は、私を含めて家族みな、娘のその行動が何を意味しているのか、さっぱりわかりませんでした。

ちょうどそんなとき、(社)日本知育玩具協会のキッズトイ・インストラクター®2級養成講座に参加し、発達心理学に基づいたおもちゃの選び方・与え方を学びました。そこで初めて、私は知ったのです。「なぜ、2歳手前の娘は動く電車を止めたのか?」ということを。

「木のおもちゃ」が知育におすすめな理由。五感を刺激し、集中力を育んでくれる!
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子どもは “心の中で” 汽車に乗る

この時期の子どもたちは、自分自身が汽車そのものになって、想像することを楽しむもの。だから、「自分で動かす」ことがとても大切だったのです。

皆さんも見たことがありませんか? 子どもたちが汽車遊びをするとき、その目線が、汽車と同じ高さになっている光景を。

発達心理学が教えてくれた「アナログ遊び」の魅力3

そう、あれは、自分が汽車になって、日常生活で見たものや感じたことを汽車に投影させているのです。時に速く、時にゆっくり、自分のスピードで動かしながら自由に時間を伸び縮みさせ、五感で受け止めた世界を再体験する。この時間が、子どもたちにとって必要不可欠な時間であり、感受性や想像力を豊かに育んでいくのです。

ですから、2歳の娘が、電池で勝手に動く電車を止めるのは当然だったのですね。

そして木の汽車は、時にバスになり、タクシーになり、自由自在にその役割を変えていきます。これがアナログおもちゃのすごいところ。素朴でシンプルなデザインの木の汽車だからこそ、子どもたちのファンタジーの世界は無限に広がっていくのです。

「木のおもちゃは温かみがあって良さそう」もちろん、これも正解です。しかしそれだけでなく、「子どもの発達について学び、おもちゃを与えることで、子どもの満足度は全然違う」ということを、私はキッズトイ・インストラクター®️養成講座で学び得たのです。

誰だって、我が子が遊びに没頭し集中する姿を見るのは嬉しいもの。
だったら、そのように思えるご家庭をこの手で増やしていきたい。

先ほど述べた、私の個人的な理念「子育て中の全てのご家庭に、電池の入っていない木の汽車のおもちゃが当たり前にあるようになる」というのは、どのご家庭でも、幼児期に良いおもちゃでたっぷり遊んで、感受性・想像力を豊かに育む時間を手に入れてほしいということ。これが、おもちゃの先生として、私が皆さんにお伝えしたい根っこの部分なのです。

「遊びながら能力がぐんぐん伸びる」を叶える、発達心理学の学びのすすめ

さて、こうしてみると改めて、「子どもたちがどのタイミングでどんな知育玩具に出合うか」の大切さがおわかりになりますよね。今回は2歳の娘のことを例に挙げましたが、これが5歳だろうと8歳だろうと、同じことが言えるのです。

では、このタイミングを見極めるにはどうしたらよいのでしょうか? その方法として、発達心理学に基づいたおもちゃを選び、与えていくという方法があります。

発達心理学の礎を築いた、ロシアの言語学者ヴィゴツキー。彼は、子どもたちが遊ぶ様子に着目した研究の中で、「遊びとは、子どもたちが自分の能力のちょっと先(=最近接領域)の獲得のために活動するものなのだ」ということを発見しました。

これを言い換えると、子どもたちは次の成長段階に進むとき、「遊び」という方法を使って自ら成長していくということです。

子どもに知育玩具を買ってあげると、私たちは、すぐに上手に使いこなせるようになり、遊び続けてほしいと思うはず。しかし、それには少し注意が必要です。

大人はつい「上手に遊ぶ」という “結果” に目を向けてしまいがち。でも、子どもの楽しみは、上手に遊べるようになるまでの “プロセス” の部分にあるのです。つまり、上手に遊べず試行錯誤している過程が楽しいということ。あたかも急にできるようになったかのように大人の目に映る出来事にも、「試行錯誤の中で小さな小さなステップを踏みながらようやくできるようになった」という過程がひそんでいるのです。

「結果、結果」で見てしまうと、子どもたちが最も楽しんでいる姿を見逃してしまうということを、親御さんは心に留めておくとよいでしょう。

発達に合わせた知育玩具を選び、与えることで、子どもの心は満たされていきます。すると、お父さんもお母さんも、我が子と一緒になって遊べるように変わっていきます。そして最終的に、我が子の心にしっかりと寄り添える親御さんになり、結果お子さまは、自分を信じる強い心を持った子へと成長していくことでしょう。

発達心理学が教えてくれた「アナログ遊び」の魅力4

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さて、最後になりますが、知育玩具とは「自分の心・体・頭を使って “幸せになる力” を育てるおもちゃ」だということを改めてお伝えしておきます。そのためには、私たち大人が、良い知育玩具を選び、子どもたちに出合わせてあげなくてはなりません。子育て中の皆さんにはぜひ、子どもが五感を総動員させられる良い知育玩具を選べるようになっていただきたいと思います。

たくさんの “アナログの遊び” の経験を積んで、自分を信じる力を持った子どもがたくさん育つことを、心から楽しみにしております。

監修:(社)日本知育玩具協会