教育を考える 2019.11.20

学校で褒められる「いい子」に要注意! いい子に見えるのは“心の問題”のサインかも

学校で褒められる「いい子」に要注意! いい子に見えるのは“心の問題”のサインかも

思春期に差しかかった子どもになんらかの心の問題が起きるかどうかは、基本的な性格ができあがる10歳頃までの子育てのちがいが大きい——。そう主張するのは、精神科医で青山渋谷メディカルクリニック名誉院長の鍋田恭孝先生(第1回インタビュー参照)。思春期の子どもが抱えやすい問題の典型例と、親の対処法について教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

親の規則へのこだわりが規則にこだわる子どもをつくる

前回は、思春期に典型的に見られる問題を抱えた子どもとして、「自分の主張がない、自分で選べない子ども」「不安や緊張が強い子ども」について、その原因や、思春期に至るまでの子育てにおける注意点をお伝えしました(第2回インタビュー参照)。

今回は、「規則にこだわる子ども」「周囲の期待に応えすぎた子」というふたつのケースについて、同様に原因や子育てにおける注意点をお伝えしましょう。まずは、「規則や役割にこだわる子ども」のケースについてです。

こういう子どもの親には、ふたつのタイプが見られます。ひとつは親自身が規則にこだわる傾向にあるというタイプ。自分がなんらかのパターンを大事にすることで安心感を得られるがために、子どもに対しても「朝は○時に起きなさい」「帰ったら必ず手を洗いなさい」というふうに規則を押しつけるわけです。

このパターンを大事にするのは、人間なら多かれ少なかれ持っている性質です。たとえば、神社にお参りするとき、多くの人が「二礼二拍手一礼」をきちんとするでしょう。だけど、なぜそうするのかという理由や意義を知っている人はそう多くないはずです。それでもそうするのは、決まった規則を大事にすることで「きちんと規則を守ったから大丈夫」というふうに安心感を得られるからなのです。

ところが、そういう気質が強すぎる親の場合、子どもにも自分がいいものだと思っている規則を強要するようになる。そうして、子どもも規則にやたらとこだわるタイプになってしまうのです。

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表面的に「いい子」に見えても、不安を抱えているケースもある

また、こういう子どもの親にありがちなもうひとつのタイプは、子どもを放っておく親です。子どもが自分でなにかを決めなくてはいけないというとき、親に放置されているがために自分だけでは決められず、なにかの規則やパターンに頼るということになってしまうのです。

いまの話に表れているように、規則にこだわる子どもは、自分でなにかを決められない、主体性が育ちにくいということが大きな問題点です。先にお話した、決まった時間に起きるとか、帰宅したら手を洗うというようなことは、自分で自分をきちんとコントロールしようとしているというふうに、いいことのようにも思えますよね。そういう子どもは、表面的にはいわゆる「いい子」に見えるでしょう。

ところが、表面的にはそう見えても、その裏で子どもがなんらかの不安を抱えているということもあり得ます。そう考えると、子どもがなにかの規則に妙なこだわりを見せはじめたら、心の問題を抱えているかもしれないというサインにもなるのです。そのサインが見えたら、子どもがなんらかの不安を抱えていないのか、しっかりと対話をすることを心がけてあげてください。

それこそ、学校の先生から「お子さんは完璧です」といわれるような「いい子」こそ、要注意。主体性が育っているかどうかという面からいえば、ときには「先生のいっていることってばかばかしい」なんていって反抗することも決して悪いこととはいい切れません。我が子が本当に「いい子」なのか、それともなんらかの不安を抱えているのか、きちんと子どもに向き合ってほしいと思います。

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期待に応えすぎる子どもは打たれ強さが育たない

では、「周囲の期待に応えすぎた子」のケースはどうでしょうか。親など周囲の期待に応えてくれるのですから、先述した「いい子」ではありませんが、好ましいことに思えます。でも、このケースも決していいことではありません。

いま、「褒めて伸ばす」ことがいいと盛んにいわれますが、それが、親の期待していることができたときだけ褒めたりよろこんだりしたとしたらどうでしょうか。親の期待を裏切ったときや、親が見たくない姿を子どもが見せたときは否認する……。子どもは、親の期待に応えようと必死に頑張るでしょう。

でも、どんな人間にも必ず弱点や欠点はあります。それらは、子どもが思春期になったときに得る「メタ認知」の力によって子ども自身にも見えるようになってきます(第1回インタビュー参照)。でも、自分は親の期待に応えてきた素晴らしい人間だと思っているのですから、理想の自分と現実の自分のはざまで自己愛が揺らぎはじめることになる。そうして、自分の弱点や欠点を受け入れるという打たれ強さが育っていないがために、心に大きな傷を負うことになってしまうのです。

親は必ず子どもに期待するものです。だけど、その期待に応えられないことがあっても当然ですよね。子どもがテストで100点を取ってきたときには、思い切り褒めて親自身もよろこんでいいでしょう。でも、たとえ50点だったとしても、そのときに過剰にがっかりした姿を見せることなく、「こういうこともあるよね」「次はどうしたらいいと思う?」と、しっかり子どもを受け止めてあげてほしいと思います。

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10歳までの子を持つ親が知っておきたいこと
鍋田恭孝 著/講談社(2015)
10歳までの子を持つ親が知っておきたいこと

■ 青山渋谷メディカルクリニック名誉院長・鍋田恭孝先生インタビュー一覧
第1回:思春期の問題は学童期からはじまっている? 10歳までの親子関係が大事な理由
第2回:「不安先取り型」の親が生む、思春期の子どもの問題
第3回:学校で褒められる「いい子」に要注意! いい子に見えるのは“心の問題”のサインかも
第4回:子どもを見えなくさせる「期待と不安」というフィルター。親子は一心同体?

【プロフィール】
鍋田恭孝(なべた・やすたか)
愛知県出身。医学者、精神科医。青山渋谷メディカルクリニック名誉院長。慶應義塾大学医学部卒業後、同精神神経科助手、講師を務めたあと、宇都宮大学保健管理センター助教授、防衛大学精神科講師、大正大学人間学部教授などを経て、2012年度まで立教大学現代心理学部教授。各大学病院では、思春期専門外来、うつ病専門外来、精神療法専門外来を担当し、研究・臨床にあたる。とくに、うつ病・対人恐怖症・引きこもり・身体醜形障害の治療に携わる。現在、不登校・対人恐怖症・引きこもりなどの若者のために成長促進的な治療を推進する青山心理グローイングスペースを運営し、名誉院長を務める青山渋谷メディカルクリニックにてうつ病・神経症などの臨床に従事している。著書に『摂食障害の最新治療 どのように理解しどのように治療すべきか』(金剛出版)、『身体醜形障害 なぜ美醜にとらわれてしまうのか』(講談社)、『思春期臨床の考え方・すすめ方 新たなる視点・新たなるアプローチ』(金剛出版)、『変わりゆく思春期の心理と病理 物語れない・生き方がわからない若者たち』(日本評論社)、『対人恐怖・醜形恐怖 「他者を恐れ・自らを嫌悪する病い」の心理と病理』(金剛出版)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。