世界で活躍しているスポーツ選手は、幼いころからそのスポーツだけに集中して取り組んでいるイメージがあります。そのせいか、わが子に対しても「小さいうちにやらせなきゃ」と焦って、サッカー教室やテニス教室などに通わせている親御さんも多いようです。
しかし、幼児期~児童期は、運動能力の発達において非常に重要な時期。近ごろでは、特定の競技で運動バリエーションを制限するのではなく、種目を越えた運動を経験させることを優先しようという動きが出てきています。
ここでは、「スポーツの基礎技能」を身につけられる、とっておきのプログラムについてお伝えします。子どもが将来、自分でやりたいスポーツを見つけたときに、必ず役に立ちますよ。
バルシューレってなに?
ドイツで生まれ、最近では日本でも教室が増えている習いごと『バルシューレ(Ballschule)』。「ボールスクール(Ball school)」を意味するこの運動プログラムは、ボールを投げる、蹴る、跳ぶなどを組み合わせた120を超えるボールゲームで構成されています。スポーツに共通する基礎能力や社会性を幼少期に身につけることを目的に、ドイツ・ハイデルベルク大学スポーツ科学研究所で開発されました。
ドイツでは、バルシューレを通して基本的なボールの扱いかたを学びながら、自分の好きな競技を見つけていく仕組みがつくられています。その根底には、教科を学ぶ前に読み書きを覚えるように、スポーツを始める前に身体の動かし方を知ろう、というシンプルな考え方があるそうです。
日本には20年ほど前に導入されましたが、一般的にはあまり普及していませんでした。しかし昨今では、子どもたちの外遊びが激減し、オールラウンドな体力や運動能力を身につける機会が少なくなっている問題もあり、この「バルシューレ運動プログラム」が、種目横断的なボールゲーム指導プログラムとして注目を集めているのです。
さらに近年の研究によって、小さい頃から特定の競技のみを行なうことによる問題、つまり早期専門化の問題が取り沙汰されるようになりました。たとえば、ひとつの種目だけがずば抜けてできていてもほかの種目はできなかったり、大きく開花するはずの年齢に達する前に燃え尽きてしまったりという問題が危惧されているのです。
だからこそ、あらゆるスポーツ競技に共通する基本的な運動能力や、戦術力を向上させるための指導プログラムとして『バルシューレ』が世界中で注目を集めているのでしょう。
非言語コミュニケーションを育むプログラム
バルシューレは次の3つの領域から成り立っています。
1. A領域:プレイ力の育成(45種類)
戦術の基礎を養う。子どもたちは遊びの中から解決策を見出す。
- 位置取り(正しいタイミングでプレイコート上に最適な位置取りをする)
- 個人でのボール確保
- 協働的なボール確保
- 個人での優勢づくり
- 協働的な優勢つくり
- 隙の認識(パスやシュート、突破のチャンスを与えるような隙間に気づく)
- 突破口の活用 など
2. B領域:身のこなしの育成(40種類)
運動協調性を育てる。さまざまな条件に対応できる身体の使い方を習得する。
- 時間のプレッシャー
- 正確性のプレッシャー
- 連続対応のプレッシャー(次々と連続する課題に対応しなければならないプレッシャー)
- 同時対応のプレッシャー
- 変化のプレッシャー(変化する周りの状況に対応しなければならないプレッシャー) など
3. C領域:モジュールスキルの育成(40種類)
技術力を高める。先取りする能力、ボールに対する調整力を身につける。
- 軌道の認識(飛んでくるボールの距離、方向、速さを先取りし知覚する)
- 味方の位置、動きの認識
- 敵の位置、動きの認識
- ボールへのアプローチの決定
- 着球点の決定
- キャッチ、キープのコントロール
- パス、シュートのコントロール など
たとえば、「敵の穴を見つけよう」「飛んでくるボールのところに走りこもう」という指導プログラムがあります。これらは単純に走る、投げる、蹴るなどの技能だけを身につけるのではなく、判断力や空間把握能力を養うプログラムになっています。つまり、刻々と変化する状況の中で周りの状況を把握して判断し、自分の身体をどうやって動かせばいいのかを考える力にもつながっているのです。
このように、チームスポーツで必要とされる『非言語コミュニケーション』が身につくこともメリットのひとつです。
講師の役割
バルシューレの特徴として、講師からは「投げ方」や「蹴り方」などの具体的な技術指導がない、という点が挙げられます。
バルシューレの講師に求められるのは、子どもたちの自由な発想を大事にし、潜在的に備わっている能力を忍耐強く引き出す力です。また、ひとりひとりの考えや成長を認めて積極的に褒めるように努めます。
ゲームのルールは教えても技術指導を行なわないのは、「どうやったらうまくできるか?」を子ども自身に考えさせることが目的だからです。子どもたち自身で考える時間やチームで話し合う時間を大切にしつつも、適切なタイミングでヒントを与えてサポートすることが、指導者としての重要な役割だといえるでしょう。
バルシューレは子どもをどう変える?
バルシューレで身につくといわれている能力は次の3つです。
【1】球技に必要な基礎運動能力
- ボールを使う力
- 自分の身体の使い方
- 戦術理解
【2】自己肯定感
- “そうぞう”(想像、創造)してチャレンジする力
- 自己発信力
- 意欲的に問題を解決する力
【3】変化に対応する力
- コミュニケーション力
- 多様性の理解と受け入れ
- 忍耐力と柔軟性
また、ゲームを通して、自分の立ち位置や集団の中でどう動くかを学ぶ『空間認知能力』も育まれますし、仲間たちとゲームに取り組むことで『自発性』や『社会性』『リーダーシップ』も育ちます。
最後に、幼児でもできるボールゲームの一部をご紹介します。親子で遊ぶときやお友だちと遊ぶときの参考にしてみてください。
ボールかご入れ
フィールドに置かれたカゴにボールを入れます。歩いていって入れる、投げて入れる、動くカゴを追いかけながら入れるなど、年齢や経験に応じて変化させましょう。ボールと目標物との距離感をつかむ感覚が磨かれることで、空間認識能力が高まり、着球点を決定してパスやシュートを決める能力を伸ばします。
ボール運びリレー
ボールを持って走り、次の友だちに渡すというリレーをベースに、ボールを蹴って走る、ディフェンダーを避けながら走る、など変化をつけましょう。正しいタイミングで最適な位置取りをして、協働的なボールの確保ができるようになります。また、パスやシュートなど突破のチャンスになるような隙を認識する能力が高まります。
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『バルシューレ』によって、特定の種目に取り組むことでは得られにくい “オールラウンドな基礎運動能力” が向上すると、将来どんなスポーツにも挑戦できる能力を得ることができます。
「ボールを蹴るのは苦手だけど、投げるのは得意」といった子は意外と多いもの。しかし、ひとつのスポーツで評価されてしまうと、自分の能力に自信が持てずに、スポーツ自体を嫌いになってしまいます。自分の向き・不向き、好き・嫌いに気づくことができるのも、『バルシューレ』の魅力ですね。
(参考)
バルシューレ東京|バルシューレについて
特定非営利活動法人Ballschule|バルシューレとは
産経デジタル|ボール遊びで運動離れ防げ ドイツ発祥、子供向け「バルシューレ」教室が開校
東京成徳大学・東京成徳短期大学|「バルシューレ」とは
特定非営利活動法人Ballschule|バルシューレの運動プログラム
コドモブースター|バルシューレってどんな習い事?子どもの能力を伸ばす秘密や料金は?